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徳島県板野郡藍住町 矢上の大クス


SONY α7RIII / SONY FE 24-105mm F4 G OSS SEL24105G

徳島市の「別宮八幡神社のクスノキ」を訪問した翌朝、日の出とほぼ同時に訪れたのがこの板野郡藍住町の春日神社に鎮座する「矢上(やかみ)の大クス」。早朝から雨、さらには強風というコンディションのため、レンズに付着した水滴が写り込んでいたり枝葉がブレていたりと見苦しいところもあるかと思いますが、ご容赦くださいませ。(いやホント、これでも頑張ったんですって。ISO1600まで上げてもF6.3でシャッタースピード1/15秒とか…でしたから。枝なんかもうバッサバッサ揺れてるし。)


春日神社の鳥居脇にあるスペースに車を停めさせてもらい、まずは参拝。写真では伝わらないと思いますが雨はともかく風がまあ物凄い。さて、クスの巨樹はどこだろう?と裏手に回ってみたら突然の登場。おお、何だあのクスノキは。クスの巨樹といえばとにかく明るく健康的なものが多いですが鬱蒼とした社叢の中で静かに佇む姿からは、どことなくシイやカシとも通ずる「陰」のオーラを感じます。先日偉そうに「徳島県のクスは明るく健康的である」なんて知ったようなことを書いたばかりですが、早速徳島クス連合の奥深さにギャフンと言わされることになるとは。ギャフン。


ああ、凄い迫力だ。根本はどう見ても大きくえぐれて空洞化しているし、主幹だって途中で完全に欠損している。なのに何なんだろう。この迫力は。そう、やはりこの感じは多くのクスノキから感じる印象よりもシイやカシから受けるものに近い。辺り一帯まとめて温かく包み込む”ゆりかご”的なクスの包容力よりは、むしろ威圧感にも似たものを感じる。ちょっと近付くことを躊躇してしまうくらい圧倒的な存在感がありました。周囲を柵で覆われているのは昨日の「別宮八幡神社のクスノキ」同様ですが、こちらは扉にキッチリと鍵がかかっていて立ち入ることが出来ません。もちろん、これだけ傷みの強い巨樹ですから仕方のないことでしょう。


ごっそりと空洞化し、朽ちつつある根元部分。
私は発見することが出来ませんでしたが巨樹の先輩方ののログを読むとかつては案内板が設置されていたようで、その案内板の情報によると幹周は17.8m。ただし巨樹データベースでは幹周は12.9mとなっています。むむむ…まあ実際見た限りだと巨樹データベースの方が正しいのではないか、という印象。

しかしワタクシ、気になって少し情報を漁ってみました。最近ではマニアックな研究論文や古い文献がWeb上に公開されていたりしますからね。いい時代になったものです。そうして歴史を紐解いてみたところ、この案内板は決してハッタリでもありませんでした。江戸時代のいくつかの文献によると実際に人々が手を繋ぐことで測定された数値として18m弱というものが挙げられており、この17.8mというのは昭和43年の台風によって幹の大部分を欠損するまではわりと正確な数値だったのではないかと考えられます。

大正3年に発行された「徳島県老樹番付」においても現在は国の特別天然記念物…つまり国宝級の天然記念物に指定されている、あの「加茂の大クス」を差し置いて東の横綱に選ばれており(ちなみに西の横綱はこの後訪問した「乳保神社のイチョウ」)、昭和43年以前の姿はそれはもう「加茂の大クス」クラスのクスノキ界の超大物だったであろうことが窺えます。


そんな事情を踏まえ、改めて眺めてみるとロマンを感じませんか?
そういえば福井県小浜市の枯死した超大物タブノキ「小浜神社の九本ダモ」とも近いオーラを感じるような気がしてきます。
枯死した九本ダモとの大きな違いは、静かだけれど力強い、生命の鼓動のようなものがはっきりと感じられる点でしょうか。

ちなみに幹周12.9mというデータは徳島大学教授の佐藤氏が春日神社の許可を得て平成17年に測定した際のもの。佐藤氏の論文には「現在同じ番付を作るとしたら、横綱に加茂の大クス、この巨樹には行司というポジションが相応しい。」なんて書かれていて笑ってしまいました。だって千葉県で見た石川県巨樹の会作成の”タブノキ番付”でも、やっぱりあの九本ダモが行司として書かれいてたんですから。


度重なる火災や落雷、強風によるダメージを受けて身を捩るようにうねうねと立ち上がる幹。
私はこの角度から見た瞬間、おお積乱雲のようで格好良い!と思いましたが…見えませんかね?


