- 2023-08-28 (Mon) 17:04
- FUJIFILM GF 20-35mm F4 R WR | ナラ・ブナ | 巨木たち(地域別) | 巨木たち(樹種別) | 青森県
FUJIFILM GFX50S II / FUJIFILM GF 20-35mm F4 R WR
この夏家族で秋田県の北端を目指すことになった私ですが、絶対にこれだけは見に行かせてくれ!と頼み込んだのがこちらの巨樹。
この機会を逃すと十和田湖北端の山中に位置するこの日本一のブナの木に出会うチャンスがあったかどうか。
今回の旅において、先日紹介した「レークサイド山の家前のカツラ」はこの巨樹へ至るまでの中ボスでしかなかったのです。
ええ。思えばとんでもないところまで来てしまったものだ。つい三日前まで私、京都にいたんですから。
美しい十和田湖畔、そして十和田八幡平に目を奪われますが、いちいち車を停めて撮影していると日が暮れてしまうため、途中からは巻きで向かいました。
遭難多発区域。携帯の電波もGPSもつながらないぞ、と。関西圏ではあまり見かけない看板にビビりながら山奥へと進みます。
現地到着。山の中へと道が続いており、ここで間違いなさそう。
「熊に注意」の看板がわりとガチめの恐怖を誘う。いや、本当にこの辺りはツキノワグマ被害のメッカですから。
かなりビビりながらもクマ除け鈴×2個、スマホから大音量BGMの二段構えで突撃しましたがそれでも恐怖でした。
ソロでやって来た私が言うのも何ですが単独での訪問は控えた方がよいでしょう。クマ除け装備は必須で。くれぐれも自己責任でお願いします。
なお「森の神」への入口まではGoogleMapにも登録があるため車でのアクセスは容易ですが、先述のとおり辺り一帯が携帯の電波もGPSも共に完全に圏外なので、目的地へと至るまでの道中で一度目的地を解除してしまうと再設定が困難です。というか不可能だと思います。ご注意ください。
森の神までは遊歩道を数分歩くようです。しかしこれは…美しい!
都市部ではあまり見られない高山地帯特有の樹木が立ち並ぶ姿は実に壮観でした。
同じ山でも見慣れたいつもの薄暗い杉山とは景色が違いすぎる。これだけでもう山奥までやって来た元が取れた気分です。
そして登場「森の神」!なんと神々しい姿か。
幹周約6mのこの森の神は単幹のブナの巨樹としては日本一の大きさを誇ります。
(森の神発見以前は秋田県仙北市の「白岩岳のブナ」が日本一とされていました。森の神に日本一の座を奪われるまでは観光ツアーが組まれるなど、かなり盛況だった模様。単純な数値で見ると白岩岳のブナの方が大きいようですが合体樹なのでしょうか。まだ未訪問なのでこちらも実際に見てみたいものです。)
かつてこの地の杣人(昔の林業従事者)の間では三本に分かれた樹木には神様が宿ると言い伝えられており、この巨樹は運よく伐採を免れたそうです。
現在では周囲を見渡すかぎりブナの姿が見えず、恐らくはほとんどのブナが材として伐採されてしまったのでしょう。
すらっと背の高い一本杉でもよくあることですが、そのスマートな樹形ゆえに写真では迫力が伝わりにくいのが残念。
実際根元に立ってみると気品、高潔さすら漂うこの白い巨ブナからは大理石の塔のような迫力が感じられるのですが。
私含め、ここを訪れるほとんどの方は「日本一のブナ」という名に惹かれてのことだろうと思います。
しかし実際こうして眺めていると日本一だろうが何だろうがどうでもよくなってしまう。とにかく心地いいのです。
この贅沢な静寂の中ではどうしてもクマ除けのスマホBGMが無粋に思えて仕方なく、恐る恐る音楽を停止することにしました。
ああ、今にも飛び掛かって来そうなツキノワグマと飛び交う吸血アブさえいなければ何時間でも眺めていられるのに。
日本一のブナ。どんな老木だろうと想像しながらやって来たのですが予想に反して若々しい。
冬の間は雪に閉ざされるであろうこの険しい地域で、ここまで健康的に育てるものなのかと驚かされます。
