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徳島県美馬郡つるぎ町 赤羽根大師のエノキ


SONY α7RIII / SONY FE 24-105mm F4 G OSS SEL24105G

やって来ました、つるぎ町。いきなり到着ということで道中をショートカットしていますが、これがまた物凄い立地でした。山道からの脇道へ。そこから離合困難な狭路をつづら折りにグングン登っていくという…もうこの手の道はアレですね。対向車が来たらどうしようとかバックする技術が云々ではなく、もう単純に対向車が来ないことを祈りながら進むしかないという、そんな道程。しかしその先に待つのが日本一のエノキだとされる「赤羽根大師のエノキ」ですから、我々としては避けて進むわけにもいきません。

つづら折りの狭路をドン突きまで進むと、ちゃんと駐車スペースがありますのでご安心を。とはいえ、駐車できるのは2台が限界でしょう。3台停めてしまうともう転回スペースが残らないような気がします。今回は狛さんの車に相乗りさせていただく形で私とRYO-JIさんの車を置いてきたのが幸いしました。3台縦列で走っていたら、まずつるぎ町の入口とも言えるここでリタイアすることが決定していたかも。(まあそれ以前に道中で対向車と離合できず大迷惑だったと思いますが…)


さて、車を停めてまずはこの案内板を眺めます。姥捨て山…この手の案内板に書かれた伝承は眉唾ものであることが多いんですが、ここつるぎ町に関してはどうしても史実である気がしてなりません。お代官様が最後ちょっと改心する形でいい感じに締められてますが、こいつはとんだクソ野郎ですよねえ。何がみんなで仲良く暮らせじゃボケ、とツッコまずにいられません。

そして最後に聞き捨てならない一文が添えられていました。なになに。ここ、つるぎ町一宇地区は八十八の巨樹を誇る「巨樹王国」である、と。過去それなりにたくさんの巨樹を見てきた我々からすると、馬鹿言っちゃいけねえ、何が巨樹王国だべらんめえ!(なぜか江戸弁)と一笑に付したくなりますが、この謳い文句に偽りなし、ということをすぐに思い知ることになるのでした。いやいや凄いところですよ、つるぎ町は。


前述のとおり日本一のエノキの巨樹ですが、実はつい20年ほど前まではエノキではなくムクノキだと思われていたのだそうな。平成10年の巨樹の会の調査で、これムクじゃなくてエノキじゃないか?これはエライことだ!と突如脚光を浴びることになりました。ムクノキっぽいかなあ…と言われるとちょっと微妙な感じもしますが、では逆にこれを初見でエノキと見極められるかと問われたらワタクシ、答えは完全にノーです。エノキの巨樹といったらそこらの一里塚に植えられているギリギリ巨樹認定レベルのものしか見た記憶が無いし、この巨体を目の当たりにして初見でこれはエノキだな!と見極めることは相当に難しいのではないかと思います。いやホント、これがエノキなの?ウソでしょ?と言いたくなるくらい大きい。


これだけの山奥で何百年と生き続けているわけですから、当然我々の知る人里の巨樹のような頻度で樹木医の診断、治療を受けられるはずもありません。日本一認定を受ける以前は恐らく頻繁に余所者がやって来ることもなく、野生に近い環境で生きていたのでしょう。ほとんど全身を苔で覆われたその姿はどこか仙人じみており、山の守り神のような風格を感じます。


日本一認定後に整備されたと思われるウッドデッキ。残念ながら現在は枝の落下の危険があるということで立入禁止になっていました。うーん…ここまでやって来るようなマニアはきっと枝が直撃して大怪我を負ったとしても自己責任で納得できるような変態ばかりだと思われる(失礼)ので、もう少し近寄らせてもらえたら嬉しかった…というのが正直なところ。(もちろんいくら自己責任論を振りかざしたところで怪我人が出たら地元の方に迷惑がかかるのは間違いないわけで、立入禁止は正当なものだと理解しています。)

それにしても「落ちよるけん」というのが良いですね。○○したけん、○○じゃけん、というのは瀬戸内地方の方言なんでしょうか。徳島や香川、愛媛。それに本州側だと岡山や広島でも耳にする言い回しです。


