三重県南牟婁郡御浜町 神木のイヌマキ(西地のイヌマキ)

SONY α7RIII / SIGMA 24-70mm F2.8 DG DN | Art

さて。いきなり一発目から大物「引作の大クス」を見てしまったものですから既に充足感たっぷり。もうこのまま帰宅してもいいんじゃないかという、ホクホクした心持ちです。とはいえまだ朝の8時ですからね。わざわざ前乗り車中泊までしておきながらこれで直帰では流石に勿体なさすぎる。ということで、ここは趣向を変えて普段なかなか見ることのできないタイプの巨樹を訪問することにしました。

それがこの日本第2位のイヌマキの巨樹、「神木(こうのぎ)のイヌマキ」。実はランキング抜きにイヌマキの巨樹を目にするのは初めての経験です。以前友人の狛さんが「長福寺のマキ」という巨樹を訪問されていたのが印象に残っていて、それ以来機会があればイヌマキの巨樹を見てみたいと思っていたんですよね。

ところがこのイヌマキさんがまた厄介でございまして。三重県指定天然記念物のくせに詳細な所在地が自治体公式の観光案内含めてどこのサイトにも書かれていません。毎度思っていることですが、あの手のサイトは例外なくユーザビリティ最悪ですよね。実際に自分が知らない土地の観光案内を見るとしたら何が知りたいだろう、とか想像できないんでしょうか。まあできないんでしょうけど。官公庁に集るハエのような金しか見てないWeb屋なんて一掃されればいいのに。

どうもこの地図の北部にある「原地神社」(こちらにもスギの巨樹、ナギの古木あり。)から徒歩で数分のところらしいのですが。私が目星を付けたのが「たぶん神木のイヌマキ」と青いピンを立ててある場所。何が「たぶん」なのかというと、航空写真で集落一帯をチェックして怪しいポイントを見つけ出しただけで、この場所だという確証はどこにも無かったからです 笑

おお、さすが私。あれが巨樹で間違いないでしょう。ピンを立てた場所で合ってましたよ。写真では分かりづらくて申し訳ありませんが隣を流れている小川がまた綺麗な清流で、これがなかなか気分を盛り上げてくれる風景ではありませんか。

はい。まず恒例の懺悔タイムを。初のイヌマキですが、正直なところ巨樹として見ると見応え自体は大したものではないだろうと思っていたのです。その枝ぶりであるとか老木に相応しい深みが刻み込まれた樹皮なんかを楽しむ、いわば名木カテゴリーにある樹種なのだろうな、と。いやでもちょっと待て。これデカくない?ええ、自然と口からこぼれましたね。何だよ、大きいじゃないか。名木カテゴリーなんかではなく、どこに出しても恥ずかしくない立派な巨樹がそびえていました。

幹周全国第2位のイヌマキ。天然記念物の登録名称は現在の地名である「神木(こうのぎ)」のイヌマキなんですけど、こちらには集落のあざ名である「西地」のイヌマキと記載があります。ちなみに全国第1位のイヌマキは鹿児島県の「熊野神社のイヌマキ」ですが、こちらは既に幹が完全に空洞化してしまって樹皮だけの状態で立っているため、実質的にはこちらのイヌマキがナンバーワンではないか?との呼び声も高いのだとか。このあたりは上位ランカーが軒並み空洞化しているケヤキと状況がよく似ています。

ここの屋敷跡は寺院跡ではないか…という記載もありますが、この地にはかつて神社が建っていたようです。例の神社合祀令で他の神社に合祀されて境内林が一掃されたものの、このイヌマキだけは記念樹として残しておこうということで難を逃れたのだとか。それにしても神社合祀。合祀以前のこの国には一体どれほどの巨樹が存在したのでしょう。巨樹を愛する者からすると当時の人間は何やってんだ、ばかじゃねえかなんて悪態つきたくもなりますが、よくよく考えてみると現代人がやっていることも似たようなものなのかもしれません。未来の方たちに平成、令和のばかは何考えてたんだ!なんてぼやかれるんでしょうねえ。きっと。