ちなみに奥の解説板?は雨風で表面の解説が吹っ飛んでしまったのか、両面何もなしののっぺらぼうと化していました。
場所柄あまり人が訪れることがないのかもしれませんが、杣人のくだりなど書かれていると印象にも残るので少しもったいないですね。
こちらの角度から見ると小さなこぶが目立つ。
根元は少し腐朽が始まっているのか小さな空洞が見られました。
人間だって数十年生きればヒザだのクビだの悪くなるんだ(私だ)。
何百年も生きる樹木がキズ一つない健康体なわけがないのです。
どの角度から見上げても、イイ…
ベンチより内側には入ることが出来ず樹皮に触れることはできませんが、全方位に大きく根を張った姿から樹勢の良さが伝わってきました。
ちなみにこちらのブナの巨木も日本樹木医会に「健康優良樹」の指定を受けています。
見に来ることが出来て本当によかった。心の底からそう感じました。
私のこの夏一番の思い出は即答でこの「森の神」だったと言えます。
いえ、久々の家族旅行だってそりゃあ楽しかったですよ?
近年まで表舞台に出ることなく地域の一部の人間のみに愛され、知る人ぞ知る存在だった森の神。
それが今では(十和田市にさえ到着すれば)アクセス容易で誰もがガイドなしでその姿を拝むことができるとは。インターネットの発展に感謝。
出来ることなら世間に知られる以前のように、人間のいた形跡を残さないよう静かにこの場を立ち去りたいものです。豊かな自然にも感謝。
この地に滞在している間、私はずっと富山県の「洞杉群」で過ごした時間を思い出していました。
似ても似つかない巨樹ですが、一分一秒でも長く眺めていたいという気持ちと今にもそこからクマが飛び出してくるのではないかという恐怖。
それらの感情が「洞杉群」を眺めていたときと全く同じだったもので。
幹周何メートルとか日本一とかどうでもいい。
あの居心地の良さと生きた心地のしなさを同時に味わうため、ぜひともまた再訪してみたいものです。
ブナは秋の姿も美しいに違いないので機会があれば秋の黄葉の時期に眺めてみたい。
2023/8/2訪問
「森の神(日本一のブナ)」
樹齢 約300年
樹高 29m
幹周 6.01m
青森県十和田市奥瀬 幌内山
- Newer: さよならLEICA Q
- Older: Diary
コメント:6
- れもん 23-08-28 (Mon) 22:53
-
清々しい森の風景をありがとうございます。
1枚目からおおっと唸ってしまいました。
5枚目は一番のお気に入り。
美しい緑の中の端正な姿は神々しいという形容がピッタリです。
周りを囲むベンチも無粋さが無くて、寧ろ勲章のようにこの木を引き立てているようですね。
気品とか心地良さとかの言葉にも、その都度うんうんと頷いて読んでいました。
この夏一番の思い出というのもむべなるかな。
はるばる十和田まで行かれた甲斐がありましたね! - to-fu 23-08-29 (Tue) 11:06
-
> れもんさん
ありがとうございます。
私も5枚目の正面からの写真が気に入っていて、これは大きくプリントしてみようと思っています。
本当に森の神という呼称にふさわしい立ち姿でした。
巨大なスギやケヤキなら関西でも十分見ることが出来るので、どうせ東北に行くなら非日常的な巨木を見てみたかったのです。
山の中の風景もまさに非日常で家族に迷惑をかけてまで単独行動しただけの価値がありました。
いつか仕事を無事リタイアすることが出来たら、東北をのんびり回ってみたいです。 - RYO-JI 23-08-29 (Tue) 22:44
-
森の神とはまたえらく大きく出たもんだ・・・名称だけ聞くとそう思ってしまいます。
が、この姿を見たら森の神にしか思えないですね。
世間に知られる前から地元ではそう呼ばれていたんでしょうね、きっと。
巨樹特有の圧迫感とか重厚感とかはなく、ただただ美しい。
立ち姿に気品が溢れていて神々しい。
また忘れられない巨樹に出会えましたね!
