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徳島県美馬郡つるぎ町 地蔵森のカゴノキ


SONY α7RIII / SONY FE 24-105mm F4 G OSS SEL24105G

本来この日の巨樹巡りプランには含まれていなかったカゴノキの巨樹。
こういった想定外の出会いがあるからこそ楽しい。
もちろん、それが同好の士と巡る遠方ならなおさら…ということになります。

日本一のエノキ、そして野生化した素晴らしいモミに満足した我々は国道438号線をさらに剣山方面へと歩みを進めます。いえ、歩みだなんて滅相もありません。狛さんに運転をお任せして私は助手席でペチャクチャと好き勝手しゃべってただけです。冒頭で想定外の出会いが~なんて偉そうに語ってしまいましたが何のことはない。国道沿いにこの案内板が見えるわけですから我々がスルー出来ようはずもありません。おあつらえ向きにこの案内板正面あたりに地域の方のお墓参り用と思われる駐車スペースを発見し、そこを少しばかり拝借させていただきました。


「地蔵森のカゴノキ」の名のとおり当然そこには地蔵尊が安置されているわけですが、ご覧のように地元の方が足繁く通って整備して…という類の場所でないことは誰の目にも明らかでした。この数十年、流れ行く時の中で少しずつ人々の記憶から忘れ去られ、自然へと還ろうとしている姿が窺えます。カゴノキの巨樹には数多の植物が癒着しており、少なくとも私には遠目に見た限りこれがカゴノキであるとはとても判断できません。


巨樹に近づくと根本に安置されている地蔵尊が見えてきました。根本で雨風を凌いでいるのか、はたまた逆に巨樹がお地蔵様を守るため傘になってあげているようにも見えます。しかしこれ…物凄い姿だ。カゴノキ自体は今まで何本も見てきたし、樹種としてはそれなりに大きなものだって見てきたつもりです。今までに見たどんなカゴノキよりもデカい。え?ちょっと待って?本当にカゴノキ?とまだ訝しく感じるくらい立派です。


なるほど、謎が解けました。カゴノキの本体である主幹はとうに朽ち果てており、その主幹を苗床に何本かの二世幹が育ったものが現在の姿であるようです。幹周公称値9.4mですが、6m程度の主幹と3m程度の二世樹の融合樹だと思われます。

根本には延命地蔵尊。かつて天明の大飢饉(1783~1787)の際、村からも多大な被害者が出たため、飢饉の収束を祈願してこの地蔵尊が設置されたのだということです。後日もののサイトを見返したところ数年前までは庚申塔と常夜灯も置かれていたそうなのですが、我々が訪れた際には無くなっていたような気がします。(それでそこら中に謎の電球が廃棄されてたんだな…)庚申塔が置かれていたくらいですからかつては旅人たち、剣山への修験者たちの目印でもあったのでしょう。周囲は鬱蒼とした森。一人だったらここに立ち寄れただろうか…と不安に思うくらいの場所だったのですが、この下からのアングルで眺めるとどこか神々しくもあります。うん、これは怖いだけじゃない。暖かくて、良い巨樹だ。


こちらの二世樹にはカゴノキの特徴である綺麗な鹿の子模様が確認できました。子鹿の背中のような模様、ということで鹿の子(カノコ)模様と呼ばれています。人によっては気持ち悪いと感じるみたいなんですが、個人的には結構好きなんですよね。


急斜面をよじ登るようにして裏側へと回ってみました。やはり完全に朽ちている…枝葉のように見えるものは全て朽ちた幹を苗床にした着生植物でしょう。しかしこれが自然の在るべき姿。不思議と悲壮感は感じられません。こうして土に還り、いずれまた二世樹がカゴノキの巨樹としてこの地に屹立するのでしょう。


急な斜面にせり出すように伸びるカゴノキ。何かのきっかけで主幹が根本からポッキリ折れてしまってもおかしくありません。既に生命活動を終えつているようにも見える主幹ですが、やはりこの迫力は主幹ありきのもの。少しでも長生きしていただきたいものです。


霊樹とでも呼ぶべき存在感。立ち寄ることが出来て本当に良かった。これからもお元気で。

2019/5/21訪問
「地蔵森のカゴノキ」
つるぎ町指定天然記念物
樹齢 不明
樹高 17m
幹周り 9.4m

コメント:4

RYO-JI 19-10-05 (Sat) 21:10

霊樹・・・そうですね、一言で例えるならばそれが一番ピッタリくる巨樹でしたね。
国道沿いにあるとは思えない別世界。
一人だったら足を踏み入れるのを躊躇していたと思います、間違いなく!
でも同志がいると何の迷いもなく突き進めるから不思議なものです。
かつて大飢饉があった際に地蔵尊が設置されたとのことですが、実際にあの環境に身を置いた者として
とても想像ができないんですよねぇ、あの周辺に生活の場があったなんて。
それとも近くには住まずとも古くからこのカゴノキは人々にとって特別な存在だったんでしょうか。
うん、きっとそうですよね、あれだけの存在ですから。

to-fu 19-10-06 (Sun) 10:21

> RYO-JIさん
まさに別世界でした。
私も一人だったらあの案内板を見なかったことにして先を急いでいたかもしれません 笑

いやホント、あの場所で大飢饉と言われても想像できませんよね。
こう言っては失礼ですが飢饉以前にあそこで人々が暮らし、十分な作物が収穫できていたとはにわかに想像できません。
そもそも山菜に川魚、サワガニなんかを食べてたらそれなりに生きていけそうな気がしてしまいますが…
カゴノキの樹皮は目印として申し分ないので、修験者たちの休憩ポイントとして大切にされていたのが神格化されて…というストーリーなら有り得そうな気がします。

19-10-07 (Mon) 7:13

そうでした。偶然の出会いでしたね。
後から考えてみると、もしかしたら俺のことも見てってみろよ、とか、カゴノキが呼んでくれていたようにさえ思います。
そこまで目立つ感じじゃなかったとも思いますし。

飢饉は、干ばつとか火山の噴火による日照不足とか、なんかそういう総合的な災害だったのでしょうか……疫病も蔓延したりして、と、そういうイメージなのでしょうか。
確かに、ただの不作だと、この辺りに暮らしている人ならなんとかサバイバルできそうなので、相当のことが起こったのでしょう。
こうして改めて見てみると、異様な迫力がある樹です。
太い方の幹はすでに死んでいるとはしても、朽ちきって崩壊しないところが不思議ですし、お地蔵さんの背後に見た、磨いた岩肌のような硬そうな質感がよく記憶に残っています。
カゴノキ自体、じっくり見るのは初めてだったので(というか、言うほど地元にない気がします)樹種の代表として印象に残りました。

to-fu 19-10-07 (Mon) 9:52

> 狛さん
カゴノキ…確かに関東の神社では見かけませんよね。
ちょっと調べてみたら埼玉県や東京のあきる野市にカゴノキの巨樹があるみたいですが、カゴノキを見るためだけに
埼玉や東京の渋滞ゾーンに突入できるかといったら…うん 笑
カゴノキは巨樹として見るとインパクトに欠けますが独特の雰囲気がありますよね。シイやカシのような陰のオーラが。
しかし大抵の個体が神社などで御神木として扱われていて、どことなく神々しさも纏っている。不思議な木です。

あの辺りの飢饉の被害というと、疫病が主なものだったのかもしれませんね。
仰るようにあれだけ自然豊かなところで食糧不足というのはちょっとイメージできません。

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