大阪府寝屋川市 神田天満宮のクス(千年くす)

SONY α7RIII / SONY FE 24-105mm F4 G OSS SEL24105G

大阪のベッドタウン、寝屋川市。この辺りはあの「薫蓋樟」をはじめ多くのクスノキの巨樹がひしめく知る人ぞ知るクス密集地帯ですが、この神田天満宮のクスもやはりリスト上で数値だけを追いかけると非常に目を引く巨樹です。とはいえ現在の姿は…まあそれを知っていたのでなかなか足が向かなかったんですよね。たまたま近くを通りかかったので寄ってみることにしたのでした。クスの葉が随分と寒々しい色をしているので何となくお察しいただけるかと思いますが、訪問したのは2019年1月、ほぼ1年前になろうかという真冬ド真ん中です。

閑静…というほどでもありませんか。まあ普通の住宅街の中に神田(かみだ)天満宮は位置します。この辺りは細い道が非常に入り組んでいて私のような運転技術に難アリの人間からすると非常に難儀するのです。かと言って自転車で行こうにも交通量の多い幹線道路ばかりで排ガス地獄が待ち受ける。正直なところ、あまり積極的に訪れたいエリアではありません。近くのコインパーキングに駐車して歩くことを覚悟していましたが幸いなことに現地には駐車場がありました。

まずは参拝を済ませ、と。もう否応なしに視界に飛び込んできているわけです。社殿に向かって右手のものに間違いありません。実のところあまり期待せずにやって来たのですが、どんな姿に変貌しようが流石に幹周10mオーバーというのはそれなりに迫力があります。発見した瞬間はおおっ!と興奮してしまいました。

しかしこれまた物凄い姿だなと。かつては樹高33mほどの府下を代表する巨樹だったそうですが樹勢の衰えが目立ち始めたため、昭和58年から治療が続けられ現在の姿になりました。根元はほとんどセメントの塊と化し、幹もその大部分が防腐処理なのか樹皮を全て剥がされた上でウレタン?ニス?のようなコーティングが施されている。それこそもう家具のようなテカテカ感ですよ。

私が訪問した際は解説版の類が皆無で恐らくこの10年くらいの間に撤去されてしまったのではないかと思われるのですが、先輩方のサイトを拝見するに、かつて楠木正成が出陣前このクスの麓に陣を張った、という逸話が残っているみたいです。

こうしないと倒壊してしまうというのは分かりますとも。しかしこう、もうちょっと…何か他に方法は無かったのでしょうか。

間違いなく生きてるんですよ。ええ。でも見ていると何だか不憫で。この手前の幹なんてもうホント家具ですよこれ。当時の樹木医学の限界だったのでしょう。現代のレベルで治療出来ていたらもしかすると…そんなこと言っても仕方ありませんけれども。

生命維持にかける執念は壮絶とも言えるほど。

現在かろうじて生きていると言えるのは一番左手の幹くらいでしょうか。それなりに葉を茂らせていますが、周辺の他のクスと比べても明らかに葉の色味が悪く、葉の付きも弱々しく感じられました。

冬の寒空に哀愁が漂う。今思うと訪問した時期も良くなかったかもしれません。暖かい時期に訪れていたら違う印象を受けたのではないか。そんな気もします。

個人的な考えですが、こうして芽吹いた新しい命を二世樹として育て、このクスはそろそろ自然のままに生きさせてあげても良いのではないか、そう思わずにいられません。無理に命を終わらせる必要などありませんが、あの最後の幹が倒壊してしまったらあとはそっとしてあげてほしい。もういいんだよ。あなたは充分頑張ったよ。そんなことを思いながら立ち去ったのを覚えています。

2019/1/22訪問
「神田天満宮のクス」
大阪府指定天然記念物
樹齢 伝承1,000年
樹高 15m
幹周り 10.5m

大阪府寝屋川市上神田2-2-2

4件のコメント

  1. このクスは訪問するのを躊躇している存在です。
    サイズは目を引きますが、やはりそのサイボーグ感丸出しの姿にどうも抵抗があってですね。
    諸先輩方の写真を拝見する度に、これはもういいか・・・なんて思っていた自分がいます。
    それでも目を背けることなく見ておくべきだなと再考してみたり。
    このクス自身が望んだ姿では決してないでしょうが、まだ生きていますし、これが現実なのですからね。
    わざわざこれ一本だけのために寝屋川まで行くのはアレですが、近くを通った時には必ず訪問したいと思います。

  2. > RYO-JIさん
    迫力が無いかと言われると決して無くはない。むしろ巨樹としては迫力がある方かもしれません。
    でも仰るように、今見ているこれは巨樹としての迫力なのか、それとも巨大ロボットやサイボーグを眺めた
    感想なのか…どうしてもそんなことを考えてしまうわけで、考えれば考えるほどに後者なんですよね。
    何と言いますか、残念ながら私はこのクスを見て人間の業の深さしか感じ取ることができませんでした。
    ある意味とても個性的な巨樹ではあるので、何かのついでにぜひ寄ってあげて下さい。ええ、何かのついでに。

  3. これは……自分が今まで見てきた中で最も凄絶な処置です……。
    ここまでしてしまうというのは、もはや生きていようが死んでいようが関係ないのじゃないでしょうか。
    樹木っぽい姿を見せられればセメント像でも同じなのでは……。
    生きているのは3割くらいしかないような風に見えますが、それなりに葉をつけているのがまた涙を誘います。
    派生した苗を徳島県のクスたちのそばに連れていってあげたい……なんて思いました。

    周囲の環境がごちゃごちゃした都市部であることも、巨樹に対する人の心の質をそんな風にしてしまうのかもしれません。
    その町に住んでる人がすさんだ心をしていると言いたいわけじゃありませんが、ではなぜ、薫蓋樟のような立派なものと、この樹のような樹があるのだろうと考え込んでしまいます。
    色々なことを投げかけてくる姿ですね。

  4. > 狛さん
    ここまでのものはそう見られるものではありませんよね…凄惨たる有様です。
    仰るようにもう巨樹である意味が全く無い。ただのモニュメントとしてしか見てもらえてないのかな、という気がします。
    昔の樹木医学というのが如何に残酷だったか…なんて思うわけですが、現代においても某東北地方で松の木をサイボーグ化
    してましたし、人間って本当にアホだなあと思わざるを得ません。懸命に生きた生命に対する侮辱ですよ。

    この巨樹を眺めていて思ったのは、邪魔だからと一気にぶった切られてしまった巨樹はまだ幸せだったのかもしれない、と。
    こんな姿に変わり果てても倒れることすら許されず、ただただ生き抜くことを強いられる。
    数百年から千年も生きてきた大先輩をこの扱いとは…私には理解できません。

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