- 2020-01-31 (Fri) 16:24
- SONY FE 24-105mm F4 G OSS SEL24105G | スギ | 巨木たち(地域別) | 巨木たち(樹種別) | 高知県
SONY α7RIII / SONY FE 24-105mm F4 G OSS SEL24105G
「六社聖神社のスギ」を後にして我々が向かったのがこちら「桃原の牡丹杉」。GoogleMapにも登録があるスギで、さらには十二所神社の境内にあるという前情報から簡単に見つかるだろうと踏んでいたのですが、これが結構分かりにくかったです。道路沿いから少し奥まったところに神社の敷地が見え隠れするので、GoogleMap登録地点付近に一旦車を停めて徒歩で探した方が発見しやすいかもしれません。(間違いなくGoogleMap登録地点付近には位置していました。)
解説板に書かれているとおり地元ではその昔この大杉に天狗が住んでいたと伝えられていることから「西豊永の天狗スギ」とも呼ばれています。およそ1,200年前に京都の巫女17人が土佐の地に流されたが、そのうちの数人が京柱峠を越えてこの地に辿り着き牡丹杉を植えたのだとか。この桃原は平家の落人伝説で有名で日本三大秘境の一つにも数えられる「祖谷」の近くですから、当時からここまで逃げれば追手も来ないだろうと確信できるほどの土地柄だったのでしょう。事実、牡丹杉はこの辺りの在来種や魚梁瀬スギ、おびスギ等とは明らかに異なる品種であり、恐らく八房杉の系統ではないかと考えられているそうです。
ちなみにこの八房杉、八房という品種の杉であって、あの奈良県の「八ツ房杉」とは何の関係もないみたいですね。調べている過程で何?あの八ツ房杉の系統だって?とビックリしたのですが、まさか八房なんていう紛らわしい品種(失礼な言い分だ)があるとは思いませんでした。
いきなりヒューマンスケールを載せてしまいますが、これはもう文句なしにとんでもない杉です。幸か不幸かすぐ側に国宝クラスの「杉の大杉」が位置することから全国的な知名度は高くありませんが、もしこの牡丹杉が他県に生えていたなら観光資源として大々的にアピールされることは間違いないでしょう。
これが本当に杉なのか?松の盆栽を思わせるこんもりした葉の付き方は私の知るどんな杉とも異なっています。枝ぶりも繊細で実にしなやかです。
誰が剪定しているわけでもなく、自然にこの造形が生まれるという奇跡。サイズだけで見ると全国のトップランカーたちにやや見劣りしますが、それでも幹周10.6mですから数値だけで言っても相当な迫力です。
遠目に見るとしなやかでカツラのように女性的な巨樹のようにも思えましたが、近くで見上げると随分と印象が違います。幹周10mオーバーのスギですから当たり前といえば当たり前なんですけども、とにかくデカい。そして遠目には繊細さを感じさせた枝ぶりにもややグロテスクな雰囲気があります。苔生して原生生物を思わせる主幹の迫力も相まって、正直言うとちょっと怖い…それくらいの威圧感がありました。
この辺りは標高も高く、気候的にも厳しいものがあるのでしょう。根本からへし折れた大枝、吸血コウモリのように纏わり付く着生植物。ぬるま湯に浸かるような人生とは無縁だったんだろう…壮絶なまでの人生(樹生)の苦労が立ち姿からも伝わってきます。
正面から遠景で見る姿とは全然印象が違うでしょう?ええ、本当にデカいんです。周囲は柵で囲まれていますが、全く不満に感じないくらいには近寄ることが出来ます。
まさに「野生」といった佇まいに息を呑みます。もののサイトで見る写真は遠景が多かったものですから、まさかここまでモンスター的な巨樹だとは想像していませんでした。
裏側、つまり山の斜面側の姿。繊細で盆栽のようなこんもりした姿とは打って変わって、こちらから見ると荒々しい山奥のウラスギのようです。眺める距離や角度によって一気に姿を変える巨樹。この手の巨樹は撮影していて本当に楽しいし、そして撮影が本当に難しい。こうして見返してみてもやっぱり写真が気に入らないし、そんなことより今すぐにでも再撮影したくてウズウズしてくるんだなあ。
今回の四国巨樹めぐりに出発するにあたって現地の方のブログなど訪問記を漁ったところ、杉の大杉よりもこちらの方が好きだという意見を拝見したんですね。それでまあ未だ見ぬ杉の大杉に期待を膨らませる私としては、杉の大杉より好きな巨樹ってどんなもんよ?と密かに楽しみにしていたんです。これは確かに個性的かつ魅力的な杉ですね。愛知県の「切山の大スギ」、石川県の「五十谷の大スギ」…特に私の印象に残っているそれら個性的な杉シリーズと肩を並べるほどに素晴らしい一本。ええ、控えめに言っても物凄く好きな杉です。
最後に各自もう一度少し離れて遠景などをパシャパシャ撮って撮影を終えました。ここから眺める造形は自然の作り出した芸術作品とでも言いますか、本当にどれだけ長いこと眺めていても飽きませんね。そして風が吹くとまるでカツラの巨樹のように幹がギイ…ギイ…と軋む音が聞こえてくるわけですが、その心地よさと言ったら。皆さんにも是非立ち寄ってもらいたいという気持ちもあり、多くの見物客が訪れることであの桃源郷のような浮世離れした雰囲気が損なわれてほしくないと願う気持ちもあり。あの立地だからこそ良いのかもしれませんね。
