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愛知県岡崎市 寺野の大クス(寺野の大楠)


SONY α7RIII / SONY FE 24-105mm F4 G OSS SEL24105G

新東名の岡崎東ICから北の山間部へ数キロ。山の斜面に広がる長閑な寺野の集落に巨大なクスノキが立っています。ああ、これはデカいぞ。集落の最高部にそびえるその巨樹は否応なしに視界に飛び込んでくる。巨樹に興味のない方であっても、ついついそちらに視線を送ってしまうのではないでしょうか。


愛知県指定天然記念物「寺野の大クス」。最初に白状してしまうと、この日一番の目的地はあくまで蒲郡市の国指定天然記念物「清田の大クス」であって、本来この巨樹はせっかくだから寄ってみようか…的な前座のうちの一本に過ぎませんでした。しかし、良くも悪くも予想どおりには事が進まないのがこの趣味の面白さ。まさかこんな素晴らしいクスと出会えるとは。


見て下さい、この根回り。ドロっと溶けたクスノキが急な斜面を埋め尽くしてそのまま壁になっているかのような。これだけの根はちょっと他に見た記憶がありません。


真下から見上げるとこちら側に傾いていることもあって凄まじい迫力です。幹周12mという数値だけでもその巨大さが伝わるだろうと思いますが、幹周が測定されているのはあくまで斜面の上側から1.3mの地点ですからね。それなら私の目の前にあるこれは一体何なのか。いやいや、このクスで一番凄いのはここでしょ!とツッコまずに要られません。こういう凄さはリスト上で数字とにらめっこしているだけでは絶対に分からないものですよね。


おぉ…今まさにお堂の真上からエルボー・ドロップでも仕掛けようかという瞬間にしか見えません。着生植物を纏うその体躯、単幹から大きな広がりを見せる美しい樹冠。特異なあの根回りを抜きに見てもこれは実に上等なクスです。前座だって?いやいやいや。こういう事前のイメージを遥かに上回ってくれる巨樹との出会いは本当に興奮モノですね。「清田の大クス」をまだ掲載できていないのに何ですが、自分にとってはこちらの「寺野の大クス」の方がずっと印象に残る良い巨樹でした。(もちろん清田の大クスも素晴らしい巨樹でした。ただあちらは想像どおりの素晴らしい巨樹で、心動かされたのがどちらかと問われたら私はこちらのクスに軍配を上げます。)


まるで原始の時代から生き続けているかのような貫禄ある樹皮。確かに大きく傾いた立ち姿ですが、この強靭な筋肉の塊のごとくマッチョマンな姿を見てしまうと流石にこの巨樹が倒れることはないだろう…と妙に納得させられてしまいます。あの根回りを見るに恐らくこの斜面一帯をクスが支えており、万が一このクスが根本から倒壊するようなことがあれば全面的に土砂崩れが起きて大変なことになるだろうと思われます。


お堂の真上。本当に美しい樹冠です。文句なしに健康的な姿。大枝が落下しようものならお堂の屋根なんて一撃で破壊してしまいそうですが、それでも下手に枝を手入れされることもない。それだけでもこの集落の守り神として古くから愛されてきたことが窺えます。


江戸時代、ここは正法寺というお寺だったそうです。明治の時代になって廃寺となり、そのお堂だけが薬師堂として残りました。現在のお堂は弘化3年(1846年)に再建されたものです。私のレンズの広角側24mmではどうやっても写しきれなかったのですが、ここからは集落を一望できて眺めが本当に気持ちいいのなんの。私が訪れたのがちょうど朝日が昇って間もない時間帯だったこともあり、サーッと朝日が差してくるその瞬間はちょっとしたトワイライトゾーン、超次元にでも迷い込んだかと錯覚する浮世離れした雰囲気を体感することができました。地元の方もお堂に腰掛けて気持ちよさそうにされてますね。え?左の青い服の方は違いますよ?そちらはお地蔵さまですぞ?