この辺りは温暖な気候で、みかん畑が非常に多い。本当にちょっと車で走っただけでもみかんみかんみかん…無人販売所無人販売所無人販売所…ですよ。南紀みかん、温州みかんといえばご存知の方も多いのではないでしょうか。お供え物も、もちろんみかん。そこまでみかんが身近な存在ではない余所者の私からすると、何だかお正月にやって来たような気分になります。

幹周5.65mといったらクスやスギ基準で見ると物足りない感がありますが、それらを除外してしまえば充分に立派な巨樹です。スダジイ5.65m、カヤ5.65m、ヒノキ5.65m…ええ、十分なサイズでしょう。イヌマキがこれだけの大きさにまで成長したことは奇跡とも言えます。樹皮はどことなくビャクシンのような趣がありますね。毛羽立って苔生した、巨樹の顔とも言えるその幹に見入ってしまいます。

樹皮こそビャクシンのようですが、葉は全く異なります。ビャクシンはスギのような葉をしていたはず。ちょっとムカデっぽいイチイやカヤの葉とも違いますね。これがイヌマキの葉か。内陸の民である私の暮らしとはあまり縁がないイヌマキですが、温暖な地方の沿岸部では庭木や防風林としてよく利用されるメジャーな樹種のようです。ちなみに千葉県の県の木はこのイヌマキなんだとか。(そんなにメジャーなの?でも千葉県の人はカイツブリ…琵琶湖にわんさかいる滋賀県の鳥なんですが、とか知らないだろうし、県の〇〇ってそういうものなのかも。ちなみに我が京都府の木は「北山杉」だそうです。まあ納得。)

素晴らしい樹勢。これだけの大きさにまで成長したイヌマキですからそれなりの樹齢だろうとは思うのですが、全く老いが感じられません。まるで若木の如く葉を茂らせています。

巨樹撮影の大敵、ハチの巣を発見。寒い時期に来て正解だったかもしれません。回りを蜂がブンブン飛んでいると集中できませんからね。しょっちゅう目の前でホバリングして威嚇されますが、別に危害を加えるつもりはないので放っておいてもらいたいです 笑

申し分なし、ですね。本当に何も言うことがありません。ただただ見事な樹冠です。実際アホ面晒してぽけーっと見入ってしまいました。ここまで魅力的な巨樹だったなんて。クスとクスの間の口直し、くらいに考えていた自分をぶん殴ってやりたい。

上流側に立って眺める。逆光になってしまって申し訳ありません。小川からひんやりした空気が流れてきて本当に気持ちよかったなあ。強い日差しとこの清流に育まれたみかんが美味しくないわけがありません。もし地元でみかん栽培ができたとしても、ここより美味しいみかんなんて絶対に実らないでしょうねえ。

巨樹の周囲は綺麗に整備されていて、ここのベンチに腰掛けて眺める景色がまた素晴らしかったですね。もちろんみかんを口に放り込みながら、です。余談ですがこの辺の無人販売所でみかんを買っていると100円玉がいくらあっても足りません。多めの100円玉を持参されることをおすすめします 笑

ところで解説板によると幹周5.65mでしたが、2012年に「巨木学」の著者である宮崎而氏が実測したところ幹周5.91m、いつも拝読している巨樹サイトの管理人さんが2018年に測定した数値が6.05mだったそうです。既に成長が止まっている「熊野神社のイヌマキ」が6.8mですから、私が生きているうちにランキングがひっくり返る可能性だってゼロではないかもしれません。とはいえ熊野神社のイヌマキだって見てみたいし、何より長生きしてもらいたい。あちらが枯死してランキング1位に…なんて悲しい理由でなしに、正々堂々と成長して乗り越えていっていただきたいものです。ええ、もちろん巨樹たちはそんなもん知らんがな、と思っていることでしょうけれども。

2020/1/29訪問
「神木のイヌマキ」
三重県指定天然記念物
樹齢 不明
樹高 20m
幹周り 5.65m(2018年に実測した方によると6.05m)