極力エノキに負担がないようウッドデッキの設置にも工夫してるんですよ、ということが分かりやすく図解されています。ピンファウンデーション工法というのは簡単に言えば重機の必要ない簡素な施工方法で、かつ自然環境に与える影響が非常に少ないという夢のような施工方法。植物園や桜の老木の近くで同じようなウッドデッキをよく目にしますね。


正面(ウッドデッキ側)は撮影スペースがほぼ無い状態で構図が大きく制限されるので、巨樹の裏手へと回ってきました。おお、こちらから眺める方が樹形がよく分かりますね。それにしても…巨樹は一旦置いといて、なんて気持ちの良いところなんだろう 笑 鈍感な自分にも空気の質が違うということが分かる。徳島県の平野部だって、きっとそれなりに自然豊かで空気が綺麗なんだと思いますよ?でもここは質が全然違う。大きく呼吸すると体の隅々の細胞まで喜んでいるのが伝わって来ます。前夜のお酒で死滅しかけているニューロン君とシナプス君が歓喜しているのが分かりましたからね。本当にのどかで心地良い。いえ、のどかというよりはある種の神聖さすら感じられる。神の庭、的な。


ゴツゴツして逞しい幹。
ここだけクローズアップすると、まさかこのぶっとい幹がエノキのものだなんて考えられません。


エノキの寿命が本来どの程度であるのか知りませんが、少し見つめてみるだけでもこの巨樹がもう樹種としての平均寿命を大きく飛び越えてしまっているのだと分かります。枝の半分ほどはもう葉を付けることもなく白骨化しているか、あるいはキノコの菌床となって生命活動を終えている。それこそちょっと小突いただけでポキッと折れてしまいそうな枝ばかりです。ここまで来るともう回復を望めるようなレベルではなく、延命治療で命を薄く引き伸ばす以外に道はないように思えました。


枝の切断面だけでなく、表皮にもびっしりとキノコが張り付いています。せめて除去してあげればいいのに…と思わなくもありませんが、恐らく既に菌糸が広がっていて手遅れなのでしょう。悠久とも思える時を生きる巨樹ですが、樹木にだって寿命はある。残念ですが、このエノキが今後何百年も生き続けることは難しいでしょう。そう遠くない日に、その時が訪れてしまうのではないか。そんな気がします。


遥か先に見える山の斜面にも同じようなつづら折りの集落が確認できます。奈良県の十津川村が日本のチベットなんて呼ばれてるけど、十津川はまだまだ都会だよなあ…チベット度(謎指数)ではつるぎ町の方がずっと上だよ。

ちなみに右下の建物は地域の方の寄り合い所のようになっているみたいで、我々もお茶はいかがですか?とお声がけいただいたんです。先を急ぐあまり丁重にお断りしたんですが、同行者のRYO-JIさんが後日調べた情報によると、実は我々が訪問した21日は毎月訪問客をもてなす風習があるのだそうで、急いでいたとはいえ何とも失礼なことをしてしまったと後悔しています。他人様の親切には黙って甘えておくのが旅の醍醐味なのかもしれませんねえ。


いやいや…巨樹の立派さもさることながら、この周辺環境ですよ。上下水道は当然整備されてないだろうし、最寄りのスーパーなんて1時間では到底辿り着かないでしょう。でも、こんなことを言うのも失礼かもしれませんが、限界集落特有の悲壮感が全く感じられないんですよね。人々はこのつるぎ町で当たり前に毎日を暮らしているし、もしアンケートを取ったら都市部で生きる人たちよりも確実に幸福度は高いんじゃないですかね。もし自分がここで生まれ育っていたら、どんな人生を送っていたんだろう…そんなことを考えずにいられませんでした。もう少し心穏やかな人間になれていたのかもしれないなあ。

また再訪したい!なんて口に出すことは簡単ですが、いざまたつるぎ町を再訪しようと思うとそれがなかなかに難しい。特にこのエノキなんて、下手すると自分が生きている間にはもう寄ることが出来ないかもしれません。それでもやっぱり無責任にも「また会いたいなあ。」なんて想いに耽ってしまうし、例え自分が再訪できなかったとしてもあの土地で少しでも長く生きてほしいと願って止みません。

2019/5/21訪問
「赤羽根大師のエノキ」
国指定天然記念物
樹齢 約800年
樹高 18m
幹周り 8.7m

コメント:4

RYO-JI 19-08-29 (Thu) 22:52

ほんと貴重なエノキですよね、これ。
デッキ側からの姿がとても印象に残っています。
もちろん高台側からの全形も良かったんですが、それ以上に周囲の景色に見入ってしまいました(笑)。
いや、ほんとつるぎ町に完全に気圧されました。
確かに十津川村の方が都会ですよ(笑)。

