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石川県加賀市 八幡神社の大杉(菅谷の三又スギ)


SONY α7RIII / SONY FE 24-105mm F4 G OSS SEL24105G

夜明けと共に「栢野の大スギ」と対面して既に充足感に満たされた状態ではありますが、なんと栢野の大スギから大聖寺川を隔てて車で数分の距離に、またも国指定天然記念物の大スギが存在するという。これは行かないわけにはいくまいと向かった先がこの「八幡神社の大杉」。菅谷の集落に位置するため「菅谷の三又スギ」とも呼ばれる杉の巨樹です。遠目にも間違いなくあの杉だろうと確認できるほど突出したその姿に期待は高まるばかりなのでした。


鳥居をくぐった先に臨むその立ち姿。本音を書かせていただきますが、この時点で胸の鼓動が収まり始めると言いますか、これはちょっとおかしいのではないかと疑問を感じ始めることになります。


この情報は事前に仕入れてきたとおりでもありますが、樹齢2,300年に樹高54m。これはほぼ栢野の大杉と対等に張れる数値です。当然樹齢については伝承によるものなので真に受けてはいませんでしたが、それでもやはり国天指定された杉であることからも期待外れで終わることは無いだろう、それなりに何かを語りかけてくれる巨樹には違いあるまいと思いこんでいたわけです。


実際に対峙した感想を分かりやすい一言で、率直に申し上げます。
「解せぬ。」
もう一度言いましょう。「解せぬ。」


栢野の大スギにしても樹齢2,300年は明らかに盛りすぎでしょう。大切なのはそんなことではありません。それでも栢野の大スギからは想像を絶する時間を生きてきたものが発する重み、静かな重圧のようなものが感じられました。しかしこの杉からはそのようなものを感じられない。言うまでもなく樹齢2,300年は盛りすぎです。この杉については様々な伝承が残されているそうですが、樹齢700年という説もあるそうです。自分が見た感覚で述べさせていただくなら、せいぜい500年かそこらではないかと思います。それはあまりにも健康的に過ぎるし、樹皮が若すぎる。


伝承によると本来単幹の杉の巨樹だったものを村人たちが伐採して帆柱にしようとしたところ、次の朝には三つの枝に分かれており、帆柱に適さない形になっていたのだとか。目先の利益に囚われて本当に大事なものを切り捨ててはいけませんよ、というのが寓意でしょうか。ああ、こんなものにまでケチを付けようという僕は小さい人間なんです。己の器の小ささが本当に嫌になる。でも、この寓話?伝承?にしても他所で同じような話を聞く程度の話ではあります。

樹高は確かに大したものです。54.8mはまあ多少の誤差こそあれ、樹齢ほどこの巨樹を飾り付けるほどのものでもないでしょう。理解できないのは、何故この巨樹が国の天然記念物に指定されたのだろう、と。この巨樹を指定するくらいなら、例えばこの次に県指定天然記念物の大杉を見に行ったんですが、そちらの方が何倍も凄まじい個性的な巨樹であり、国天だと言われても納得できるようなものでした。いや、そんなこと言わずともこれ以上に凄い巨樹なんていっぱいある。あの巨樹やあそこの巨樹も。単幹から三又に分かれているのがそんなに珍しいんでしょうか。僕にはちょっと分かりませんでした。しかしもしこの巨樹の素晴らしさを理屈で説明されようとも、この巨樹から何も感じなかったという主観の方を大事にしたいと思うのです。


何処かで見た五本杉のように国天指定された杉を己の名誉に利用しようという、あまり気持ちの良いものではない感情(いや、これも自分の受けた印象でしかないんですが)を感じるわけではないし、この杉を見て悲しい印象を受けたり不快に思うわけでもない。ただただこの杉がここまで評価されていることが理解できないのです。


案内板に女性的だと書かれていましたが、まさにそう、しなやかにスッと天に伸びるその姿は、荒々しく男性的な北陸のウラスギたちと比較するとスラッと背筋の伸びた都会のOLのような印象です。そういう意味では他の杉たちと比較してこの杉を論じること自体が間違っているのかもしれません。でも、ねえ。他の数多の巨樹群と比較して、この巨樹だけに突出した比類なき何か、または後世に伝えるべき何かがあるからこその国指定天然記念物なのではないでしょうか。(これが国天ならウチの地元の高さ日本一を誇る三本杉「大悲山の三本杉」だって国天だよ、なんて思ってしまう私は小さい人間なのです。)


側には次世代を担う三又スギの姿も見られました。三又に分かれる「股」の部分の形状も何となく似ていて、まさに大杉の子供なんだなとニヤッとしてしまいます。


決して悪い杉ではないんです。ただ栢野の大スギが良かっただけにその高まるばかりの期待値と、必要以上に自身を飾り付ける国天という名のバッジ、盛りに盛られた樹齢など、周囲の人間が勝手にこの杉を期待外れなものへと追い立ててしまった感があります。静謐な神社にそびえ立つ大杉。それだけの情報だけでこの巨樹と対面することができれば、僕ももっと素直にこの杉の魅力を受け入れることが出来たのかもしれません。そう考えるとちょっと残念な気もします。

「八幡神社の大杉」(菅谷の三又スギ)
国指定天然記念物
樹齢 伝承2,300年(700年との説もあり)
樹高 54.8m
幹周り 8m

 

