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長野県下伊那郡阿智村 小黒川のミズナラ


SONY α7RIII / SONY FE 24-105mm F4 G OSS SEL24105G

長野県巨樹めぐりの二日目。「月瀬の大杉」を堪能して道の駅 信州平谷で目覚めた私は早速この日一番の楽しみにしていた巨樹へと向かいます。日本最大のミズナラにしてミズナラ界唯一の国指定天然記念物「小黒川(こぐろかわ)のミズナラ」です。


標高1,000m以上の爽やかな風を受けながら運転するだけでも心地良いというのに、視界にこの立ち姿が飛び込んできた瞬間不覚にも感動してしまいました。これは大きい。そしてなんと美しい樹形か。普段目にすることのないミズナラということもあって、自分は今旅をしているんだという実感が突如こみ上げてきます。何だこれ。最高じゃないか。


国内最大のミズナラ。記載のとおり平成24年に北側の大枝が折損しています。できることなら折損前に会いたかったというのが正直な気持ちですが、相手もイキモノですから仕方ありません。「小黒川のミズナラ」で検索すると平成24年以前に訪問された方のログがたくさん見つかりますので、大枝が健在だった頃の錚々たる立ち姿もぜひご覧下さい。


ミズナラ周辺は柵で囲われているため近づくことができない上に広角レンズで全景を撮影したので、幹の太さが上手く伝わっていないのではないかと思います。平成24年に折れた大枝の一部がこれ。枝ですら並のミズナラよりもずっと太い。これを長年支えていた幹ですからね。そりゃ幹だってとてつもなく太いに決まってる。


とはいえ解説板記載の幹周9.4mという表記にはいささか疑問を感じます。これは流石に根回りか何かの誤りではないかと。9.4m前後のスギやクスノキなら何本も見ていますが明らかにそれらより細い。柵を乗り越えてどれどれ…なんて計測するわけにもいきませんので遠目に目視する以外に確認する術がありませんが、せいぜい6.5~7.5mくらいではないかなあ。というのが私の率直な感想。


全方位放射状に広がる枝葉が美しい。けれども流石に大量の支柱が痛々しい。樹皮の色にしたって表皮が全て剥がれ落ちているからなのか、先日見た兵庫県の「千町のミズナラ」とは質感が全く違います。赤茶色の土くれのようにも見えて、素人目にも健康状態がよろしくないであろうということが理解できる。それこそもし支柱を取っ払ってしまったら多くの枝が崩れ落ちてしまうかもしれません。


樹冠は美しく、こうして遠目に眺めているととても衰弱した巨樹には見えません。青空に映える深々とした緑。ああ、この爽快感がクセになるから巨樹めぐりはやめられないんだ。訪問した年(2019年)の夏は日本全国逃げ場がないと言われたくらいの猛暑で実際私も地元京都では死にそうな思いをしたほどですが、撮影時の気温は20℃前後。ああ、理想郷はこんなところにあったのかと感動しましたね。まあ真冬は豪雪&極寒地獄。私のような軟弱者にはとても耐えられないのでしょうが。


少し寄って見てみると枝中にシダ科の着生植物が。いくら支柱で支えようと、結局その支柱の先から折れてしまいそうで不安になります。


大枝の一部が安置された東屋にミズナラの保護対策についての記載が貼られていました。根元部分の内部はほぼ腐朽している、とのこと。それでもこれだけ生き生きと葉を茂られてそびえているわけですから、巨樹の生命力の強さと保護に携わる人達の努力は胸を打つものがあります。

またもう一枚別に貼られていた資料によると近年南信では「カシノナガキクイムシ」によるナラ害が流行しており、現時点では直接の被害がないものの150m先では被害にあった木が7本確認されているため、予断を許さない状況なのだそうです。


私が訪れた際もその保護対策の真っ最中でした。元々あった囲いの外側にさらにもう一つの囲いを設置する工事が行われており、先ほどの真正面以外からは幹を見ることができないという状況。私のような訪問客からすると囲いが大きくなる=より遠くからしか巨樹を眺めることができなくなるということで残念な気持ちもありますが、枝の落下で怪我をする可能性がある上に土を踏み固めて根を傷めてしまいますから。恐らく現在はこのネットが撤去されて幹を眺められるようにはなっているのではないでしょうか。


まあ私も諦めの悪い男なので、せめて写真だけでも!と腕を伸ばしてネットの上から撮影してみました 笑
これは…先ほど見たどのアングルからの姿よりも痛々しい。美しいと思えた樹形は既に半身を失っており、太枝を失ったことで重量バランスが崩れたのかワイヤーで引っ張ることによって辛うじて立っているといった様子。平成24年以前に訪問された方のログではこれぞパーフェクトとも言える全方位に枝葉を広げた立ち姿が確認できましたが、現在は完全に半身を失っています。これはなかなかショッキングな姿でした。


最早痛々しいというのを通り過ぎて人間の支えによって辛うじて生きている状態、とまで言ってしまっても差し支えないように思えます。数百年生きてきた巨樹が平成24年から僅か10年足らずでここまで一気に衰弱してしまうものなのか。そう考えると数百年、あるいは千年以上。人間のスケールからすると悠久とも言える時を生きる巨樹との邂逅一つ一つそのものが奇跡なのだと痛感させられる。健康なときに会いたかったという気持ちより、それでも今来ることができて良かったという感情の方が強く残りました。

衰退期に入った巨樹を看取る…というにはまだ早いかもしれませんが、こうして弱々しくも懸命に生きている姿をしっかり見つめ、後世へと残すこと。我々愛好家がすべきなのはまさにこういう事なのかもしれません。今日こうして出会えたことに感謝。否応なしに考えさせられます。


