
FUJIFILM GFX50S II / FUJIFILM GF 32-64mm F4 R LM WR
鳥取県から兵庫県入りした私は香美市の山中にある「長瀬八幡神社のタブノキとホオノキ」を目指していた。
旅に出るとどうも気が大きくなるのか危険察知能力のネジが飛んでしまうことがある。
本当にこれ通れるのか?そう訝しがりながらも突入した自分は、きっと疲労と興奮でどうかしていたのだろう。
巨樹めぐりなんて趣味をしている以上悪路や狭路なんてものは必然的に付きまとうけれど、ここは文句なしに過去最凶最悪の険道だった。
兵庫県道550号線。
こちらのサイトで詳しく説明されているため私から特に加筆することはない。
そしてこの解説には一言一句違わず同意する。本当にヤバすぎる道だった。

私は先のサイトの方とは逆の下りルート。
写真だとほとんど平坦な山道に見えるが実際はかなりの急勾配である。
右側はガケ。窓から顔を出して覗き込んでみるが谷底は見えない。
ハンドル操作を少しでも誤れば即死。実にシンプルで分かりやすい。
私もブラインドカーブを2、3個過ぎたあたりでエンジンを停止して固まってしまった。
「これは無理だ。やっぱり引き返すか?」しかし戻るだけの技量もなければ度量もない。諦めて進むしかないのだ。
比較的路面がまともなところでしか写真を撮影する余裕がなかったので伝わりにくいと思うが、路面は極めて悪い。
落石はごろごろ転がっているし、スギの落ち枝がまるで避け難い宿命のように路面に横たわっていた。
落石をどかそうにも車のドアを開ければ足元はガケ。少しつまずいただけで死ぬ、ボロッと法面が崩れても死ぬ。
当然降車する勇気など無いのでパンクしないことを願い、ガッコンガッコンと落石を踏み抜きながら超絶徐行で突き進んだ。冷汗が止まらない。

550号線を抜けて「道の駅 あゆの里矢田川」に着いた私は誇張無しにへたり込んでしまった。
車なんて所詮道具としか考えていない人間なので別に車に愛情も愛着もないけれど、今回ばかりは土下座謝罪したい。
あの車の底にぶすぶすとスギの枝が突き刺さった負傷兵のような姿を見てしまうと流石に、ねえ。
対向車が来たらどうしていたか…考えたくもないけれど、協力して登り側が集落までバックする以外に術がないと思う。
地図で見るとごく普通の県道なのが最大の罠だなと。
とはいえ景色が変わり始める頃には誰もが間違いなく「これはヤバい…」と気配を感じるわけで、避けようと思えば避けられる罠だったような気もする。
途中停車している間、家族に電話して最後に声を聞いておこうか、なんて真剣に考えてしまったワタクシ 笑
ああ、こうして五体満足に生きているだけで幸せなことなんだな。
例外なく人はいつか死ぬ。私だっていつか死ぬ。でもこんなところで滑落して死ぬのだけは勘弁願いたいなあ。