コメント:4

18-11-18 (Sun) 21:38

こうして早朝アタックで素晴らしい栢野の大杉を見た後で、しっかりと個別の評価ができるto-fuさんはさすがだと思いました。
一度雰囲気いい土地柄だと感じてしまったら、僕だったらそれに呑まれてこちらもそれなりに褒めていたかもしれません。
しかし、写真を見るに、ほんとにまた「この樹が悪いわけじゃない!」という言葉を来年の巨樹名言カレンダーに載せたいくらいですけれども……。笑

やはり本数見てくると、コレは例えるならアレだな的に、ライバル関係もしくは比較対象が浮かんできますね。
この樹の場合、僕は地元茨城の「御岩神社の三本杉」を想像しました(URL入力欄に僕の訪問記事を貼っときます)。
3本分岐なのはもちろん、幹周8.5m、高さ約50メートル、樹齢500年の県天、まさにソレがどんなものかという「例えば」としてピッタリ!笑
うーん、そうですね、その比較をしてみても、確かにこちらの杉はかなり若く見えてしまいます。
枝打ちされた後もなくてスベスベの肌が不思議なくらいで、この辺りがまた気迫のようなものを纏えていない原因になっているのかも。
やはり肝心なのは前に立った時に感じる生命の重みというべきものだと思いますが、それは別に霊感でも何でもなく、生きてきた境遇が過酷であれば長さは短くても重く感じるというような現実なのだと思います。
この杉はきっと恵まれた環境ですくすく育った幸せな杉なんじゃないかなと、まあ、写真だけの判断はいけないなとは思いつつ。

それにしたって2300年は盛りすぎ。誰かくだんのハカセを止める人はいなかったのかよ。
こういう例を繰り返してると、国天もだんだん話半分になってしまうぜ。
しかし我々物好きとしては、「こっちのがよっぽどスゲエ!」遊びはけっこう痛快で楽しいという。
いやー、今日行った茨城の山奥の杉がかなり良くてですね……県天、そして茨城なめんなよと言わせていただきたい。笑

to-fu 18-11-18 (Sun) 23:32

> 狛さん
いえいえ、冷静な評価ができないくらいに舞い上がっていたと思うんですが、現地に着くなりみるみる気持ちが萎んでいくのが分かりましたからね。何だか温泉地特有の雰囲気も凄く良いし、周りが勝手にハードルを上げてしまっているような気がして本当に気の毒な杉でした。こうして見ても貧相なわけではないし、立派な巨樹だとは思うんですけどねえ…

「この樹が悪いわけじゃない!」は本当に巨樹あるあるですよね。
分かるんですよ。地元の誇りとして持ち上げたい気持ちは。
でもお前、盛るにしても限度があるだろうと。あとホント、天然記念物指定にどんな選考基準があるのか知りませんが、真偽不明の伝承と眉に唾を塗りたくなるような樹齢を軽々と信じてハイどうぞと言わんばかりに国天の称号を与えてしまうのは如何なものかと思います。これじゃあ言ったもん勝ちじゃねえか。選定する以上は納得できるだけの根拠を示してもらいたいですね。

茨城は奥が深いですよ。軽く片鱗に触れただけの僕ですらもう一度行きたいと思う巨樹が何本もあります。波崎の大タブを筆頭に、地蔵ケヤキにも出島のシイにも行きたい。山間部ならまあ分かりますが、関東平野ののぺーっとした田園地帯にも普通に巨樹さんがいらっしゃいますからね。凄いところだと思います。

RYO-JI 18-11-20 (Tue) 0:02

いやー、人間というのは罪深い生き物ですよねぇ。
いきなりナンノコッチャな意見ですが、人間の勝手な事情でこういう解せぬ事態が起こる訳で。
こういうのは巨樹以外にも多々見受けられ、そのたびにウンザリしてしまうんですよねぇ。
個人的には何処とは言いませんが、そういう業界にはほとほと呆れていて・・・。

話を元に戻しましょう。
可哀想なのはこの巨樹の方なんですよね。
身の丈に合わない役目を負わされてしまって不憫でなりません。
一植物としては、そんな期待や格付けなんかいらないんですよね。
むしろ放置してくれと、好きに生きる環境さえあれば幸せなんだよーという声が聞こえてきそうです。

それでもこのスギは、充分素晴らしいと思います。
樹高も見事だし、貴重な存在だと思います。
近くにあれば絶対に見に行ってますし、喜んで帰っていると思います。
ただね、国天の称号が余計なわけですよね。
あぁ、本当に不憫。

to-fu 18-11-20 (Tue) 13:51

> RYO-JIさん
巨樹の世界に限らず、わりと色々なところに転がっている話ですよね。
身の丈以上に良く見せたいと思う気持ちは理解できるし、まあ地元の誇りだし少しくらいなら嵩増ししちゃってもいいんじゃない?とは思わなくもないのですが、何にせよまあバランス感覚が大事というか、そういうのは見た人間が不自然に感じないくらいに抑えといてほしいです。理想と現実があまりにも大きく乖離しちゃうとやっぱり白けちゃいます。

本当に何度目だろうってフレーズですが、このスギには何の罪もありませんからねえ 笑
皇紀に合わせて2,300年伝説を語ったのも天然記念物の称号を与えたのも全部人間が勝手にやったことですから。文句をスギに言ったところで、きっと「知らねえよ。悪かったな、もう帰っていいぞ。」くらいにしか思ってくれないでしょう。いやでも何でこのスギが国天なんだろう。全く理解できません。

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