- 2018-08-22 (Wed) 10:21
- SONY FE 24-105mm F4 G OSS SEL24105G | イチイ | 岐阜県 | 巨木たち(地域別) | 巨木たち(樹種別)
SONY α7II / SONY FE 24-105mm F4 G OSS SEL24105G
白山中居神社から続く果てしないグネグネ道を抜けて岐阜県高山市へ。以前狛さんの訪問記事を読んで以来、岐阜県に来る機会があったら是非訪れてみたいと思っていたのが、この「治郎兵衛のイチイ」。樹齢約2,000年と言われる巨樹そのもののストーリー性もさることながら、画像を見ただけで分かるその心地良い環境が気になっていました。イチイの巨樹のすぐ近くに観光客用の駐車場が整備されていたため、そちらに駐車させていただき徒歩で向かいます。
待望の巨樹との対面。これはもうその場の気持ちを率直に書くしかないので書いてしまいますが、いざ対面してみて感じたことは「あら…想像よりもずっと小さい。」でした。周囲が開けていることもあり、ここにズドン!とスギの巨樹なんかがそびえているとおおっ…と度肝を抜かれること間違いなしでしょう。しかしこのイチイさん。どちらかというと謙虚にちょこんと立っているような感じが致します。
岐阜県の伝統工芸品、一位一刀彫(いちいいっとうぼり)で知られるイチイの木。イチイは岐阜県の県木ですが、近畿圏に住む者としてはあまり身近な存在ではありません。実際のところイチイの巨樹自体見るのは初めてのことなので、そのスケール感のイメージが全く出来ていなかったのです。事前の情報収集で大きくなる樹種ではないと理解していたものの、いざそのサイズを目にするとどうしても拍子抜けしてしまう感は否めません。
それでも近付いてみると、流石に樹皮はなかなかの貫禄。これを見てようやくニンマリと口元が緩みます。
目の前に墓石がありますが、これはあくまで後になって建てられたもので、元々はこのイチイが墓標として植えられたのだそうです。今で言うところの樹木葬ですね。こちらは鈴木家のお墓で、イチイに冠せられた「治郎兵衛」というのは屋号なのだとか。樹齢2,000年の真偽について考え始めると2,000年前から続く鈴木さんっていったい何者なんだよ…と、そういう無粋な話になってしまうでのアレですが、少なくともこのイチイを間近で見ている限りではまんざらでもないな…と納得させられるだけの風格を感じました。少なくとも1,000年以上生きていることは間違いなさそうです。
横から眺めるとやや前のめりに傾いているのが分かります。根元から幹が膨れ上がっているため幹周を誇張している感もあるものの(別にこの巨樹が悪いわけではない)、太さや高さが何メートルだとか数値では計れないだけの見応えは確かにありました。ささくれだった樹皮のグラデーションが美しく、老木特有の温かさを感じる巨樹です。
倒れてしまわないようワイヤーによって支えられていました。正面から見る限りではほとんど気にならない位置に設置されており、地元の方の景観維持へのただならぬ努力が伺えます。周辺の芝が丁寧に刈り込まれているのも本当に素晴らしい。初夏に訪れるとイチイの手前にはササユリの花が咲き乱れるのだそうです。次に訪れる機会があれば、是非ともササユリの中にそびえるイチイを見てみたいなあ。
こうして見ると傾きが顕著ですね。樹木保護のため白い柵内には立ち入ることが出来ません。イチイそのものを注視するよりも、周囲の景観の一部として楽しむべき巨樹のように感じました。巨樹だけを見てサクッと帰るのではなく脇の東屋に腰かけて、コーヒーでも飲みながらぽけーっと景色を眺める。最高に贅沢な時間の使い方なんじゃないでしょうか。
“すばらしい文化財を みんなで守ろう”
この単純明快にして非常に困難な一つのスローガンを、集落の方々の力を結集させて守り続けているのが分かります。どことなく兵庫県丹波市の「柏原の大ケヤキ(木の根橋)」に通ずるものを感じました。人々に愛される巨樹に出会える、これだけでもう本当に気持ちが温かくなるというものです。日本一のイチイがこれからもずっと地元の方々の誇りであり続けることを願います。
治郎兵衛のイチイだけでなく、その周辺のお墓も丁寧に手入れされています。屋根が付いているところが東屋。汗の吹き出すような真夏に訪れましたが東屋の日陰にはひんやりとした風が吹いており、休憩にはもってこいのポイントでした。ちなみに右側手前のイチイが最大のもので治郎兵衛のイチイ。真ん中の墓標もイチイの木。奥に見えるひょろ長い突出したものはスギで、元々は同じようにイチイが植えられていたものの落雷で焼失し、後になって植えられたものなのだそうです。
東屋の辺りから。うん。この景色が本当に素晴らしいのですよ。陳腐な表現ですがまさに日本の原風景。自分が産まれた町も育った町もここまでの山奥ではありませんでしたが、それでも心の中の何かが疼くとでも言いますか、懐かしいなあ…なんてしみじみ浸ってしまいます。
