- 2019-01-06 (Sun) 16:36
- SONY FE 24-105mm F4 G OSS SEL24105G | タブノキ | 千葉県 | 巨木たち(地域別) | 巨木たち(樹種別)
SONY α7II / SONY FE 24-105mm F4 G OSS SEL24105G
国指定天然記念物「府馬の大クス」。大クス、つまりクスノキと呼ばれながら実はタブノキであるということで、県下はおろか全国の巨樹マニアにもその名が知られています。全国の錚々たるタブノキの巨樹の中でも代表的な1本であると言い切ってしまっても過言ではないでしょう。本来ならば関西在住の僕が気軽に訪問できる巨樹ではないのですが、現地在住の狛さんに案内していただくことで相対することが叶ったのでした。
隣の駐車スペースから見た立ち姿。巨樹に正面も裏面もあったものではないのかも知れませんが、便宜的にこちらを裏面と呼ばせてもらいましょう。狛さんが「杖をついた老人のようだ」と仰っていましたが、それを聞いてしまうと僕にもそのようにしか見えません。体躯のガッシリとした老人が腕に杖を持ってその巨大な身体を支えている。こうして文章で説明するまでもなく、言っている意味が伝わるのではないでしょうか。
こちらが正面から見た老人の背中部分です。着生…などというレベルではなく、既に主幹は地面と同化しており大地の延長のような姿へと変貌していました。たくさんの植物に埋め尽くされたその姿は、さながら原生林のようでもあります。どれだけ立派に長く生きようとも万物いずれは大地に還るのだ、と大地の掟を語りかけてくるようでもあります。恐らく既に一個の生命体としてはその役目を終えようとしているのではないか。そう見受けられましたが、本人(本樹?)はとっくにそんなこと理解した上で、ただただ最期の瞬間を穏やかに待ち続けているようです。
鳥居側から見た姿。とっくに主幹は欠損していますが、空高く持ち上げた大枝からはまだまだ頼もしい生命感が感じられます。
現地の案内板には大クスと呼ばれているものの実はクスノキではなくタブノキである、ということの由来が書かれています。タブノキは別名イヌグスとも呼ばれているため地元では元々大クスと呼んで親しまれており、そのまま「じゃあこれはクスノキでいいんだよな?」ということでうっかり天然記念物として登録してしまったのだとか。ぶっちゃけこれ、どう見てもクスノキには見えませんし、申請した人もアレですがその申請を認可した文化庁の人もアレだと思います。天然記念物の指定ってそんなに適当でいいの?
ちなみに「境内に入ると、タブノキ特有の香りが辺りを包み込みます。」と記載されていますが、僕も狛さんもその特有の香りとやらを感じ取ることが出来ませんでした。落ち葉を千切って嗅いでみたりもしたんですが。我々は鼻が悪いんでしょうか 笑
老木と呼んで差し支えない姿をしていますが、流石にランカークラスを誇るその存在感は圧巻です。重厚でいて、とても温かい。枯死してしまった「小浜神社の九本ダモ」と対峙したときと同じような印象を受けました。非常に大きいんですが、大迫力とか怖いとかそういうのとは違うんです。人間に例えるなら元柔道家のがっしりとした老人。寡黙なんだけど眼差しは温かいんです。引退後は地域の子供を見守っているような。そんなおじいちゃん。
大枝の欠損が見られますが、今のところ満身創痍というほどの痛々しさは感じられません。地元の方々、樹木医さんの手厚い保護の賜物でしょう。ただ、今後大枝が欠損するようなことがあれば致命傷に繋がるのではないか…そんな緊張感は感じられました。
よく見ると麓に小さな祠のようなものが置かれていることに気付きます。
大枝の折損箇所。こうして近付いて見てみると、まるで崩れた岩のような重厚な質感に驚かされます。個人的にはタブノキの樹皮って冷え固まったマグマのようだと感じるんですが、これはまさにその冷え固まったマグマが砕けたように見えました。
狛さんが「大きな台風などが通過すると心配で見に来てしまう」と仰っていましたが、その気持ちがよく分かります。僕も撮影中ずっと、この巨樹にあと一体何回会えるんだろう…そんなことばかり考えていましたから。本当にいつまでも元気で居続けていただきたいものです。
すぐ隣は広場として整備されていて、大クスを上から眺めることができる展望台まで設置されていました。これはこれで良いのですが、Webで先人の訪問ログを見ているとかつての鬱蒼と茂った森の方が雰囲気があって良かった、という声も聞きます。そんなこと言われてしまうとちょっと悔しいと言いますか、ああもっと早く巨樹巡りを始めとけばよかった!なんて思わなくもありません。言い出すとキリがありませんけどね。
ちょっと面白いなと思ったのがこれ。タブの巨樹だけで作った番付表。
