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志々島の大楠伝説 ~瀬戸内海志々島の話より抜粋~


SONY α7RIII / SIGMA 24-70mm F2.8 DG DN | Art

先の四国旅では当然「志々島の大楠」を再訪しました。既に巨樹カテゴリーの記事としては紹介しましたが、今回志々島在住の方に『瀬戸内海志々島の話 上田勝見・阿部日吉 著』という貴重な書籍を見せていただく機会がありまして。恐らく現在では国会図書館以外で閲覧することが難しい書籍だと思われる(ひょっとすると詫間町の図書館なら蔵書しているかもしれません)ため、その中の一部、志々島の大楠伝説をこちらに引用させていただきます。

権利者の方に無許可で掲載するのもどうかと思いますが、現地の解説板にも記載のない伝説がこのまま歴史の波に飲まれて消えていくのはあまりに忍びない…と考えてのことです。もし権利者の方から直接けしからんとお叱りの連絡があった場合はただちに取り下げますので、お知らせくださいませ。

なお、明らかに誤字、誤記だろうと思われる箇所以外は原文のまま手打ちで打ち込みました。そんな結構大変だったぜ…というアピールを挟みつつ。読みづらい箇所があるかもしれませんが、1984年に発行された書籍ということで、どうかご容赦下さい。


大楠の幹の正面右側の大枝の付け根に縦のひだがある。昔、ぶっさき羽織(背筋の下部が裂けているはおり)を着た一人の武士が、追われて楠の倉の谷へ逃げのびて来た。大楠の元で敵に包囲されて逃げ場がなく進退きわまったのである。武士は樹に向って祈祷した。「楠の大木よ、まこと生あるものなれば、われを助け給え」すると不思議にも楠の幹が開いてその武士を包みこんだのである。その跡がこの縦のひだで、以来武士の魂が樹の主となったという…。


いつの頃か、この大楠のそばに住んでいた家の子供が、この樹の枝を棒きれでさんざんに叩いたところ、その子の母が病気になり、毎日申の刻(午後四時)頃になると高熱を出して苦しむのである。見舞いに来ていた親戚の人が枕元で、(これは樟の木のたたりかも知れんぞ)と、心の中で思ったところ、病人が急に、「そうじゃ、そうじゃ」と叫んだ。病状はその後ますます悪くなって、もう助かるまいと言われるようになった。


これを聞いたその時の寺の和尚が(こんまい子もあるし、まだ若いのに可愛そうじゃ)と七日間ゴマを焚いて(真言の祈祷法)病気平癒を祈ったところ、そのおかげがあったのか、次第に病気は快方に向かい、なおって来た。その母親は、「病気の間、いつも申の刻になると、ぶっさき羽織を着たさむらいが、わたえの枕元へ来て立てっとったんぞえ」と恐ろしそうに人に語っていた、という…。


その頃(明治初年)、楠の倉には五軒の家があった。その家の一人の漁師が、舟を使うため楠の大枝を伐り落としたのである。そのたたりか、漁師は重い熱病にかかって、どうしても治らない。家の者が心配して、その頃よく志々島へおがみに来ていた丸亀風袋町の福崎ユキというおがみ屋のおばさんにおがんでもらった。


すると大楠の主がおばさんに乗り移って、「わしはこの樹の主じゃ、威高い神じゃ。わしの枝を伐るとはもっての外、このままにしておけば、五軒の家のもん全部の命をとってしまうぞ。」と大変なお怒りであった。五軒の家の人達は怖くなってふるえあがった。「どうしたらこらえてもらえるじゃろか」とお伺いを立ててもらったところ、「神に祀り、以後あがめ奉れば許してつかわす。」との事だった。


そこでそのおばさんに頼み、伏見(京都)の稲荷さんから、みたまを受けてもらって祇った。これが大楠の根本の祠(ほこら)にまつってある”楠公正一位稲荷大明神”である。


それ以来、楠の倉の人達の大楠に対するおそれは大変なものであった。ある時、(大正の頃か)寺下(利益院の檀家で島全体を指す)総会で、利益院修理のため、大楠を伐ってその費用に当てては…との相談が出た。


丁度出席していた山地忠治郎(昭和四年没)が、「楠はお寺のもんじゃけん、お寺の費用に伐るのはしょうがないけんど、昔こんな話があったんぞ」と楠のたたりの話をして、「伐るんなら、たたりだけはないようにしてもらいたい。」と発言したところ、皆怖くなって楠を伐るのは止めることになった。


その後も昭和十八年、寺の本堂の大屋根が落ちて解体大修理することになり、その経費に大楠を伐っては…という話が総会にかけられた。楠の倉の大楠ダイというおばさんが、たたりの話をして、「伐らんようにしてもらいたい」と発言して伐採は沙汰止みになった。


