兵庫県朝来市 糸井の大カツラ

FUJIFILM X-T20 / XF 10-24mm F4 R OIS
FUJIFILM X-Pro2 / XF 35mm F2 R WR

兵庫県朝来市、糸井渓谷の奥に待つ「糸井の大カツラ」。
ずっと気になりながらも訪問するタイミングを伺っていた巨樹でしたが、とうとう邂逅してしまいました。

(撮影したらそのままWebに載せられるようウニャウニャと設定を弄りながら良いJPG画像を撮ることに尽力し、あくまでもRAWは保険として残しておくスタンスで楽しんできましたが、今回は日の出直後の悪天候ということもあって流石に諦めました。フィルムシミュレーション無しです。)

幹周19.2mという圧倒的な大きさを誇り国の天然記念物にも指定されているカツラの巨樹ですが、残念ながら既に主幹が朽ちて内部に空間が出来ているためランキングからは除外されています。しかし、それが一体どうしたと言うのか。この規格外の大きさを目の当たりにすると人間の作った基準なんてハナクソみたいなものじゃないかと痛感させられるのです。

「うわー………。すげえ!」
本当にそれしか出てこなかった。僕の旧世代シングルコア搭載脳味噌でこのとてつもないサイズの3D CADデータを処理出来るはずもなく、これはもう一晩待っても何も進まねえなと匙を投げざるを得ない状況。いや本当にただただ呆然と見上げることしか出来ませんでした。

この巨樹には絶対「新緑の時期・雨の日・早朝」この3つの条件が重なったときに会いに来たかったんです。まあ、新緑の時期からはちょっとズレてしまったかもしれませんが…やっぱりカツラの巨樹が一番映えるのは雨の日だと思うんですよね。それも森林の空気がキリッと澄んだ早朝。もうこれしかない。そのためにわざわざ日の出時刻(4:45)を調べ、日の出前には現地に到着出来るよう深夜に京都を出発してきたわけです。

コンビニの灯りに群がるヤンキー中学生の如く道路にたむろするシカの大軍を掻き分け、車をぶっ壊されるリスクを背負いながらはるばる来た甲斐があったのか。

そんなもの、あったに決まってるじゃないですか。
雨水したたる艶めかしい樹皮、身が切れそうなくらいキリッとした早朝の空気、小鳥のさえずりと雨音しか聞こえない静寂の空間。この巨樹と向き合うにはこれ以上のシチュエーションは…いえ、これ以外のシチュエーションは考えられなかったように思えます。

迫力…というのとはちょっと違う。神秘的、の方がしっくり来るかな。
ここだけ時間の流れが違うというか、あまりにも非現実的な空間。

無我夢中にシャッターを押しまくった後に訪れる感情は、さっさとカメラを仕舞ってしまおう。でした。それなりに長く写真をやっていると、子供の運動会なんかでカメラのファインダーばかり覗いているオッサンに対して「こんな時まで自分の写真と向き合ってないで、しっかり記憶に焼き付けてやれよ。」なんてことを感じるようになりますが、その感情に近いかもしれません。おいおい写真なんか撮ってる場合じゃないだろ、全身全霊で感じないと!みたいな。今になってみるとあの熱のようなものはもうしばらく経験できないかもしれない。そんな気がしています。

撮影が終わった後はコーヒーを淹れ、休憩スペースの屋根の下からじっくり大カツラを眺めました。幸いまだ普段ならやっと起きてくるくらいの早朝です。時間ならたっぷりある。何も焦ることなんてない。結局カメラを置いてからも1時間くらいはゆっくりしていたんじゃないでしょうか。
(今更ですがここは渓谷の奥地で携帯なんて当然圏外。クマ鈴は当然として、それなりの準備をして訪れた方が安心かと思います。)

