和歌山県日高郡日高町 産湯のアコウ

SONY α7RIII / SONY FE 24-105mm F4 G OSS SEL24105G

国内では主に九州や四国の南部で見られるという亜熱帯性の植物アコウ。その北限よりも北に住む者としては、どうしても優先的に回ってしまうことになります。自分の生活圏内ではアコウなんて見たことも聞いたこともありませんから。県天指定の「龍王神社のアコウ」から車で少し進んだところにまた別のアコウの巨樹が生えているということでやって来ました。日高町指定天然記念物「産湯のアコウ」です。

遠目に眺める限りではちょっと大きな普通の木という印象しかありませんでしたが、近付くにつれてその全容が明らかになってきました。あのヒゲ根…ええ、私には全く馴染みのないこの南国感。間違いなくアコウです。

側に解説板が立っていたのでまずはこちらを眺めることにしましょう。天然記念物ではありますが、アコウの凄さが認められたというよりも町の記念樹としてたまたま目立つこのアコウが指定された、というのが実情であるようです。

横に枝葉を伸ばす盆栽のような龍王神社のアコウに対して、こちらは自然に在るがまま空へと背を伸ばす正統派なストロング・スタイル。それなりに大きく立派な巨樹ではあるのですが、龍王神社のアコウのあの壮絶なまでの締め殺し感を見てからだと少し物足りなく感じてしまった、というのが正直な感想です。余所者の私がアコウに期待するのはあのえげつない締め殺し感、自然界の容赦の無さのようなものなんですよねえ。こちらのアコウはやや控えめな印象を受けました。

自身に絡みつく根?枝?敵も味方も分からずただ視界に入った標的を手当たり次第に捕食する、そんなB級映画に出てきそうな知能の低い原生生物を思わせます。ええ、見応えが無いわけではないんです。ただアコウにしては控えめすぎるのではないか、なんてろくにアコウの何たるかも知らない自分勝手な私は感じるのです。もっとこうドロドロした、昼ドラのようなエグさが欲しいんですよ。

それにしてもとんでもない植物ですよね…じっと眺めていると、こいつは一体何を目的として生きてるんだろう、なんて考え始めてしまいます。相手を締め殺した後は新たな養分を得るために己の幹を締め殺して…一体何がしたいねんお前は。まあアコウさんサイドも向こうは向こうで、こいつ俺の写真なんか撮って一体何がおもろいねん、なんて思ってそうではありますが。

巨樹あるある、根本に放棄された大量の瓦。仮にも天然記念物なのだから止めていただきたいものです。こういうのを見てしまうと悲しい気持ちになります。

道路に面しているため枝が剪定されていることは仕方ありませんが、それでも何だか力ずくでへし折ったような跡も見られたり、あまり大切に扱われているようには感じられませんでした。地域の誇りの木というよりは、ただそこに生えている大きな木という感覚なのかもしれません。

広島県の尾道とか愛媛県の宇和島とか。海沿いの集落によくある風景。細い路地、石垣、風に強い平坦な作りの家屋。集落の雰囲気によく溶け込んだ巨樹だと思います。

大昔、まあ誰にでもそんな「はしか」のような時期があると思うんですけど、仕事でちょっと心を病んでいた時期がありまして…そんな時期に海沿いの集落やマイナーな離島を撮り歩いていたことがあるので、昔を思い出してちょっと懐かしい気持ちになりました。こういうところをぶらぶら歩くならやっぱりデジタルカメラのテンポよりもフィルムカメラのスローさが合うんだよなあ。36枚撮ってのんびり巻き上げて、そこらにちょっと腰掛けてフィルムを交換して…ああ、久しぶりにそんな旅もしてみたいですねえ。

青空に映える立派な立ち姿。ちょっと地味だし扱いも丁寧とは言えませんが、こうして眺めてみるとこの巨樹はそんな現状を悪く思っていないようにも見えてくるから不思議です。訪問される際はシーサイドうぶゆさんという宿を目的地に設定して来ると分かりやすいかもしれません。ただしご覧の通り少し離れないと駐車スペースが無いのでご注意下さい。さあ、そろそろ車を停めた「産湯のアコウ 2」の近くへと戻ることにしよう。

2018/12/18訪問
「産湯のアコウ」
日高町指定天然記念物
樹齢 推定400年
樹高 15m
幹周り 7m

和歌山県日高郡日高町産湯150

4件のコメント

  1. 「2」があるところまで、B級エイリアン映画そのままじゃないですか。笑
    ほんとアコウは、これをタイムラプスで見たらどれだけエグい映像が見られるか、ゾクゾクしてしまうような樹ですね。
    普通の樹の形に育ってしまうともはや物足りないとはいえど、全体像を見ると独特な樹形。
    殺しても死なない、俺はどんな風にでも生きられるんだぜ? というような、むしろ挑発的な主張を感じました。
    そういうところもいかにも南国。ゆえに、僕もまだ直には見たことがないし、ある意味で憧れもちょっと感じますね。

    そんな樹が生えているところへふらりと行ったら、なんとも言えない異郷感を味わえそう。
    旅館で晩ご飯を食べたら、見たこともない魚が出たりするんだ。
    車でしか行けないところも多いですが、たまに自分の足で自由気ままに彷徨いたくなりますね。
    そういう時は、うーん、やっぱりフィルムカメラ、もう一度いじりたいですねえ。

  2. > 狛さん
    亜熱帯ゾーンの方々は本当にエイリアン感ありますよね。
    通称「締め殺しの木」ってもうその通り名からしてヤバい奴ですし。
    ETのように友好的なタイプの宇宙人では無さそうなので、数千年後にはきっと人間に反乱を起こす時が来るはずです。

    南国はいいですねー。スーパーを見てるだけで楽しいです。そうそう、え?これ食うの?みたいなエキセントリックな
    魚類が置いてあったりして。電車とか船とか、あの無理やり受動的に景色を眺めさせられているような時間も人生には
    大切なのかもしれません。車や自転車は気ままですが、積極的に攻めすぎてしまうきらいがあるのでスローな旅行には不向きです。
    次の電車まで1時間か、ちょっとぷらぷらしてみようかな…というところから生まれる思い出もたくさんあると思うのです。

  3. このアコウは立地場所が悪いですよね。
    住民にとっては邪魔なデカイ木くらいにしか思われていないのでしょう。
    和歌山ではアコウなんて別に珍しくもないでしょうしね。
    そういう意味でもちょっとばかし可哀想な存在です。
    樹勢はとても良かったので今後も更に大きくなりそうですが、そうなると更に邪魔もの扱いされそうです。
    締め殺しの木などという物騒な別名を持つアコウとは思えないくらいに何だか不憫ですねぇ。

    一方のその殺し屋感満載だという「龍王神社のアコウ」が気になって仕方ありません。

  4. > RYO-JIさん
    本当に邪険に扱われている印象しかありませんでした。
    ええ、あまりに大きくなると確実に切られてしまうだろうと思われます。
    (ただ…そうなるよりも前に、あの産湯の集落から人間がいなくなる方が先かもしれませんね。)

    龍王神社のアコウは登場シーン含めて素晴らしかったですよ。
    県天ですがサイズはこの産湯のアコウに劣ります。
    実は和歌山で撮った巨樹写真があまり気に入っていなくて記事にしてこなかったんです 笑
    私も再訪したいんですが、うちからだと石徹白に行くくらい遠いんですよねえ…

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