イチイの巨樹そのものに対しては期待値が高すぎたこともあってちょっと拍子抜け…というのが正直なところですが、この景色が見られただけで充分に来た甲斐がありました。この巨樹だけを目当てにもう一度来るかと問われると何とも答えにくいけれど、もう一度岐阜県巨樹巡りをすることがあればやっぱり目的地の一つに加えているんじゃないかなと思います。
治郎兵衛(じろべい)のイチイ
国指定天然記念物
樹齢 約2,000年
樹高 約15m
幹回り 約7.95m
岐阜県高山市荘川町惣則131
コメント:4
- 狛 18-08-23 (Thu) 15:42
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まず良かったのが、僕のナビ子が悪霊に取り憑かれてあの道を案内したわけではない、とわかったことです。
正直、あの変な道からスポンと出たときにはホッとしました。
そして、このイチイの環境には一層ホッとさせられるものがありますね。相変わらず周囲がものすごく綺麗! 笑
お墓まいりすら満足にできない21世紀にあって、こうした先祖尊敬のユニークな形を見ることができるのは、本当に貴重だと思いました。
一目で大事にされていることがわかるし、そのためにものすごく手間がかかっていることもわかる……鈴木さんのお人柄も感じられます。
そのあたりからしても、日本一のイチイの巨樹とはまさにこれであろうな、これであって欲しいとも思いました。
実際見ても、確かに幹周囲はそのような数値になるものの、樹高も枝張り面積もそれほどでもないように感じましたが、だからこそ個人宅の墓標樹としてちょうどいい感じもします。
収まりが良く、愛着という点で印象に残ってくれる巨樹ですね。
で、向こうの杉はイチイの後釜だったとは。
きっと、うちのお墓に樹がないなんて考えられん! と、早く成長する杉を選んだのではと想像します。
ああ、確かにここでササユリ眺めながらアイスコーヒーでも飲めたら、ゆっくりしてしまいますねえ。笑 - to-fu 18-08-23 (Thu) 23:04
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> 狛さん
あの道は一体何だったんでしょうね。地図で見る限り直線に近いような国道だったので僕も油断しました。
ただ、あの時折峠道の眼下に見える風景の美しさは今でもこの目に焼き付いています。
あまりの迫力に声も出なくなるような巨樹も良いですが、こういうこじんまりとした、周囲の環境や人々の想いを想像しながらぽけーっと眺められる巨樹も良いものですね。僕も石徹白大杉、浄安杉を訪問した後に訪れたので尚更そう感じたのかもしれません。この地を一般開放して下さっている鈴木さんには本当に頭が上がりませんねえ。
そうそう。あのスギはイチイの後継者なんだそうですよ。何でここだけスギなんだろうと気になって調べてみたんです。しかし周りには低木が多いので、今度はこのスギが落雷のターゲットになるのでは…なんて余計な心配をしてしまいます。ははは… - RYO-JI 18-08-24 (Fri) 22:49
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確かにここまで周囲が整備されてて気持ちいい場所は少ないですよね。
写真で見てそう感じるくらいなんで、実際にその場に立つと視覚以外の感覚からも実感として楽しめそうです。
ゆっくりコーヒーを飲みながら・・・いいですね!
私もここは機会があれば行ってみたい場所なんで、その時はコーヒーの準備をちゃんとしておきます(笑)。
そしてこのイチイは、ワイヤーで支えられているとはいえ、その立ち姿が何とも魅力的。
お墓に寄り添い守っているような感じすらして、その献身ぶりが心に訴えかけてきます。
まぁ見る側の期待を込めた勝手な妄想ですけどね(笑)。
イチイ自体が珍しいし、樹齢2000年ともいわれる存在というだけで、見なくちゃいけない巨樹だと思います。 - to-fu 18-08-26 (Sun) 16:56
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> RYO-JIさん
やはり目を惹きますよね、樹齢2,000年。
僕もその筋の本を読んで樹齢2,000年?本当かよと印象に残っていました。
巨樹そのものは正直なところ結構地味なものだと思うんですが、それでも十分に見応えがありました。巨樹撮影にじっくり時間をかけるタイプのRYO-JIさんならきっと楽しんでもらえるような気がします。RYO-JIさんもコーヒーセットを積まれていると聞いていますので、是非とも駐車場で沸かして東屋でぽけーっとしていただきたいですね。
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