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岐阜県郡上市 前谷床並社跡のトチノキ


SONY α7RIII / SIGMA 24-70mm F2.8 DG DN | Art

いつまで経っても終息の兆しすら見えない新型コロナウイルスの流行、そして緊急事態宣言の発令…年明け以降その他にも公私ともにまあ色々ありましてモチベーションは下降する一方でした。どうしても巨樹記事を執筆する気分にならず撮影データすら整理できていませんでしたが、流石にいつまでもウジウジしているわけにはいきません。世を憎んだところで状況が改善するわけでもなし。いえ、むしろ精神衛生上よろしくない上に自身を取り巻く状況は悪化する一方でしょう。ということで、春の訪れを機にそろそろ前を向いて歩き始めることにします。

訪問から随分と時間が経過してしまいましたが昨年9月に訪問したトチノキの巨樹です。この日は夜明けとともに石徹白巡礼の恒例ルートとなった石徹白大杉から浄安杉へ。そして今回は前々から気になっていた県指定名勝「阿弥陀ヶ滝」にも立ち寄りましたが、出発前にGoogleMapを眺めていて阿弥陀ヶ滝の近くに今まで私のチェックから漏れていた巨樹があることを思い出したのです。それがこの「前谷床並社跡のトチノキ」。今回は時間的にも随分余裕がありますから、これは立ち寄らないわけにはまいりません。


かつての修験者たちが霊峰白山を目指した白山禅定道に到着。私の記憶が正しければ以前はこの巨樹に関する情報がWeb上にほとんどない状態で訪問するのが非常に困難でしたが、現在はGoogleMapにも「床並社跡のトチノキ」として登録されているため訪問は容易ではないかと思われます。私もGoogleMapのナビを頼りにここまで一切迷うことなく到達できました。私の立ち位置の手前に車を駐車しています。

余談ですが本当に便利な世の中になりましたねえ。ほんの数年前までGoogleMapのナビなんて農道やヘンテコな道に特攻させる役立たずという印象しかありませんでしたが、今ではむしろ車備え付けのカーナビなんて年に一度使うか使わないかになってしまいました。地図データを更新するだけでウン万円…なんて殿様商売がまかり通っていたことがにわかに信じられません。


車を降りたら真っ先にクマ鈴を装備し、まずは案内板に目を通します。目的のトチノキは禅定道に入ってすぐのところにあるらしい。ここからたった100mということですが、赤地のクマ出没注意看板とこちらのクマイラストが私の警戒レベルをグッと引き上げます。クマ鈴だけでは頼りないのでスマホから大音量で音楽を鳴らす。人工的なBGMで風情もくそもなくなってしまうけど命の方がずっと大事です。クマだって別に好き好んで人間なんて襲いたくないでしょうから仕方ありませんね。


ほんの少し歩くと右手にそれらしいトチノキが見えてきました。うん、これに違いない。


率直に申し上げると、トチノキの巨樹としてはそこまで巨大なものではありません。私の場合さらにタイミングの悪いことに石徹白訪問直前に兵庫県でトチノキの大物を見てきたばかりだったものですから、実際のところこの巨樹と対峙した瞬間に駆け寄ってしまうほどの感動は得られませんでした。もちろん立派な立ち姿ではあるのですが…


トチノキの大物特有のあの重厚さは感じられませんが、周辺が薄暗いこともあって背の高いスマートな巨樹です。スラッと立った姿は重厚というよりむしろしなやかで美しい。


当然ですが樹勢は旺盛。巨樹としてはまだまだこれから、若々しさに満ちています。樹齢約600年ということですが、うーん。個人的にはせいぜい350~400年ではないかと感じました。それにしてもトチノキはやはり晴れの日に眺めるのが一番だと思いますね。雨の日のしっとりしたトチも美しいかもしれませんが、濃密に茂った巨大な葉の隙間から射す木漏れ日は最高に心地良い。そもそもトチの巨樹って立地的に雨の日は訪問しにくいところに立っている事が多いので、そういう意味でも晴れの日がおすすめですね。


とてつもなく強烈な日差し。コントラストが付きすぎるし逆光だとゴーストが出すぎるし…ということで撮影するには最悪のシチュエーションでしたが巨樹を眺めるにあたっては最高のシチュエーションでした。最低気温5℃、最高気温25℃というちょっとした砂漠のような気候だったのが忘れられません。フリースを着込みガクガク震えながら目覚めて、日中はTシャツ1枚という意味不明さよ。この日差しがまだ9月なのだということを嫌でも思い出させてくれました。


まだまだ巨樹界の大物と肩を並べるには風格が足りないものの、その樹皮からは過酷な環境で生きるもの特有の凄みが充分に感じられる。この野性味こそトチの魅力ですね。同じ広葉樹でもケヤキやクスノキは人里の巨樹という印象が強いですが、このトチノキという樹種に関しては山奥のヌシのような印象しかありません。