焦げ跡が痛々しい。
けれども一見枯れてしまったように見られる幹からも多くの枝が成長を続けていて、確かな生命感が感じられました。


主幹だけでなく、大枝の多くも欠損しています。徳島県指定天然記念物ですから恐らくは定期的に樹木医の診断を受けているものだろうと察しますが、空洞を埋めるだとか枝の欠損部にフタをするといったような治療の跡は見られず、自然の摂理に任せるという方針なのかもしれません。(よくあるあの空洞に雨水が入るのを防ぐ金属製のフタや屋根ですが、最近の樹木医学ではアレを用いない治療法が広まっているのだと聞いた覚えがあります。兵庫県のケヤキの管理者の方だったか…)


傷ついてはいるけれど確実に生きている、そしてこれからも生き続けようという強い意志の感じられる巨樹です。季節柄もありますがグネグネと伸びた枝にはたくさんの葉が茂り、巨大な体躯を養うだけの栄養素を取り入れようとする様子が見て取れました。ボロボロになりながらも必死に、懸命に生きようと藻掻く様はやはり感動的なものです。うん、本当に凄い巨樹だった。


前述のとおり周囲は鬱蒼とした社叢。いえ、薄暗いのは別に構わないんです。オバケなんて出やしませんよ?きっと。ただですね…頭上の鳥の巣からの鳥フン爆撃が…訪問される際には充分ご注意下さい。野鳥の楽園と化しています。車に戻ったら当然フロントガラスには空襲の痕が…雨が降っていたのが幸いして簡単に拭き取れましたけど。本当に頭上には気を付けてください。

2019/5/20訪問
「矢上の大クス」
樹齢 伝承1,500~2,000年(800年という説も)
樹高 25m(データベースによると12.5m。流石に20mはあると思う)
幹周 12.9m

コメント:6

RYO-JI 19-05-26 (Sun) 22:19

恐るべし徳島ですね!
あの巨樹王国つるぎ町以外にもこんな怪物クラスがあるんですからねぇ。
しかもかつては加茂の大クスを抑えて横綱の座についていただなんて・・・。
見た印象は加茂の大クスとは真逆ですね、これ、スゴイ!
当時の姿を見てみたかったのは言うまでもないですが、過酷な運命にあった壮絶なこの姿も是非見てみたい!
様々な災難にあっているみたいで、ここまで異形のクスノキは未だ目にしたことはありません。
クスノキらしからぬ陰の印象は、そういった過去の運命から来ているのかもしれませんね。

to-fu 19-05-27 (Mon) 22:19

> RYO-JIさん
徳島の巨樹は奥深いですよねえ。
同じクスでも陽気な巨樹一辺倒ではなく、ああこんなタイプもいらっしゃったのね…と。
それこそ東の横綱指定されていた頃は凄まじい巨大クスノキだったのでしょうね。

狛さんが紹介されていた野神の大センダンと同じく、当時はこの「矢上の大クス」とこの近くにある「鳥屋の大クス」(ここも訪問したのでまた後日紹介します。)がこの地域の目印であった他、距離を測定するための目安としても用いられていたそうです。建物も現在以上に少なかったでしょうし、このクスは相当な遠方からでも目立ったでしょうね。今ほどに樹木を保護するなんて考えが及ばなかったことは間違いなく、今でもこうして生きていてくれるというだけで人智の及ばぬ壮大なものを感じずにはいられません。

19-05-29 (Wed) 20:36

あの日はほんと、かなり荒々しい天候でしたよね……。
それがまたいっそうこのクスに箔をつけているように思います。
晴れの日に見たら、どんな違った印象を抱くのか……しかし、この巨大な空洞を見たら、この傷ゆえ迫力が倍増しているとも考えてしまいます。
そして、欠けたるが故に、完全体だった頃の姿がどれだけのものだったかと、想像力も掻き立てられます。
なるほど、楠界の行事ね……ふさわしい立場と貫禄です。笑

それにしても迫力の壊れっぷりと、それに負けない強い生命感。
加茂の大クスなど美しい樹を見てしまうと陰の樹と呼びたくなりますが、決して死につつある者の気配ではないのだなと思いました。

to-fu 19-05-29 (Wed) 23:20

> 狛さん
ずっと天気が安定してたのに、何もこのタイミングで降らなくても!という感じでしたね。
まあ翌日からのメインイベントを最高の天候で迎えられたので文句はありませんけど。

晴れの日に見たかった気もするし、一発目がこの天候だったからこそ陰のオーラが際立った気もします。
シイやカシに近いだなんて勝手に言いたい放題言ってしまったので、次回はぜひ晴天の姿を見てみたいですね。
加茂の大クスに別所の大クス。その他にも徳島は形の整った美しいクスノキが目立ちましたが、こういうどこか
退廃的なクスがいるからこそ、あれらのような模範的なクスも満腹にならず回ることができるわけで、
巨樹巡りのアクセントとしても貴重な巨樹だと感じました。

1 20-01-24 (Fri) 12:12

こんななりになってしまってはいますが今は13mを僅かに超えまだ成長を続けています。
衰弱期を超えまた新たな成長段階に入ったのではないかと。
形状的に奇麗な形には到底ならないでしょうが今後どんな姿になっていくのか楽しみな老木であります。

to-fu 20-01-24 (Fri) 16:41

> 1さん
このクスからはその姿に似合わぬ強い生命力を感じたのをよく覚えています。
樹木の持つ生命力の力強さ、そして何よりここまで朽ちかけた状態から樹木の生命力を引き出した樹木医の方の執念にも脱帽です。
歪な巨大生物を思わせるクスですが、こんな形状だからこそどのような成長を遂げるのか本当に楽しみですね。

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