クスの根はなんとこんなところまで。これにはちょっとビックリしました。根の部分は地上に露出している部分だけでも10mに及ぶそうです。お堂の裏手に手を伸ばし、まるで土砂を支えて地蔵尊を守っているかのように見えます。


こちらは地蔵尊側からの眺め。これだけあまりにも良く出来ていると何か一つくらい粗探ししたくなる(なんて嫌な奴なんだろう)ものですが、本当にどこから眺めても非の打ち所がありません。残念です。(何も残念ではない。)


真似して眼下の集落を、そして巨樹を眺めてみる。つい先程までは凍えるような寒さだった(この直前に「切山の大スギ」を訪問していますが、それこそ気温が低すぎて素手ではカメラを持っていられないくらいでした)のが、いつのまにか上着が要らないくらいの気温になっています。どうも冬は巨大クスノキに会いたくなるんですよね。もちろん冬でも落葉しない常緑広葉樹だということもありますが、クスの大木の側にいると不思議と温もりを感じるんです。クスって俺に触るな!みたいに神経質なタイプではなく、まあゆっくり休んでいきなよと言わんばかりにおおらかな方が多いように気がしませんか?ちょっと抜けてるところがある、心優しい力持ち的な。


明治27年に台風によって枝周り2.50mの大枝が折れた際、当時の価格で75円の値がついたのだとか。まあ当時の75円と言われても正直ピンと来ませんよね。おおよその相場を調べてみました。明治30年の物価に対して現在の物価が約3,800倍ということなので、75×3,800。なんと約285,000円の値が付いたということですね。私の1年分の生活費ではありませんか 笑 その後、明治末に折れたやや細めの大枝にも100円の値が付いたのだと。これらのお金で地元の農村舞台で芝居が上映できたそうですが、真に驚くべきなのはそんなことではなく、当時大枝1本ですら大金に替えることが出来た時代によくこのクスが伐採されずに済んだなあ、と。いくら大金を積まれようとこのクスは絶対に売らん!地域の象徴、守り神としてそれだけ敬われていたのだと想像すると嬉しくなってしまいます。


そのまますぐに車で移動する気分にもなれず、クスを見上げながらしばらく集落を散歩していました。ああ、本当に気持ちの良い巨樹だった。岡崎に行くことがあれば絶対にまた立ち寄ろう。そう思わずにはいられない、隠れた名樹だと思います。

あ、そういえば。薬師堂を離れるときに地元の方とすれ違いまして、「わざわざ京都から?」と。恐らく私の京都ナンバーの車を見たのでしょう。ええ、大きな木を見て回るのが趣味なんです。なんて雑談をしていたところ「愛知で3番目のクスだからな。凄かっただろう?」とニヤニヤしながら仰るわけですが、これがもうまんま自慢の子供の話をするおじいの顔なんですね。ワタクシはその言葉の裏に(でもまあ、一番良いクスはウチのクスに決まってるけどな!)という想いが見え隠れしてしまって、それにも嬉しくなってしまいました。

2019/2/14訪問
「寺野の大クス」
愛知県指定天然記念物
樹齢 推定1,000年
樹高 36m
幹周り 12m

愛知県岡崎市夏山町ミヤマ

コメント:6

yuriy 20-02-12 (Wed) 17:25

これまた素晴らしいものを見せて頂いて・・。
本当に、どこから見ても素敵なお姿してますね。

地図を見る限り、公共機関組としてはそこそこハードル高い場所です(^▽^;)
でも行ってみたい・・。

根っこがおかしな事になっている巨樹は大好きなので、
電車降りてから名鉄バスと乗り合いバス(たぶん一日1~2本)を乗り継ぐかんじで、
いずれ攻めてみようと思います。

20-02-13 (Thu) 8:55

東京がもうほんと邪魔者で、近いわりにはその向こうが全然視野に入らないのをどうにかせねば! と焦らせてくれる記事でした。
これはすごい。「一見の価値アリ」とはよく使う言葉ですが、これを一見するためだけにここまで行く価値がある巨樹ですよ!
建造物ではどう頑張っても本物の生命は宿せない。生きていて巨大だと言ってもクジラはこんなデフォルメされた体型や個体差を持たない。
これほどまでに極端で巨大な存在感を見せつけてくるのは巨樹だけだろうと思います。巨樹でないと味わえない衝撃。

ドロドロドロ、ブニブニブニ……とすごく柔らかそうな根。一方で、上半身?は精一杯伸び上がるために引き締まっている。
笑ってしまうような変な形だなあ……と思って眺めているうち、広い根張りを持つクスを幹を摘んで崖にひっぱり上げたもののように見えてきました。巨人がね。笑
この柔軟な形状を形作る必要があったからなのか、樹皮が他のクスよりもヌルっとした質感に見えるのも印象的ですね。
年齢ゆえなのか? と自分が撮ったクスの写真を見ますが、やはり普通は縦に細かい割れが入った樹皮をしている。
杉にもこういった個体差はいろいろありますが、印象がずいぶん変わりますよね。