今ではたたりがなくてもこの大楠は伐れなくなった。県の天然記念物に指定されたからである。


以上です。

ちなみに頻出する「楠の倉」というのはかつて大楠の麓に広がっていた集落の地名、利益院は現存するも既に無人となった志々島のお寺を指します。伝説だけあって色々と眉に唾なところも散見しますが、それでも幾度となく材として伐採される危機に瀕したことは事実なのではないでしょうか。ああ、こうして現在の大楠と対峙できること自体が奇跡のようなものなのだなと、何やら感慨深いものがあります。

かつては人口約1,000人が暮らした「花の島 志々島」も現在では人口約20人。最近では移住者誘致に力を入れていて、当面の目標は島民30名なのだとか。志々島以外にも香川県の沿岸部は子育て世代の誘致を精力的に行っており、私が知るかぎりでも数世帯の若い方が首都圏から三豊エリアに移住しているので、それなりに効果は出ている模様。住宅を建てるお金の一部を負担してくれる他、職業斡旋なども行っているようですが、ものづくり・アート系の自営業者が多い印象です。志々島の誘致も上手くいくといいのですが。志々島よ永遠なれ。

コメント:4

れもん 21-10-27 (Wed) 0:27

これは、これは!
一枚目から目が点になりました。
四方八方に伸びた大枝、大迫力です!
瀬戸内の小島というロケーションには意外性もありますね。
連絡船に乗るときの高揚感、想像しただけでワクワクしてきます。

これだけの樹ですから、祟りの話もむべなるかな。
折れた枝まで復活したというのですから、
これはもう、我々が考える世界を超越した存在なのでしょう。
四国にはもう何年も足を踏み入れていないのでそろそろと思っていましたが、
例え一泊余分になっても、ここは外せないなと思いました。

RYO-JI 21-10-27 (Wed) 18:23

巨樹にまつわる伝説の常で、資材や金銭にすべく伐採しようとするとタタリが・・・というのはよくありますよね。
しかし書籍としてまとめられている、しかも時代や地名人名などが詳細に綴られているだなんて凄い、驚きですよ。
それを島在住の方に見せていただけたとはとても貴重な体験じゃないですか!
いや、こっちまで興奮してしまいました(笑)。
to-fuさんのように何度も通うからこそ体験できたんだろうなぁとしみじみ納得です。
大楠の存在もそうですが、その書籍ももっと陽の目を見れたらなぁと願って止みませんね。

このコロナ禍でリモートを含めた働き方や生き方がもっと進化して、東京一極集中の流れが変わればいいんですけどねぇ。
しかしIT後進国の日本は無理でしょうね。
私なんて子供がそれぞれ独立したらさっさと何処かに移住したいですよ、もう若くありませんが(笑)。

to-fu 21-10-27 (Wed) 19:57

> れもんさん
ロケーションも文句無し、本当に素晴らしいクスノキです。
8:30の便で島に渡って11.30の便で戻ってくる半日プランで十分満喫できますので、瀬戸内を再訪された際にはぜひとも
お立ち寄り下さい。東海地方にも魅力的な島がたくさんありますが、四国の島もまた雰囲気が違って良いものです。

それなりに数多くの巨樹を見てきましたが、個人的に神様の存在を感じたのは今のところ「石徹白大杉」と、この
「志々島の大楠」だけだったりします。神様が棲んでいるというよりは、長く生きるうちに樹という存在が神様へと
昇華したかのように感じます。いえ、決しておサムライ様の伝説を否定したいわけではないのですが 笑

to-fu 21-10-27 (Wed) 20:09

> RYO-JIさん
そんなタタリの伝承のおかげで現代の我々が巨樹と相対できていると考えると、この類のお話も本当に馬鹿にできませんよね。
仰るように読み進めるにつれて実名など出てきて話の信憑性も増し、単純に読み物としてなかなか興味深いものでした。
私のような一介の…それもどう見ても胡散臭い旅行人に声をかけて本まで見せていただけるとは。ありがたいことです。
つい興奮して「このページだけでも写真撮らせて下さい!」とお願いしてしまいましたよ 笑

私も子供が独り立ちしてくれたらどこかの田舎に移住を!と夢見ています。まあ今も充分田舎なんですけど。
定年まで朝から晩まで会社で働いて老後は公園でゲートボールを。それも悪くない人生なんでしょうけど、これだけ
技術が進歩したわけですから、人間もそれに合わせて生き方を現代風にアップデートしてもいいのでは?と思いますねえ。

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