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三重県南牟婁郡御浜町 引作の大クス(引作の大楠)


SONY α7RIII / SIGMA 24-70mm F2.8 DG DN | Art

和歌山県との県境にほど近い三重県のほぼ南端、御浜(みはま)町。国道42号線沿いにある道の駅 紀宝町ウミガメ公園から数キロほど山の方に入った先に引作(ひきつくり)の集落があります。ここに巨大なクスが存在するということは近畿圏の巨樹愛好家には有名な話なのですが…何しろ遠い。私は前夜着、近くで車中泊して日の出直後に向かったのでした。そうそう、道すがらミカン類の無人販売所がそこかしこにありまして、お土産にそれを買いつつ、さらには朝食がてら口にも放り込みつつの訪問です。結構たくさん入って一袋100円ですからね。そりゃあもう買いまくりの食べまくりですよ 笑 聞いた話によると、この辺りでは通年ミカンが収穫できるそうです。

ダメだダメだ。みかんを食べてる場合じゃない。ここからでももう確認できますね。あの鳥居の背後にある巨大なアレに違いありません。早速みかんを食べながら向かうことにしましょう。


素晴らしい迫力、そしてなんと美しい樹冠。もっと威圧感のある巨樹を想像していましたが、わりと低いところで主幹が枝分かれしているため、実物は私が思っていたよりもずっとシュッとしてスマートな立ち姿でした。解説板の目の前は駐車スペースになっているので道の狭い集落ですがのんびりとクスを眺めることができます。(撮影の邪魔になるので、私は少し離れたところに駐車してきました。)トイレ、ベンチにテーブルも完備。是非ともここでのんびりみかんを食べていただきたい。


うん、雰囲気は抜群に良いですよ。高台の集落に立つクスノキ、というと先日紹介した「寺野の大クス」と立地が非常に似ていますね。集落のてっぺんに寺社と御神木があり、そこを起点にして斜面に放射状に集落が広がる光景。あくまで集落の中心は寺社であり、この土地で人々が暮らし始めた頃からずっと変わらず崇められている。そんな様子が窺えます。


せっかくなので、ひとまず呼吸を落ち着けて麓の案内板に目を通します。明治44年に周辺のスギの大木とともに切り倒すことが決まったこのクスノキ。これを知った南方熊楠(みなみかたくまぐす)がかの民俗学者 柳田国男に樹木保護を依頼し、彼らが尽力した結果「引作の大クス」だけは伐採をまぬがれた、ということです。ちなみにここには書かれていませんが、伐採の経緯は我々愛好家にとって悪名高い神社合祀問題のゴタゴタ。このクスにはなんと800万円相当!の値段が付いたそうですよ。

ここで名前の出てくる南方サン。実は和歌山や三重の巨樹を回っていると何度も目にすることになる名前でして、この大クス以外にも熊野周辺にある数多くの巨樹や森林を守ってきた方なのだそうです。南方熊楠サンなくしてあの現在の粛々とした熊野の雰囲気はなかった。そう言いきってしまっても大袈裟ではないのかもしれません。


分かってはいましたが、とてつもなく巨大なクスです。写真に向かって私の左手は石垣になっており、それを飲み込む、破壊するような形で巨樹が成長しています。幹周の測定は私の頭上にある石垣の上を起点に高さ1.3mの地点で測定されており、私の立つ最も巨大なあたりがカウントされていないのはややアンフェアな気も致します。ただ、幹周15.7mということですが…うーん、どうなんだろう。そこまでは無いんじゃないかな、と。かつて巨樹界の先輩、高橋弘サンが実測したところ14.9mだったそうですが、うーん。


2007年にこちらの大枝が折損したそうです。どうも亀裂が発見され、その治療が始まった矢先に倒壊してしまったということですね。恐らく14.9mというのはこの大枝が健在だった頃の数値ではないでしょうか。現在の姿は主観では13mあるかないか、くらいに感じられました。もちろん13mと言ったら充分全国に誇れる大きさではあるのですが。

また、この巨樹の場合石垣に埋もれている部分は明らかに根ではありませんよね。どう見てもこれは幹です。もし仮に掘り起こして、私が立っていた根本を起点に測定し直したなら、それこそ軽く15mを超えるとんでもないサイズのクスノキになるかもしれません。


