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香川県観音寺市 生木の地蔵クス(生木地蔵尊)


FUJIFILM GFX50S II / FUJIFILM GF 32-64mm F4 R LM WR

存在こそ知っていたものの何故か訪問を後回しにしていた巨樹。
ええ、瀬戸内海沿岸部を抜ける国道11号線が慢性的に渋滞しているもので…

しかし最近になって本田不二雄著「神木探偵」という巨樹本を読んで、この巨樹だけは見ておかないと!と意識が変わりました。
本記事の主旨からかけ離れてしまいますが、神木探偵はかなりおすすめ。この数年内に読んだ巨樹本の中では断トツの良書です。
ただ巨樹すごい!だけの本でなく、その由来や歴史に踏み込んだ「そこまで取材する?」ってくらい情報の濃いテキスト。
単純に読み物としても面白いのでぜひ。と宣伝。写真も非常にハイレベルです。すごい。


さて話を戻しましょう。生木の地蔵クス。
現地に到着し、車を停めていると近所の方と思わしきお爺さんが近付いてきます。
京都からこのクスを眺めに来たと知ると満面の笑みでお堂へと案内して下さいました。

お堂の中にはクスに関する新聞の切り抜きがいっぱい。
お爺さんはこのクスを管理する数名の中の一人なのだとか。


そもそも「生木地蔵尊」とは何ぞや?と。
大クスの幹内部の空洞に、そのクス内部の本体部分を彫って制作したお地蔵様。まさに生木地蔵尊なのであります。

こちらの地蔵尊は天保7年(1837年)、中姫村(当時のこの辺り)に住む森安利左エ門が生来病弱だった一人娘のナヲさんのために病気平癒を祈願して彫られたもの。四国遍路の途中、愛媛県西条市の四国別格二十霊場第十一番、生木山正善寺で見た生木地蔵を模して制作したものだと伝えられています。その元祖・生木地蔵もぜひともこの目で!と思ったのですが、残念なことに既に台風で倒壊しておりました。

病気がちだったナヲさんは父利左エ門の祈願が功を奏したのか100歳まで長生きできたのだそうです。
このナヲさん、決して真偽不明の伝説的存在ではなく、現在もこちらの墓地にナヲさん親子のお墓が存在します。(私も合掌させていただきました)

ちなみに生木地蔵尊。観音寺市のサイトによると現在も成長を続けており、当時から比べると身長が10cmほど伸びているのだとか。
※どうでもいい話ですが「かんのんじし」ではなく「かんおんじし」です。どうでもよくもないか。


お堂、ナヲさん親子のお墓など関係各所をご案内いただき、あとはゆっくり好きなだけ眺めて行って下さいということでしたのでお言葉に甘えて。
解説板によると幹周7m。市のサイトによると幹周10m。実際に見た感覚ではたしかに現在では10m近くまで成長しているように見えました。
解説板の7mは恐らく天然記念物指定された昭和51年時点の数値…というか、このサイズ感で7m台はありえないわな。

正直申し上げるとこの「7m」という数値が後回しにしてしまった理由でもあるため、これはまさに嬉しい誤算でした。
現在はクスの幹が地蔵堂と一体化していることもあって正確な測定が困難ではありますが、ぜひとも再測定していただきたいところです。
(クスの成長スピードが早すぎてお堂が圧迫されており、最近は写真左手にあるドアのサッシが歪んでしまって開けにくいんだ!とのこと)


ものすごい量の落ち葉。しかし、きれいにまとめられています。
清掃も件のお爺様方がされているそうですが面倒くさい、鬱陶しいといったネガティブな感情が一切感じられなかったのが印象に残っています。
敬意を持たれているんだなあ、愛されているんだなあ。こういう関係が垣間見えると巨樹めぐり冥利に尽きる。一番嬉しいことかもしれません。

ところで地蔵堂のトタン屋根の上部、一部分クスの樹皮が削り取られているのがお分かりになりますか?
屋根がミシミシと圧し潰されてこのままでは建物が倒壊する!ということで止むを得ず削り取られたそうです。