三重県南牟婁郡御浜町神木1090

4件のコメント

  1. 時間が無かったとはいえ、『また機会があれば・・・』とスルーしてしまったのは私です。
    サイズは5mクラス、ただ珍しい樹種ってだけじゃないの?と間抜けな判断をしてしまったものです。
    イヌマキの巨樹はまだ見ぬ存在ですから的外れな意見かもしれませんが、とても上品な佇まいに見えます。
    to-fuさんがおっしゃるようにビャクシンをイメージさせますが、幹の捻りが無いぶん品があってより大人しい印象です。

    そして今後の成長に大いに期待できますね。
    その計測に間違いがなければ、間違いなく日本一のサイズとなりそうでワクワクします。

    車でそばまで行けるアクセスの良さに加え、この環境は素晴らしいですね。
    おまけにミカン付き?
    収穫期を見計らって行かねばなりませんね(笑)。

  2. > RYO-JIさん
    元々「引作の大クス」の次はRYO-JIさんも訪問されていたあの「森の巨人」に向かう予定だったんですよ。
    ただ予想以上にこの地が気に入ってしまったので、再訪したくなるように敢えて大物を残して今回ちょっと外してみました。

    たしかに上品な佇まいですね。端正、と言いますか。
    名木カテゴリーとしては面白そうな樹種だと気になっていたのですが、まさか巨樹としてもここまで楽しめるとは思いませんでしたよ。
    また引作方面へ行かれることがあれば、立ち寄ってみて損のない巨樹だと思います。

    ちなみに恐ろしいことにミカンは年中収穫しているそうなので、いつ行っても売っているのではないでしょうか 笑
    しかし同じ近畿圏とは思えない気候ですよね…昔行った串本なんか、あれはもう南国でした。
    単に風土の違いを味わうためだけに行っても楽しめる地域ですよね。(私よりは)アクセスが良くて羨ましいです。

  3. 良い樹形ですねえ。
    イヌマキは関東では大変よく見る樹種ですが(カイツブリは見たことないですね……)、生垣としてで、単木として扱っている例はそれほどないんですよね。
    だから、幹周囲3メートルを超えてくるようなものがあるととても目立ちます。
    これほどの大きさではもちろんないですが、ちょっと気になる樹があって、あれイヌマキだったと思うんですが……今度見に行ってみます! この記事で思い出しました。笑
    イヌマキは中国でも人気があるそうで、目敏く買い付けに来るそうですし、植木ならまだしも、下手をすると根っこを掘り返して工芸品みたいに加工してしまうとか……県指定天然記念物指定、重要です。

    本当、イヌマキに見えないですね。まさしく、こんなの見たことない! という感じです。
    実際の樹齢としても、ウチ方の旧家の人が、幹周囲でいえば1.5メートルくらいのものを120年モノだと言ってるのを聞いたことがありますから……これ、一体……。温暖な土地にあるからすくすく育つということを抜きにしても、相当なもんだというのは間違いないですね。
    どこか「治郎兵衛のイチイ」をも思わせる渋みと名木的な面持ちもあって良いですね。うーん、これは実際見てみたい。

    次々、どこにでもぽこぽこ出現するみかんとともに、この一帯、一度車中泊で気が済むまで回ってみたくなってきました。

  4. > 狛さん
    やはりメジャーなんですねえ。
    東京で暮らしていたときも庭木に注意を払うことがまず無かったもので、どうも遠い存在に感じます。
    イヌマキについて調べていたらその中国のエピソードが出てきました。たしかに千葉県がダントツの出荷量を誇ってますね。
    匝瑳市の銘木なんかも出てきましたが、確かに凄い。こういうのを見ていると盆栽なんかにも興味が湧いてきます。

    残念ながら私は他のイヌマキと比較して見ることが出来なかったのですが、単純に樹種問わずに一本の巨樹として見ても
    満足のいくものでした。仰るようにあの治郎兵衛のイチイ的な渋みがありますね。ギュッと詰まっているような重厚感が。
    イヌマキ経験豊富な狛さんにはぜひとも訪問してもらいたい巨樹です。そして感想を聞いてみたい!
    温暖な地方なので真冬でも余裕で車中泊できるのは我々からするとありがたいポイントです。

RYO-JI にコメントする コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。