色々と考えさせられることもあり、何よりこの環境の心地良さもあり、随分と長居をしてしまったようです。強烈な朝日が差して撮影が困難になってきたので、そろそろ次へと向かうべき時間でしょう。この日は多くの巨樹を回りながら松本市の宿へと向かう予定なのですが、一発目から早速2時間も費やしてしまいました 笑 まあ元々ここがメインで今回他はなりゆきで…くらいの気持ちだったからOKです。


去り際もどこか名残惜しく、振り返っては何度もその姿を撮影したことを覚えています。立地環境も含めて実に良い巨樹だった。いろんな意味でまた再訪したい巨樹です。なお、現地の立て看板によるとこの先に「山の神大かつら」なるモノが存在する模様。今回は別ルートを選択したので訪問ならずでしたが次回こそは併せて見ておきたいものです。

2019/8/7訪問
「小黒川のミズナラ」
国指定天然記念物
樹齢 推定500年以上
樹高 33m
幹周り 9.4m(恐らく実測値は7mほどではないか)

長野県下伊那郡阿智村清内路1158番地4

コメント:4

20-11-10 (Tue) 20:45

ミズナラ。関東平野もそうですが、東北のこちらでもまばらにしか見ない樹種です。
かつての炭焼きの材として、あるいは針葉樹に置き換えられて、だいぶなくなったのだろうな……と考えます。その点手付かずの岐阜、長野や北海道にはある。土地の色をよく表す樹種だと思います。
目に珍しいのもそうですが、印象が良い樹種で、「千町のミズナラ」をto-fuさんの記事で見てから気になり始め、巨樹ともどもミズナラ探しをしています。笑

といえば、この巨樹ですね。ミズナラの代表であると同時に、全ての巨樹の代表というかのように、様々な問題と魅力を一手に抱え込んでしまっている気がする巨樹です。
「日本一のミズナラの巨樹」というだけで凄まじく重い肩書きなのではないかとさえ思う……それはやはり半壊してしまったこの姿に出会ってしまったからでしょうか。
病害の増加と北上は、やはり我々人間の活動によるものなのか。このような美しい巨樹と、どうにも共存できないものなのか? 僕が訪ねた時は夕暮れも近く、ひとり、無言になってしまいました。

今頃きっと黄葉しているでしょうね。
今までの500年に比べて、今後の1年1年は長く感じるかもしれない……それでも、ずっと立っていて欲しい巨樹ですね。

RYO-JI 20-11-10 (Tue) 21:14

狛さんが以前掲載された写真を拝見して以来、ずっと心の中にあるミズナラです。
美しいと感じる反面、痛々しいことこの上ない・・・でも見たくてたまらないんですよねぇ。
満身創痍の姿を見て自分がどう思うのか?何を感じるのか?
養生を行っているとはいえ、いつその命を終えてしまうかは誰もわからない訳ですから気が気がじゃないですよ。
初回は心情的に青々とした葉を付けている時期に目にしたいものです。
落葉時だと感動ではなく大きなショックを受けそうで。

ナラ枯れはここ数年よく耳にしますが、あんな小さな虫によってその何万倍もの大きな樹々が枯死させられるだなんて・・・。
しかしコロナに直面している今は、ナラ菌の怖さもより実感が伴います。
どうかこのミズナラは感染しないよう願ってやみません。

to-fu 20-11-11 (Wed) 8:51

> 狛さん
我々が住むような平地は気温も湿度も高く適さない、かといって東北の山中の冬は彼らにとって過酷すぎる…といったところでしょうか。
「夏はカラッと涼しく、冬は寒すぎない地」そう考えるとミズナラが適切に育つ地は人間にとっても住みやすいところであるように感じますね。
身近なところに無い樹種だからこそ会いに行くには適度な非日常感もあって、旅の目的地にするにはもってこいかもしれません。

この巨樹に関しては既に訪問された先達の公開情報の多くが平成24年以前のものなので、より現在の姿とのギャップが大きく
感じられます。この10年、20年くらいのマツクイムシによる害なんかもそうですけど、突然このような状況が生じていることと
人間の営みが全くの無関係だとはどうしても考えられません。我々の何かが自然界のサイクルを刺激しているのでしょう。
巨樹だけにとどまらず自然界の美しさに感動する機会の多い趣味ですから、やはりこうした姿を見ると否応なしに色々考えさせられますね。

黄葉する姿…絶景でしょうねえ。
仰るようにもう長くはない…着実に死へと近付いている巨樹だと思いますが、少しでも長く、そして良い余生を過ごしてもらいたいものです。

to-fu 20-11-11 (Wed) 9:11

> RYO-JIさん
狛さんの場合は長旅の終盤だったこともあって、私の訪問よりも一層感慨深いものになったのではないかと思います。
つい先日この近くの「大湫神明神社の大スギ」が倒壊してニュースにもなりましたが、よくこのミズナラが雨風に耐えて
立ってますよね。ミズナラの生命力はとうに尽きていて、あとは自然災害と人間の樹木医学との戦いなのかもしれません。
我々が死を迎える以前にこのミズナラが倒れてしまう可能性は高いと思われますので、機会があれば是非ともRYO-JIさんにも
あの最後の輝きとも言える壮絶な立ち姿を眺めていただきたいです。やはり春~夏がいいでしょうね。私ももし冬に
会っていたらシンプルにショックだけ受けてその場を後にしていたと思います。

ナラ枯れに松枯れ。流石に近年のペースはちょっとおかしくないかと…
ナノレベルのウイルスに生活を脅かされている人間の暮らしとダブってしまい、本当に他人事とは思えませんね。

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