根元にはいくつもの墓石が。
クスが成長するにつれて多くの墓石が幹の内部に飲み込まれていったのだとか。
なんという壮大な墓標…天然の樹木葬か。


今年(2023年時点)新たに生えてきた新芽。
日当たりがよく、元々小川が流れていた場所だけあって土壌も肥沃。
観音寺市のこの辺りは昔からあまり強風が吹かず、台風による被害もほとんどないのだそうです。
いつか大クスが地蔵堂を飲み込んでしまうまでに成長する日が来るのかもしれません。


大量の着生植物を湛えた姿はどことなく南国の風情がある。
いかにも温暖な瀬戸内のクスといった枝張りで、この日も日中は12月の末にもかかわらずスウェット1枚で汗ばむくらいの陽気でした。
車を運転しているとシャツ1枚でも暑く感じるほど。流石に冷房というのもアレだったので、この日は窓全開でした。真冬なのに。


会釈しながら遠慮がちに墓地の中から全景を。
身勝手な思い込みにもほどがありますが、何となく墓中の故人からも「よく来たな」と歓迎されているような気分でした。


真冬の訪問ということでやや色味のくすんだ葉。そして葉の付きも新緑の時期と比べてしまうとイマイチなのでしょう。
それでもこれほど見事で健康的な樹冠。今後もまだまだ立派に成長を続けてくれるはずです。


お墓の傘となり、温かく包み込むように見える大クス。天候に恵まれていたこともあって実に居心地がいい。
墓地の巨樹というとあまり長居した記憶がありませんが、こちらには結局2時間以上滞在してしまいました。
大クスを眺め、地蔵堂の中で新聞記事を読みながら当時の景色に思いを馳せ、そしてまた大クスを眺める…たまらん。余裕で一日過ごせます。

なお通路脇を流れる小さな用水路。こちらがかつての小川だということです。
現在も湧きだした清流がちょろちょろと流れていました。
大クスの側にはボンプ式の井戸のようなものもあり、地中はかなり水分が豊富なのでしょう。


写真右下の大きな墓石は江戸時代の大関(当時は横綱が存在しないため、力士としては最上位)だった投石(なげいし)さんのお墓。
ナヲさん親子のお墓は私の立ち位置左手あたりに立っています。

次回はぜひとも新緑の時期から夏の時期にかけての最も樹冠が青々と茂った姿を見てみたいですね。
まあ最近はこの辺りを年に何度も通っているため、確実に立ち寄る機会はあるでしょう。


今さらですが解説板を。お堂手前にある東屋の中に設置されています。
綺麗なトイレも完備。女性やお子様連れでも安心ですね。


大クスを撫でて体の悪いところをさするとご利益があるのだそうで。
ひとしきり眺めた後、最後にナデナデさせていただきました。
どこをさすったかって?そりゃあ首、腰、膝ですよ。関節…年齢を実感してイヤですねえ。
え?頭?顔?うっさいわ。

ということで「また来ます。お元気で。」と声をかけて次なる目的地へと移動。
素晴らしいクスでした。

2023/12/27訪問
「生木の地蔵クス(生木地蔵尊)」
観音寺市指定天然記念物
樹齢 伝承1,200年以上
樹高 約30m
幹回り 7m(恐らく現在は10mに近い)

香川県観音寺市大野原町中姫2208

コメント:6

RYO-JI 24-01-06 (Sat) 21:54

おおー、これはスゴイ!
生木地蔵というのは見たことが無かったので一気に興味が湧きますね。
クス自体の見た目も大変素晴らしく、生木地蔵の歴史もしっかり伝わっててとても貴重。
世話人の方々の存在も嬉しいし、訪問者の為への心遣いも温かく感じます。
墓地だというのにいくらでも過ごせてしまうというのは、そういった諸々全てが良い方向に融合した結果なのかと思います。
何だったら自分も死後はこのような墓地に埋葬されたいとさえ思ってしまいました。
地獄に落とされるようなことをした記憶はないですが、ここだととても穏やかに永眠できそうですから。

to-fu 24-01-07 (Sun) 15:34

> RYO-JIさん
巨樹の洞にお地蔵様というのは見たことがありますが、巨樹そのものをお地蔵さまにというのは初めてのパターンでした。
自身の一部を彫られてなお平然と成長を続けているのですから樹木の生命力というのはすごいものです。

