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徳島県美馬郡つるぎ町 葛籠のヒノキ


SONY α7RIII / SONY FE 24-105mm F4 G OSS SEL24105G

「地蔵森のカゴノキ」を離れ、さらなる奥地へと進みます。一宇地区葛籠(つづろ)。ちょうど貞光川に沿って山道がつづら折りになっているポイントなので、葛籠(つづら)がつづろと呼ばれるようになり…というのが地名の由来ではないかと思います。訪問される際はGoogle Mapにも登録されている葛籠堂を目印に向かうと分かりやすいはずです。葛籠堂の側に駐車させていただき、そこから徒歩で2~3分。ヒノキの目の前まで車で乗り付けることも可能ですが、転回が困難なため止めておいた方が無難でしょう。


車で乗り付けずに徒歩をオススメする最大の理由がこの景観だったりします。ここはチベット奥地か、はたまた桃源郷なのか。聞こえてくるのは小鳥のさえずりとスギの枝葉が風でそよぐ音ばかり。この景色と心地良さは訪問して半年近く経とうとしている今でも脳裏にしっかりと焼き付いています。


いや…ホントどうやって生活してるんでしょうね…なんて言ってしまうと失礼ですが、物質文明に慣れきった我々からすると誰だって同じようなことを考えるのではないでしょうか。そもそもあの家、どうやって行くの?貞光川からあちら対岸側に続く道自体があったようには思えないのですが…訪れたのが気候の良い5月半ばだったこともあって最高のシチュエーションだったものの、冬の時期なんかはそれなりに過酷な環境なのではないですかねえ。日光の反射が眩しいあの銀色の屋根だって、あれはどう見ても積雪を溶かすためのもの。

そもそも昔の人は何をどんな理由でここに集落を築こうと思い立ったのか…いえいえ、この地に暮らす方々からすると、この広いニッポンの中でわざわざ馬鹿みたいに窮屈に集まり、他人と牽制しあって生きている我々の方が理解し難い存在なのかもしれません。同じ日本に生まれた日本人とはいっても本当に色々な人生があるものだ、なんてしみじみ考えてしまいます。


そんな集落の中で静かに佇むのがこの「葛籠のヒノキ」。そもそもヒノキ自体がスギやモミのように巨大に生長する樹種ではありませんが、実のところそのヒノキの巨樹としても特筆するほど目立ったサイズだとは言えません。しかしこの形状が面白い。ウニのトゲのような枝を縦横無尽に張り巡らせる攻撃的な立ち姿はなかなか見られるものではありません。パッと見ただけでも「おおっ…」と唸らされるだけの迫力を感じます。


しかしまあ残念なのは、巨樹に近付くことが出来ないという唯一にして最大の欠点ですねえ。ヒノキの根本に保護柵(防護ネット)が確認できますが実際にはこの立入禁止看板の手前にも保護柵が張られていて、この斜面そのものに立ち入ることが出来なくなっています。

現地ではこの保護柵を野生動物が集落に侵入することを塞ぐためのものではないかと考えていたのですが、今こうして冷静に見返してみるとシカやイノシシの侵入を止めようとするネットではありませんね。あの連中を相手にするには余りに頼りなさすぎる。看板に犬注意と書かれているので、山奥に野犬の群れでも住んでいるのかもしれません。(余談ですが数十年前まで四国にイノシシは居なかったそうで…人間が本島山間部の開発を進めたせいで住処を失ったイノシシたちが、瀬戸内海を渡って四国にやって来たのだということですよ。瀬戸内海ってメチャクチャ流れ早いんですけど…凄いですねえ。あんなのを泳いで渡り切ったのは今のところイノシシと今治の脱獄犯くらいじゃないですか?)


地を這うように伸びた枝は今にも伏条更新(地面に触れた枝がそこから根を張り、新しい幹とすることで子孫を残す)しそうな勢いに見えます。雪深い地方のウラスギのような佇まいに、ふと福井県の「西光寺の大杉」を思い出しました。


鳥の骨のように鋭利な枝。薄暗い山中で己のテリトリーを主張するようで、自らの敷地に何人たりとも近付けまいとする強い意志を感じます。


50年ほど前の火災に巻き込まれて一部を損傷したということなのですが、遠くから眺めている限りではどこが損傷しているのか全く分かりませんでした。樹勢も昔から変わらず良いようにしか見えません。けれども火災による損傷後は樹勢が衰え、樹木医の治療によってここまで回復したのだということです。