推定樹齢2,000年。例え幹が朽ちようともひこばえを新たな幹として世代交代を繰り返すカツラにおいては何をもって死とするのか判断が難しいところではありますが、このまま渓谷の奥地で3,000年、4,000年と…人間が滅びることがあっても糸井の大カツラは何事もなかったかのように存在し続けることでしょう。

それにしても兵庫県の巨樹は本当に奥が深い。
巨樹不毛地帯の京都に住む者としては距離も忘れてついつい足が伸びてしまいます。

糸井の大カツラ
国指定天然記念物
樹齢 推定2,000年
樹高 約35m
幹回り 19.2m

 

4件のコメント

  1. 出た!!
    to-fuさんが兵庫県を攻め始めた以上は、いつかここを目指すだろうと思っていました。
    カツラの中の王のような存在だと勝手に推測してます。
    もう見るまでもなくスゴイ巨樹だとわかっています。
    それでもこの記事を見ると、興奮してしまいますね(笑)。

    たった一本の巨樹を見るがために、遠路はるばる、しかも深夜出発し、早朝に突撃するという念の入れよう。
    いや、to-fuさんのその姿勢にも大袈裟ではなく感銘を受けましたよ。
    私的いつか絶対に見に行く巨樹リストに入っているんですが、さすがに気軽に行けるような場所でもないので、
    to-fuさんのように一番良いコンディションで見られるよう準備したいもんです。

  2. この壁のような幹と、地を覆う根……実直に永い年月を生きてきたことを見て取れる樹だなあと感じました。
    束になってそそり立って、全体像の写真では、驚くべき樹高も披露してくれてますね。実際に目の前で見たら、ずーっと視線をスクロールすることになるんだろうな、これ……。
    いち個体の巨樹を演じながら、確実に自らの勢力のみの森を構成しようとしている。カツラの生存戦略の力技にはいつもながら圧倒されます。
    他の樹種には真似しようもない、こうなったらもう奴を止められない。
    年月のせいか幹が分裂してきているようですが、そう、主幹を失ってからが本番だぜ。みたいな気概を感じます。
    また、これを育む水量と土壌は関東平野には絶対存在しない! とも思いました……。

    その樹にぴったりのコンディションで訪ねてみるのが一番!
    そうだよなと。生きている樹を見に行くのですから、そこに注目しないでどうする? という大事なことを思い出した気分です。
    樹によって最高の状況はどれなのかを考えてみるのもまた面白そうですし、この梅雨の季節の価値観がぐっと増すことにも繋がりますね。
    うーむ、そうするとまた車中泊旅行をやめるわけに行かなくなってしまう……笑。

  3. > RYO-JIさん
    近畿圏のカツラの巨樹の中ではきっと王の中の王ですよね。
    王に謁見する以上は失礼の無いよう、万全な状態で臨みたかったんです。
    しかし早朝に到着したものの地獄のフタが開いたかのような落雷で唖然としましたよ。
    俺の苦労は一体何だったんだと。

    ここは本当に見に行く価値あると思いますよ!
    さすが山奥だけあって巨樹を抜きに考えてもなかなか素晴らしい景観でした。
    こんなところをロードで疾走したらさぞ気持ち良いんだろうな…と羨ましく思いました。

  4. > 狛さん
    そうなんです。人間の目って優秀な超広角レンズだと思うんですが、この肉眼レフをもってしてもスクロールしないと全体を把握することが出来ないくらいの巨大さでした。たった100年ぽっちも生きられない人間には想像もできませんが、仰るようにカツラの場合は主幹が寿命を迎えてからがむしろ生命体としての本領発揮なのかもしれませんね。

    僕も釣りに行かなくなってすっかり車中泊から離れてしまいましたが、深夜の山道を走っていると何で俺はこんな馬鹿なことをやってるんだろう。もっと早く出て道の駅ででも寝りゃよかったのに…なんて後悔しました。1泊前提で考えたら時間に余裕が持てますし、行動範囲も結構広がりそうですね。

to-fu にコメントする コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。