墓地特有の厳粛さ、余所者を寄せ付けない感じがあまりしなかったのは地域性なのでしょうかね。
いつもなら遠慮して撤退するところですが、何故か「ちょっと失礼しますね」と言えてしまう親密さのようなものを感じました。
私も埋葬されるならこんなところがいいです。ただ、私は地獄行きかも…(一体何をやらかしたんだ)

24-01-08 (Mon) 20:03

佐賀県の「川古のクス」も彫られた地蔵が剥落し、しまいにはでっかい祠になってしまってましたが、昔の人のクスに対する思いの強烈さが感じられる出来事ですね。
個人的には、こういうと良くないですが、正負の両極はあれ丑の刻参りや鎌打ち神事にも通じるものがあるというか、巨樹がまさに生きていてダメージを受けるからこそ尊いのだろうと思います。
自身の願いや思いが本当に血が出るくらい強いからこそ、それを受け止める相手も本当に強い力を宿していなければならぬ。あるいは、仏の加護が本当にあるのなら、自身も巨樹も死なせはしまいと……いずれにせよ、凄まじいものがあるなと。
ニセモノの環境意識にホイホイ踊らされている現代人には到底理解できない境地には違いないな、と。

ともあれ、クスが現在なお元気そのもので、敷地が狭くなるほどの繁茂なのは嬉しい限りですね。
リアルタイムで成長して大きくなっているかのような建物や石仏の傾げ具合がたまりません。クスはこうでなくては。
もっとずっと若いのでは? とも感じます。この勢いがありつつ1200年だったら……とまあ、これは嬉しい方の異論ですね。

to-fu 24-01-08 (Mon) 23:17

> 狛さん
現代だと天然記念物になんてことを!と、即刻逮捕案件になりそうなシロモノたちですよね。
仰るように神がかり的な力にあやかろうとした、見方によっては狂気とも言える執念だったのでしょう。
今の日本人にそこまで狂気じみた信仰心があるか…いや、新興宗教のアレとか最早狂気とも言えますが、やっぱり違う。
命を懸けた執念が行き着いた先には本当に神の奇跡のようなものが存在するのかもしれません。

私も全く同感で、大昔の肥沃な環境を想像すると700~800年、下手したら500~600年?少なくとも、もっと若いクスのような気がします。
数十年前まで中姫集落には家屋すらほとんど建っていなかったそうで、この先周辺の環境はどう変わっていくのか。
今後もこのクスと上手く共存してくれることを願います。

123 24-01-10 (Wed) 11:11

同県に杉にも彫られた地蔵がありますが
古い時代の宗教・願掛けの賜物なのでしょうかね
個人的にはやはり木を弱らせる要因になるのであんまり良いとは思わないですけど
長い時代を生きる存在だからこその見える一つの古い時代背景たる代物ですね
しかし幹回りは仰られている通り、確かに前情報より随分良いように見えます
これからもグングン存在を増していきそうな元気なクスノキで良いですね

そう言えばひょんな事から友人と宝生院のシンパクを見に行ってました
自分以外巨木に興味を強く持ってるメンツがいなかったので滞在時間は僅かでしたが
日本一のビャクシンの名はやはり伊達では無かった

今と違い少し前までは周囲を囲む物も無かったようなので
より良いアングルで取りやすかっただろうな~と思いつつ、同島でうどんに負けない程の食感のそうめんを
啜りながら思い返してましたね

to-fu 24-01-10 (Wed) 20:20

> 123さん
全く同感で、やはり現代の価値観で見るとクスへのダメージが気になってしまいますよね。
当時の価値観から見ても、上で狛さんがコメントされているとおり「自身の血を流しながら神を傷つける」凄まじい行為
だったのだろうと想像します。たった100年200年で日本人の価値観がここまで大きく変わるのですから、まさに我々は
激動の時代を生きているのかもしれません。

宝生院のシンパク!!
私はまだ写真でしか見たことがありませんが、あれはもうビャクシンの規格を軽々と超越してしまってますね。
ああ、羨ましいです。私も今年こそは小豆島に渡ってみたい。
半田そうめん本場の123さんが仰るくらいなので小豆島のそうめんも美味しいのでしょうねえ…

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