境内から。根本に洞穴が見えます。覗き込んでみると、健康そうにしか見えない立ち姿からは想像できないくらい大きな穴でした。これ以上広がってしまわないと良いのですが。


遠目に見るとスマートで女性的にすら見えた大クス。近くで見ると流石に物凄い迫力があります。まさに「塊」という漢字がぴったりな外見。雨上がりのしっとりした樹皮がより強固なイメージを強調していて、まるで黒曜石のカタマリと向き合っているかのような気分です。


そしてここからの景色がまた素晴らしい。鳥居の先には僅かに太平洋が見えたんですけど、写真では分かりにくいですね。近所に住んでいたら絶対に通ってしまうでしょう。ここから見る日の出の瞬間とか絶景間違いなしですよ。


こうして見ると健康にしか見えないんですけどねえ。


単幹で立ち上がり、ブロッコリーのようにこんもりしたタイプのクスよりも繊細で女性的な印象を受ける樹冠。15m級のクスノキというと圧倒的存在感!大迫力!みたいな、どちらかといえば男性的な力強いものを想像してしまいますが、こういうタイプもあるんだなあ、と。


巨樹そのものも素晴らしいけれど集落の雰囲気もまた良かった。朝の散歩の方と挨拶を交わしましたが、余所者を快く受け入れてくれている印象です。いやホント、巨樹めぐりしていると地元の方に「何しに来たんだこいつ…」みたいに訝しげに見られることもありますからね。今後訪れる方のためにも、終始良い余所者であるよう振る舞いたいものです。


前評判どおりの素晴らしいクスノキ。間違いなく三重県を代表する巨樹でしょう。県天指定を受けるだけでなく新日本名木100選にも選ばれています。個人的には近くで見る姿よりも、これくらい離れて風景込みで眺める姿が好きですね。それこそベンチに腰掛けて、ぽけーっと朝日でも眺めながらここで時間を過ごしたい。鳥居の左手、今は葉を落としている似たようなフォルムの木はハマセンダンです。こちらも結構立派なものでした。

2020/1/29訪問
「引作の大クス」
三重県指定天然記念物・新日本名木100選
樹齢 推定1,500年
樹高 31.4m
幹周 15.7m

三重県南牟婁郡御浜町引作507

コメント:6

20-02-22 (Sat) 21:57

ここまで来るとちょっと外国に来たような空気を感じます。そりゃそうか、一年中みかんが採れるだなんて……。
Google mapで検索してみた手前、一応保存もしましたが、実際にここへ行けるのはいつになるのか……という遠さを感じます。でも、ぜひ訪ねておきたい巨樹です。

やはり、熊楠サンのエピソードが記憶に残ります。巨樹というものを知る上で避けて通れない歴史のひとつですね。
樹の民であるはずの日本人が古来からある神社と神木を破壊しまくったという……太平洋戦争のような愚行に向けて突っ走って行ったというのも嫌な意味で納得できる気がします。
戦国時代を見ても争乱の時代には巨樹が伐られるものなのか。象徴的な意味にしても資源的な意味にしても、デカい存在ということなのか……。

そういう時代を生き延びたこのクスは本当に貴重な存在ですね。
樹高がかなり高く、遠目には太さが緩和されてスマートに見えます。
なんとなくですが、時に強い風が吹きそうな土地にいる感じがして、そのあたりが九州や徳島などのクスたちとちょっと違うのかもと思いました。
こういうところ、ゆっくり回ってみたいものですね。好きなところで足を止めて、みかん食べて。
急ぐ旅じゃないし……とか言ってるうちに、居ついてしまいそうです。笑

RYO-JI 20-02-22 (Sat) 22:08

いまだ記憶に新しいクスノキで、to-fuさんの写真を拝見して興奮が甦ってきました(笑)。
伐採を免れたというのは、当時からすれば異例中の異例の出来事だったと思います。
熊楠サン達のご尽力には頭が下がります。
そのお陰で我々巨樹愛好家がこうして感動に浸れるわけですからね。