鬱蒼としたスギの植林ばかりの奈良の山を見慣れていると、ここは本当に別世界。
緑の美しさが別次元でとても気持ち良さそうです。
もちろん冬は私なんぞが想像できないほど厳しい場所かと思いますけど・・・。 - to-fu 23-08-30 (Wed) 13:41
-
> RYO-JIさん
まったく、恐れを知らない名前を付けたもんですよね 笑
しかし仰るように正面から向き合った瞬間たしかにこれは森の神だわ…と納得してしまいました。
三股に分かれていなかったらとっくに材になっているに違いないので、これはもう一つの奇跡と呼べるのではないかと。
私も普段はスギばかりの山道を歩いているので異世界にでも迷い込んだかのような気分でした。
たった数日で縦断できてしまう程度の国土でこれだけ気候も生態系も違う。自然を散策するには最高の国ですね。
クマサンが許してくれるなら一日中でも眺めていたかったです。 - 狛 23-09-02 (Sat) 20:41
-
確かにこんなブナは日本中探してももう他にないと思いますね。
ウチの民話の本には「三又の樹と窓の樹には神が宿る」とあり、後者はそれこそ洞杉のような変形を思わせます。
マタギや杣人はこういう特徴的な巨樹を目印としても使っていたでしょうね。
これほどのモノでなくともブナの巨木自体に目が慣れず、新潟ではホオノキと混在していて、薄暗い森に浮かび上がるような白い幹だけ見ると、ちょっと質感が似ているかも?と感じました。言うまでもなく葉っぱは全く違うのでアレですが……。
これこそ日本本来の多様な森林なのか、と惚れ惚れしました。
しかし、本当に、東北に住んでいても恐ろしく遠い……と感じざるを得ない地域です。
そうでなくとも毎日クマサンの被害をニュースで見させられるもんですから、二重三重に足が重くなる。
やっとこの獣道まで来ても、「あ、こりゃ帰ろうかな……」と躊躇いそうですが、これは一度ぜひ前に立ちたい巨樹ですね。 - to-fu 23-09-02 (Sat) 21:37
-
> 狛さん
どうも東北には三又の木を「三頭木」と呼んで神格化する風習があるみたいですね。
青森だけでもこんなにいっぱいあるのか…すごいな → https://thbigtree.jimdofree.com/%E4%B8%89%E9%A0%AD%E6%9C%A8%E3%81%AE-%E5%B1%B1%E3%83%8E%E7%A5%9E/
関西圏でもブナの巨木自体全く見聞きしない存在なので私にとっても目新しかったです。
ホオノキはたしかに幹だけ見たらなんとなくブナっぽく見えますね。
特に巨木未満のホオノキは葉っぱさえ見なければ「これはブナだ!」と言われたら信じてしまうかもしれません。
(なにせブナ自体そんなに見慣れているわけではないので…)
実際私も運転して思いましたが、東北も広いですねえ。そろそろ秋田だろ?いや、まだ山形じゃねえか!って 笑
今回は触り程度で撤収する形になってしまいましたが、あの超広大な奥羽山脈に突撃したらものすごい巨樹が
待っているのだろうなと高速から眺めるだけでもワクワクしましたよ。次回はもう少し余裕を持って回ってみたいです。
トラックバック:1
- このエントリーのトラックバックURL
- https://withphotograph.com/wp-trackback.php?p=30407
- Listed below are links to weblogs that reference
- 青森県十和田市 森の神(日本一のブナの木) from with photograph
- pingback from 青森県十和田市「森の神(日本一のブナ)」 | 巨樹探訪 24-01-02 (Tue) 9:38
-
[…] まだ風前の灯でつながっているぞ? などと、さほど怖く感じなかったのは、写真・巨樹仲間to-fuさんの探訪記でアクセス方法およびこの先の雰囲気を予習できていたのが大きいです。 […]