おっしゃるように寿命はもう長くないかもしれませんね。
それでも人間からは想像もつかないような生命力を持っている樹々ですから、
この先まだ数十年は持ちこたえて欲しいと勝手な期待をしてしまいます。

to-fu 19-08-30 (Fri) 9:39

> RYO-JIさん
デッキ側から見た初見のインパクトは印象に残りましたね。え?これエノキなの?って。
私の一番身近なエノキの巨樹というと、奈良へ向かう途中の24号線の木津川堤防に生えている「国道のエノキ」なものですから
あまりの違いに驚きました。(余談ですがあのエノキ、全ての枝をバッサリ行かれちゃって無残な姿に変貌してます…)
食事処がそれなりに点在してるというだけでも十津川村はつるぎ町よりずっと都会です 笑

本当に長生きしてもらいたいですねー。あのエノキあってのあの景色ですよ。
我々が再訪できたとき、あの桃源郷にでもいるかのような浮世離れした風景がそのまま残っていてくれたら最高ですね。

19-08-30 (Fri) 9:53

十津川が都会とか、なんともすごいことを言っておられますが……僕もそう思います。笑
つるぎ町のあの辺の感じは、もはや空中にぶら下がっているかのような印象です。
もし3台連ねて行ったら、ジムニー隊でも苦労すると思いますね。やはりオフロードバイク……

そうそう、運転してたスリルが焼き付いていて自分の紀行文に書くの忘れてましたが、ここの空気は下界とくらべて確実に、すごくうまかったですよね!
ものが空気だけに表現が難しいですが、なんだこれ、すごくいいぞ……降りるまでにできるだけ吸っておきたい! と思いましたもんね。

日本一のエノキと言われ、見れば確実に威厳ある巨樹だとわかるんですが、スギやクスのような巨大さはないし、一般の観光客の方々がどこまで楽しめるものか。
いや、それ以前にここまで辿りつくことがかなり難しいと思うし、マニア向けの巨樹だなと思いました。
むしろこの秘境感を味わう方が価値が高いとも言えますが、それにおいて、この大エノキが灯台の役割をして我々を導いてくれたことに間違いはない。
もちろん、この先もできるだけ存命でいてほしいですが、もし倒れるようなことがあったとしたら、この尾根はなおさら人気を失ってしまうでしょうね。
つるぎ町が大げさに(そうでもない?)巨樹で町おこしをするのも、こうした地域に人の目を向けて守っていくために有意義な活動なのだろうと思います。
そこまで派手な経済効果はなさそうだし……。

なんやかんや言っても、現地の方々ののんびりした暮らしの雰囲気は、僕も心地よく感じました。
もしここに住んだら……なんてことを思わず考えてしまう場所でした。

to-fu 19-08-31 (Sat) 16:42

> 狛さん
僕が若い頃、人生というワインディング・ロードに迷った友人たちがこぞってバイクで四国一周をしていたのを思い出します。
あのつるぎ町にせよヨサクにせよ、本当にディープエリアを楽しもうと思ったらバイクでないと厳しそうですよね。
無理やり登ることは出来ても駐車スペースがないようなところが多すぎます。

巨樹による町おこしで思い出したんですが、美馬や貞光のあたりから定期的に巨樹ツアーが開催されているみたいですよ。
いくら人数が少ないとはいえマイクロバスくらいは出すんでしょうけど、あの山道登れるの?と心配になっちゃいますが。
地元の荒くれ…いえ、巨樹のプロフェッショナルに説明してもらいながら巡るというのもなかなか興味深く、
もし機会があれば一度行ってみるのも悪くないかな、なんて考えています。

こうしたイベントも狛さんの仰るように地域に人の目を向けるための活動なんでしょうね。とても儲けが出るとは思えない。
あの辺りの集落が廃村になるのが先か、エノキが倒壊してしまうのが先なのか。人の気配と地域の象徴であるエノキ。
そのどちらかが失われてしまっただけで、あの辺りは本当に悲しいことになってしまいそうです。
灯台の役割という表現、とてもしっくり来ます。末永くあの地域を照らし続けてもらいたいものですね…

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