折れた枝を売ったお金でお芝居を呼んだり、昔から変わらないのどかさがある土地なのでしょうね。クスもまた雰囲気作りに大きな役割を果たし、すごく居心地が良さそうです。
そして出ましたね、うちのが一番だ(ニヤリ)という地元のお方。良い巨樹がある土地の証拠ですね。断言。
この「ランキングではX位だが、日本では一番だ!」という夢尺度、すごくカッコイイ。
醍醐味に満ちた巨樹ですね。

to-fu 20-02-13 (Thu) 10:53

> yuriyさん
実はyuriyさんの愛知県の訪問記を拝読して愛知の巨樹について書きたくなったのでした 笑
愛知県東エリアは巨樹的に見ると非常に充実したエリアなんですけど、どこもかしこもアクセスに難がありますよね…
こちらからも1泊コースの距離になるので、また行きたいと思いつつ簡単には実現できずにいます。

この辺りをバスでのんびり回ったら一層旅情があって印象に残りそうですねえ。
寺野の大クスはぜひとも天気が良い日に。お堂のところからぽけーっと景色を眺めていただきたいです。

to-fu 20-02-13 (Thu) 11:08

> 狛さん
ああ、分かります。私からするとその壁が大阪・神戸で、奴らの先となると一気に気分が重くなってしまいます。
和歌山県西部や兵庫県西の沿岸部にはそのせいでなかなか足が伸びません。
せっかく気持ちよく巨樹を見た帰りに渋滞に巻き込まれると、一気に現実に引き戻される気がして嫌なんですよねえ。

このクスはクス界全体で見てもかなりのものですよね。この個性に大きさ、そして立地。全くもってケチが付けられません。
樹皮の形状については指摘されるまで気付きませんでしたが、確かにこの方、普通のクスとは全然違いますね。
何だかマスクメロンの表面っぽいというか。この根回りを生み出した原因はその辺りにあるのでしょうか。
「切山の大スギ」もヘンテコな…実にスギ離れしたスギでしたが、この辺りは異世界と繋がっているんですよ。きっと。
で、きっと巨人が向こうの世界のスギやクスをこっそり手植えしてるに違いない。驚け人間ども!と。

自称日本一の巨樹の多さについてはRYO-JIさんが某埼玉のカヤの木の記事でも書かれてましたが、これをいざ地元の方から
聞くとなかなか耳障りが良いと言いますか、巨樹を愛する者としては冥利に尽きるところがありますね。
この巨樹を見に来てよかったと本心から思えるし、そんな愛される巨樹は大抵見た目も素晴らしいんですよねえ。
生きていくのに一番必要なものは愛情だ、なんてのはイキモノである樹木にとっても同じなのかもしれません。

RYO-JI 20-02-17 (Mon) 21:56

危ない危ない、この記事を見過ごしていました(汗)。
私もこれは『絶対見に行く巨樹』としてマークしています。

根元部分のドロドロに溶けたような姿には驚きです。
私もこんなクスは見たことありません。
どういう現象でこうなるのかわかりませんが、植物の多様性と申しましょうか。
いや、ややこしいことはともかく、こういった個性が光る巨樹はより魅力的に感じますね(人間もそう)。
そして根元だけじゃなく、クスそのもののサイズ・ボリューム感も見事としか言いようがないですね。
そりゃあ地元の爺様が自慢もしたくなる訳ですよ。
それがまた嫌味じゃなく、心地良く感じてしまえるんでしょうねぇ。
そんな出会いも含め、とても羨ましい巨樹訪問です。

to-fu 20-02-18 (Tue) 16:35

> RYO-JIさん
この巨樹までチェック済みとは流石です!
私はこの方、失礼ながら本当に前座?バーター?的なものとしか考えていなかったのでほぼノーマークでした。
近くには「切山の大スギ」の他にも「夏山の大スギ」があったりで、全国的にはいぶし銀的な存在でありながら
素晴らしい個性を持った巨樹ばかりが固まっている素晴らしいエリアだと思います。

小さめだけど個性的で面白い、という巨樹はそれなりに見た記憶がありますが、それでいてデカい!という実に稀有なクスでした。
集落の雰囲気も良いし、この周辺を回るだけでも何だよ凄いじゃないの愛知県!と驚かされますよ。本当に愛知をなめてました。
岡崎…よくよく考えると徳島に行くよりもシンドイような気がしてならないのですが、RYO-JIさんもぜひ訪問してみて下さい!

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