この地に滞在してトチノキの立ち姿が強く記憶に残っているかと言われると、申し訳ありませんがそこまででもなく。巨樹そのものよりむしろ、かつてこの禅定道から霊峰白山を目指した修験者たちの過酷な道のりを想像してはただただ途方に暮れていました。現在の石徹白大杉登山道(ここよりずっと山の上、車でも結構な道のり)から白山を目指すだけでも偉業としか思えない道程なのに、当時はここ、今回のトチノキよりもさらにずっと標高の低い麓、長瀧白山神社から登拝を始めていたわけですからね。いや、これはもうどんなものなのか想像すら出来ませんよ。それが「上り千人、下り千人」といわれるほど賑わっていただなんて。いやはや信じられません。事実は小説より奇なり、ですなあ。


現在では偉大な先人によって沢に橋がかけられ、登りやすいように丸太で階段が作られた禅定道。当時はこれほど整備された登山道ではなかったはず。巨樹をきっかけにこうして様々な歴史や風土に触れ、思いを馳せることができる。これもまた巨樹めぐりの醍醐味と言っていいのではないでしょうか。いえ…決してトチノキに語るほどの魅力がなかったとかそういう話ではないのです。ただ、今回はちょっとトチノキ以上にバックグラウンドの印象が強烈すぎましたね。

2020/9/23訪問
「前谷床並社跡のトチノキ」
岐阜県指定天然記念物
樹齢 約600年
樹高 30m
幹周り 5.8m

岐阜県郡上市白鳥町前谷

コメント:4

RYO-JI 21-03-03 (Wed) 22:04

やはりトチは葉のある時期、晴れの日に見るのが一番だと再認識しました。
雪さえなければ、虫の少ない冬季にこそ山へと入りたいのですが、落葉時のトチはやっぱり魅力半減してしまうでしょうねぇ。
幹周からすると迫力不足とも言えますが、しなやかな枝振りと美しい葉姿、上品ですねぇ。
実に癒されます。

白山もそうですが、昔の人々の信仰心というのは凄いですねぇ。
現代、特に日本では完全に忘れられた(むしろ理解できない)行動でしょう。
伊勢詣でなんかもそうですが、人生の一大イベントと言って良いレベルじゃないかと。
ここを昔の人が今から考えると想像もできないような装備で歩いていたかと思うと、とても感慨深いものがあります。

to-fu 21-03-04 (Thu) 14:47

> RYO-JIさん
山奥に立っていることが多いトチはどうしても雨の日のアクセスが悪くなりますしねえ。
薄暗く雨音でクマ鈴の音がかき消されてしまうこともあり、安全面でもやはり晴れの日に行くべきだろうという気がします。
雪化粧されたトチも美しそうですが、トチの魅力ってやっぱりあの巨大な葉っぱですよね。あれが見られないとどうも物足りません。

本当に昔の人の信仰心には感嘆してしまいます。それこそ信仰のためなら命がけですから。
しかし昔からの信仰の対象とされる場所は今の我々から見てもやはり「何か」を感じますよね。
白山も生きているうちに一度は登ってみたいものです。えーと…次回のサミットは三人で白山登頂でしょうか 笑
現代社会だと信仰の対象は主に学歴とかお金とかになるんでしょうかねえ。
うーん、私はそのどちらにも命をかけるほど頑張ってこなかったので大昔の宗教と同じくらい現実味がありません。

21-03-07 (Sun) 20:17

ブランクあいた目にトチの豊かな樹冠、どっしりとした幹姿が鮮烈です。
確かにトチの巨樹としてはそこまで驚くほどではなさそうですが、それでもやっぱり、フツウの樹とは言えないくらい、でっかいですね。
もし今、こんなすっかり干からびた感性の時にトチの巨樹に出会えたら……すごく揺さぶられるものがありそうです。
ベストなシーズンだったら、そこから動きたくなくなってしまいそう。
遠く、あの四国の山奥の大トチに想いをはせてしまいました。

そう、もうすぐ春ですね。東北も暖かい日が少しずつ増えてきました。
僕も秋に秋田を巡った際の写真の一部が手つけずでそのままになってしまっていますが、徐々に感性をあっためつつ、再度気長に取り組んでいきたいです。
しかし……なんかこの1年で痩せましたよ。笑 体力も確実に落ちてしまったので、白山はとてもとても無理です。
その辺もホント、数度長旅して鍛え直したいところです。早く、もう少し世間が形になりますように。

to-fu 21-03-08 (Mon) 14:58

> 狛さん
あの四国のトチは素晴らしかったですね。今対峙することができたら本当に動けなくなってしまうと思います。
お金と時間さえ確保してしまえばいつだって行くことが出来た…今思うと、なんて幸せな生活を送っていたのかと驚きますよ。
体力も落ちたし、なんだか心の油脂っ気、色々なモノへの欲求まで衰えた気がする。それこそ歳だけ一気にとってしまったような…ダメですね。
今すぐにあの生活を取り戻すことはできませんが、じっくり一歩一歩、これから少しずつ取り戻していきたいものです。

もし今巨樹サミットを開くなら…と想像してみたのですが、やっぱり以前とは違ったものになりそうな気がしますね。
一日に1箇所とか2箇所でもいい。とにかく日常を忘れて、目的の大物の麓でコーヒーでも飲んでぼけーっと過ごしたいかもしれません。
気候も良くなってきましたから、ここからリハビリをしながら昔の感覚を養っていきましょう。
またあの「うお、狛さんまた遠征か!羨ましいなあ…俺も遊びに行くために頑張ろう!」なんて刺激し合える日々が戻ってくることを願って。

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