石川県巨樹の会が制作したもので、その石川県のタブノキが横綱になっている辺り苦笑してしまいますが、なかなか良く出来た番付表だと思うのです。ふんふん、この「府馬の大クス」は東の大関か。こっちが横綱でもいいんじゃないか?なんて思っちゃいますが。そしてあの「小浜神社の九本ダモ」がしっかり行司として書かれているではありませんか。そう、あれは枯死してしまったからといって、その存在を忘れてしまえるような代物じゃなかったもんな。なかなか分かってるじゃないか。
2018/8/11訪問
「府馬の大クス」
国指定天然記念物
樹齢 1,300~1,500年
樹高 13m
幹周り 8.6m
千葉県香取市府馬2395
コメント:4
- RYO-JI 19-01-06 (Sun) 23:55
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あぁ、この番付表(笑)。
狛さんの記事で見て印象に残ってますよ。
もちろん、このタブノキ自身も。
特徴的な姿をしていますね。
着生植物の量が半端ないですが、生物学的に問題ないのか少し心配してしまいます。
人間だったら即死でしょう。
この趣味の醍醐味として、幹周や樹高、樹齢がよりスゴイものを求めてしまう一方で、
その生命を終えようとしている巨樹にも惹かれる自分もいます。
このタブノキは樹齢が古いものの、まだまだ生命力を感じるとのことですが、
樹の感覚で言うともう終焉の時期に入っているのかもしれませんね。
それでもちっぽけな我々の方が先に逝ってしまうんでしょうけれど(笑)。 - to-fu 19-01-07 (Mon) 16:32
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> RYO-JIさん
この番付表は面白いですね。タブに限らずスギとかカツラとか色んな樹種で見てみたいです。
(まあ制作者の地元贔屓になる傾向はあるでしょうが、仕方ありませんね 笑)
この着生植物の量は物凄いですよね。
府馬の大クスは巨樹サミットでも樹木医のモデルケースとして取り上げられたりしているくらいなので、放置されているというよりは専門家が敢えて放置しているのだと思うのですが、これらを引き抜いてしまうとその損傷のある樹皮から水が入ってダメになる…とか理由があるのかもしれませんね。
生物も建造物も、朽ちゆくものというのはやはり魅力的だと僕も思います。
この巨樹なんかも人の手によって辛うじて生命を維持しているような印象でした。
支柱や囲いがなければとっくに倒壊しているでしょうね。
この大楠(タブ)さんはすぐ側に子孫と思われる既に巨樹クラスにまで成長したタブを残していましたし、思い残すことは無さそうにも見えました。 - 狛 19-01-08 (Tue) 12:47
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これこそ地元の樹で、三度四度と見ているわけですが、季節柄、またto-fuさんの手による写真で客観的に見ることで、ああ、こんなにまだ枝葉が茂っていたんだなあと感慨深く思いました。
タブの、外見も体裁も問わないたくましさ。例え主幹が崩壊しても、そのまま根を下ろして生き続けそうな迫力を感じます。
この、背中の絵、本当に凄まじい。
こうして山だか森だかわからなくなったところに、腰帯のようにしめ縄を締めておられる。
これが巨樹として生きるということなのだ……と、巨樹の若手たち(?)に無言で示しているかのようですね。
このドラマ性には胸を打たれるところがありますが、本当に大地に還ってしまう前にto-fuさんをご案内できてホッとしました。
番付表、改めて見ると、ほんとだ、九本ダモが行事なんてシャレが効いてるじゃあありませんか!
なかなかやるな……。
石川巨樹の会は大きな組織なので、界隈学会、環境省も大きなこと言えないんですよ!(冗談に聞こえない) - to-fu 19-01-08 (Tue) 17:12
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> 狛さん
単独で訪れていたら絶対に近隣で迷っていたと思います。本当に助かりました 笑
そうですね。僕も記事を編集しながら、まずこの夏らしく青々と茂った姿を懐かしく思いました。
もし案内していただくのが今回のようなお正月だったら、また違った印象を受けていたような気もします。
個人的には夏のあの元気な姿を見られて良かったです。展望台の風も気持ち良かったですしね。
石川県巨樹の会、ちょっと調べてみましたが随分精力的に活動されてますね。
都道府県レベルの組織がこれだけ大掛かりな活動をしているのは凄いことですし、何だか羨ましい気もしました。
20周年記念誌、買ってみようかなあ。
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