2019/5/22訪問
「桃原の牡丹杉」
大豊町指定天然記念物
樹齢 伝承1,200年
樹高 31m
幹周 10.6m
高知県長岡郡大豊町桃原1517
コメント:4
- 狛 20-02-01 (Sat) 11:49
-
なんと、僕も巨樹「八ツ房杉」に連なるものだと思っていましたが……。個性と出自によって、そう期待してしまいますね。笑
確かに検索すると「八房性」なる盆栽用語が出てきますね。裏杉・表杉にしても亜種までは分岐しないはずですし、環境によって生き方を変えるという性質なのだろうと思います。本当、杉の生き方は柔軟で逞しい。勉強になりました。
それにしても、この樹だけが周囲のものと全然違うので、やはりどこからか移植されたものだとするのは当然です。
かつては苗だったかもしれないそれが、今はこんな巨樹と化している。それ自体、伝説伝承化するに値する出来事だと思います。
前情報や他の方の写真に惹かれて自分も見てみたいと思う。それが入り口なのは間違いないですが、現地に立ってみると意外なことが色々とわかりますね。
この牡丹杉の前で強く感じたのは、「こんな樹だったのか!」という、実像を初めて掴んだ衝撃でした。
「期待通りに(またはそれ以上に)すごい樹だった!」が杉の大杉の感想だったとしたら、それとは全く異質の感想で、ということは、本来比べられないことかもしれません。甘いと辛いの違いみたいなもので……。
牡丹杉のさらに素晴らしいところは、神秘的なまでの個性を発揮しながら、巨樹としても間違いなく印象に残るほど大きいということ。あの大きさであの形状、ほんと、戦慄しながら撮ってました。
当日は僕の無理矢理な計画で振り回したこともあり、各所でじっくり時間が取れず、申し訳ありませんでした。
牡丹杉では逆光だったこともあって……そもそも画角が全く対応できないほどデカくて、僕としても、もっとできただろう写真を量産してしまいました。見返しても、悔しい。
気合を入れて再訪したい巨樹の一本です。 - to-fu 20-02-01 (Sat) 21:29
-
> 狛さん
やはり我々が八房杉と聞いて連想するのはあのレッドモンスターですよね。
奈良の大杉の小枝を京都の巫女さんがお手植えした、なんて聞くとそれなりに説得力もあります。
樹齢1,200年の是非は別にしても何者かが他所から持ってきた苗木をわざわざこの地に1本だけ植えたということは
間違いなさそうですから、見た感じの主観(樹齢800年くらいでは?)で言うと平家の落人が植えたのか、とも思ったり。
この杉に関しては仰るように予想だにしなかった姿を見せてくれましたね。
まさかあんな異界の生物みたいな怖い巨樹だとは思いませんでした。
杉の大杉を見てしまったら他の杉を見ても何も感じなくなるかも、という不安がありましたが完全に杞憂でしたよ。
いえいえ、あの二日間の工程は絶対にあれがベストですよ。あれ以上のルートは今地図をなぞり返してみても考えられません。
終日動き回って撮影していると、どうしてもタイミング的に逆光や夕暮れの強い日差しで撮影に満足できない巨樹が出てきますよね。
あれはきっと牡丹杉がお前らもう一度撮りに来いよ!と言ってくれていたんですよ 笑
あの日撮影した4本の杉はやはりどれも外せない…同じルートで再訪することになるだろう予感があります。 - RYO-JI 20-02-03 (Mon) 22:21
-
その名前のイメージもそうですが、遠景から見た姿とすぐ側で見た姿のギャップの落差がもの凄いですよね。
こんなに違って見えたのは他にはありません。
虫も殺せないような優しい女性と思って結婚したら、夫を顎でこき使う暴力鬼嫁だった・・・みたいな(違う)。
まぁそれくらいの二面性があるということで、強く記憶に残るスギになりました。
写真に関しては、私も同感です。
全然満足できる結果じゃなかったですね。
機材もしっかりと太刀打ちできるもの(レンズ)を用意して再訪したいですよねぇ。
そうなったらもう言い訳できませんが、でもやっぱり満足できる一枚はキビシイかも(笑)。 - to-fu 20-02-04 (Tue) 0:31
-
> RYO-JIさん
えーと、あれ?RYO-JIさんにウチのヨメのこと紹介しましたっけ? 笑
いやいや、こんなこと書いてるのがバレたら本当に不味いことに…
遠目に見ると確かに牡丹杉ですが近くで見てしまうと…恐怖の巨杉ゾンビのような(失礼)
近付いて印象が変わる杉というと他にはあまり思い浮かびませんね。稀有な存在です。
いざ近付いてみると「あれ?思ったより小さいな…」みたいなガッカリ系はたまにあるんですけど 笑
撮影のタイミングだけはどうしようもありませんが、あの逆光はちょっと手強かったですね。
私も次は色々とレンズを持って撮影に臨もうと思っています。
もう本当に後悔してるんですよ。結局横着して24-105mm一本だけ持って家を出てしまいましたからねえ。
トラックバック:0
- このエントリーのトラックバックURL
- https://withphotograph.com/wp-trackback.php?p=12502
- Listed below are links to weblogs that reference
- 高知県長岡郡大豊町 桃原の牡丹杉 from with photograph