世の絶景本に出てくるような場所ではありませんが、ここの景色もしみじみ良かったです。
そう、日の出とともに眺められたら最高でしょうね。
少し前の記事で風景写真を勉強しよう的なことを仰っていましたが、私も巨樹を撮り進めるうちにそういった思いになってます。
せっかくアチコチ出掛けているのですから巨樹だけじゃなく、周囲環境、自然をきちんと撮りたいなぁと。
ただそうなると時間がいくらあっても足りないし、それ用の機材やアクセサリーが増えそうでコワイですけれど(笑)。

to-fu 20-02-23 (Sun) 16:19

> 狛さん
私からしてもちょっとした海外のような感覚ですね。
何か見たことの無い鮮やかなブルーの魚が泳いでましたし、日中なんて2月なのにシャツ1枚で平気でしたし。

全てをなげうってでも近代化を進めようという狂乱の時代ですよね。あの時代は。
神仏のみにとどまらずアニミズム的なモノに至るまで、物質文明に関わらぬものは全て無価値だとされていた印象があります。
我々がこうして毎日食いっぱぐれ無く暮らせて、さらには趣味に没頭できるくらいには生活の余裕があるのはあの時代の
人々が狂ったように近代化を推し進めてくれたからだという見方もできますが、それにしても我々愛好家からすると
失ったものが大きすぎますね。明治以前は巨樹クラスの御神木なんてそれこそ街中にゴロゴロしていたのかもしれません。

このクスは本当にスマートでびっくりしてしまいました。ああ、印象と全然違うなあと。
仰るように、こういうところはカブみたいなスローなバイクであるとか日程も決めぬままに路線バスで巡ってみるとか、
そんな旅のほうが本来合っているような気がしますね。今後人生から逃げ出したくなるような一大事件が発生したら、それこそ
紀伊半島をのんびり一周する、なんてやってみたいかもしれません。それにはお金が要るな…まず働かないと、ですね。現実はツライ 笑

to-fu 20-02-23 (Sun) 16:27

> RYO-JIさん
四国でも話しましたが私のスケジュールでは数年後には行けたらいいな、くらいの感覚だったんですよ。ここは。
でもRYO-JIさんの記事を読んで、これは今すぐ行かないとダメだろうと。本当に目に毒です 笑
このクスだけのために出かけたとしても後悔はしませんよね…本当に素晴らしいクスでした。

風景写真はちょっとまじめに撮ってみたいですよね。今までも道中コンデジでパシャパシャやって来ましたが、帰って見返すと
こんなもんじゃなかったよなあって。道中含めての旅ですから、偶然出会った感動するほどの景色と真正面から向き合って、
出来るだけ良い写真を残したいと思うようになりました。まあ単純に、まじめにやってみたら楽しそうですよね。風景も。
え?それらしいこと言ってるけど、新しい機材を買うための方便だろうって?さすがRYO-JIさんですねえ 笑

yuriy 20-02-23 (Sun) 23:06

めっちゃ大きいですね!!
31メートル超えって、建物だったら高層ビルに該当して、建築基準法や消防法で様々な厳しい制限がかかるくらいの高さじゃないですか(笑)。
凄い。
実物見たら唖然としちゃうんでしょうねー。。

引作の大楠はいつか会いに行こうと思っていた木なんですが、
実はその存在を全く知らなかった頃、夢に『引作神社』という名前が出てきまして、
起きて検索したところ、この大楠に行き当たったという。。

呼ばれた以上は、会いに行かなくてはと、常々思っていたので、今春あたり我慢出来ずに出掛けてしまいそうです。

このところ、記事を拝見する度に、行きたい場所が増えて困っております(笑)。

to-fu 20-02-24 (Mon) 16:47

> yuriyさん
とんでもなく大きかったですよ。大物揃いの三重県でも一番大きなクスのはずです。
私が住む京都には建築物は高さ31mまでの制限があるので、この方がビルだったらそろそろ切られてしまうところですね 笑

夢に引作神社とは、それはすごい話ですねえ。絶対に呼ばれてますよ。それは。
ここもなかなかアクセスに難がありそうですが、バスも通ってるみたいです。引作の大楠口…停留所の名前までイイ!
とても気持ちのいいところだったので、帰りのバスまであと1時間かあ…なんてあてもなく集落をふらふら歩く旅の方が
楽しめるかもしれませんね。目的地だけ見て次へ!という時間の使い方をしてしまったのは勿体なかったと後悔しています。
熊野方面は私も気に入ってしまったので、また暖かくなったらのんびり再訪したいと思ってます。

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