先人たちのログを拝見すると以前は根本まで立ち入れていたようなので、写真撮影を主な目的として訪問する我々のような者からするとちょっと拍子抜け…ええ、不完全燃焼に終わったと言わないとウソになってしまいます。しかし当然ながらそれが巨樹そのものの価値を毀損するわけでは全く無く。ヒノキの巨樹としてはそこそこのサイズ、そして個性的な立ち姿と見るだけの価値は十分に感じました。

でもまあ正直に言ってしまうと葛籠堂からここまでのあの素晴らしい景色が余りにも衝撃的すぎて、巨樹よりもそちらが印象に残っているというのは仕方のないことでしょう。恐らくあの辺りは既に限界集落…数十年後には果たして人間が残っているだろうか。なんて考えてしまうと、巨樹よりむしろそちらの去りゆく原風景に価値を感じてしまうわけで。あの景色を眺め、そして記録できるのはきっと私の世代が最後になるはずなんですよね。個人的にはヒノキを眺めるというよりも、もう一度あの風景を眺めるために再訪したい。それだけ価値のある景色だったと思います。

2019/5/21訪問
「葛籠のヒノキ」
町指定天然記念物
樹齢 不明
樹高 24m
幹周り 5m

コメント:4

RYO-JI 19-10-08 (Tue) 21:33

あぁ、ここの景色は今もなお鮮明に脳裏に焼き付いています。
軽くショックさえ受けるくらいでしたから。
生活の場があることに驚きもしましたし、軟弱な自分なんて生きていけないだろうなぁとか考えちゃいました。
限界集落となってしまった場所なんて日本中いくらでもあると思いますが、何かの縁で訪れたこの地は残って欲しいですね。
恐らくここを訪れるのは、我々のようなヒノキ目当てのマニアしかいないと思うんです。
だからこのヒノキにはこれからも元気に長生きして欲しいなぁと。
そうすればこの素晴らしい景観を目にする人が少しでも増え続けていくと思うので。

to-fu 19-10-08 (Tue) 23:33

> RYO-JIさん
あの景色は本当に鮮烈でしたね…
我々が住む近畿圏は低山ばかりなので、こちらの山間部とは空気そのものが全然違っていた印象です。

この趣味をやってるとどうしても愛着の湧く土地がたくさん出来てきますよね。
地方の巨樹って基本的に限界集落みたいなところばかりに生えているので、あれらが人の手を離れてしまうと
果たして生き続けることが出来るのか?と、ちょっと不安に思います。治療や支柱、人の力ありきで生きている
巨樹は本当に多いですから。これから人口の減少が凄まじいことになりますので、そういう意味でも今この
タイミングで巨樹巡りできていることは幸せなことなのかもしれません。数十年後にはきっと廃村だらけでしょうから…

19-10-09 (Wed) 16:32

このヒノキは、斜面に生えているがゆえの根の馬鹿力的光景を見たかったのですが、まさかあれほどまでに観察に自由が利かないとは思いませんでした。
もっと大きなヒノキを見たことあるぜえ……とは思いつつ、ひとつとして同じものがないのが巨樹、あの刺々しい枝の数々は僕も印象に残っています。
見に行けてよかったと思っています。

とは言え、ここはほんと、この風景ですよね。
今の日本において、こんなところがあって、こんな生き方をしている人たちもいるんだ……と、固唾をのむ気分でした。
実際にやったら逃げ出したくなるでしょうが、自分が選択しえなかったそんな生き方に、やっぱりどうしても桃源郷のようなものを重ねて見ていた気がします。

to-fu 19-10-09 (Wed) 20:30

> 狛さん
ネットが貼られる以前の写真を拝見するに、根元の力強さはこの巨樹指折りの特徴ですよね。
近くで見られるだろうという前提で訪問してしまったのでどうしてもガッカリ感が強くなってしまいました。
初めから近付けないと知った上で訪れていたら随分印象も違っていたかもしれません。

ただまあ、兎にも角にもやっぱりあの景色です 笑
この葛籠といいあの高知の六社聖神社といい、あんな夢か現か分からなくなるようなモノを見せられてしまうと
流石に巨樹どころではなくなってしまいます。我々は貞光川を渡ったつもりが三途の川でも渡ってしまったのか?なんて。
暮らしてみるというのはハードルが高そうですが、1週間くらい泊まってみたいとは思いますね。
写真を撮るとかネットだとか俗世的なことから一切離れて、あそこでただひたすらぽけーっと過ごしてみたいです。

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