再訪 兵庫県養父市 別宮の大カツラ

SONY α7RIII / SONY FE 24-105mm F4 G OSS SEL24105G

やって来ました「別宮の大カツラ」。今までに見てきた多くの巨樹の中でも特に印象に残っており、あの「石徹白のスギ」と同じく最低でも年に一度は通おうと心に決めている巨樹の一つ。まだまだ残暑が続く京都市内と比べると、こちらはとっくに秋真っ盛り。多くの着生植物に囲まれて森のような様相と化しているのは相変わらず。どれがカツラの巨樹なのだか分かりにくいかと思いますが、背が高く真っ黄色に黄葉したものがカツラの巨樹です。まさかの黄葉ベストシーズンでございました。

ベンチに腰掛けて朝食を食べながらカツラを眺める。カツラ独特の甘い香りがふわっと漂っていて、それだけでコーヒーが進みます。キンモクセイのようなはっとするほどの強い香りではなく、本当に風でふわっと香る程度の爽やかな甘い匂い。これは気持ちいい。センダンの花やトチノキの花。今回の秋のカツラの香りもそうですが巨樹巡りを始めてから本当に四季を楽しんでいるなあ、と改めて実感しますね。日本の四季を強く感じながら未知の地域を冒険できる。素晴らしい趣味だと思います(宣伝)。

見上げれば国内最大級の大カツラ、眼下を見下ろせば広大な棚田という何とも贅沢な空間。ここで現地の湧き水を使用した食後のコーヒーをいただけるなんて、世の中にこれ以上の贅沢があるのでしょうか。もうこの時点で来てよかったなあ…なんて軽い放心状態ですよ。

カツラは黄葉したかと思えば一瞬で散ってしまうイメージ。そういえば私も結構な数のカツラを回ってきたつもりですが、紅葉したものを見る機会は今回が始めてです。

この絵画のような風景…出来すぎでしょう 笑
もちろん写真も撮るんですけど目の前の景色を脳にインプットするのに精一杯で、興奮のあまり連射してしまうといったこともなく、ゆっくりと一枚一枚噛み締めながらシャッターを押したくなる。そんな空間でした。石徹白のスギなんかもそうなんですが、こういう巨樹と対峙すると軽快な一眼スタイルよりも大きな中判カメラを三脚に立てて丁寧に撮影するようなスタイルに憧れを感じるようになります。バシッバシッと丁寧に決め打ちしながら30枚くらい撮って帰る、みたいな。ここまで静謐な空気が流れていると、いかんいかん巨樹に対して失礼の無いよう振る舞わねば…なんて考えてしまうんですよね。

既に主幹が朽ちているため巨樹ランキングからは除外されている「別宮の大カツラ」。が、ことカツラの巨樹に関して言えばレギュレーションから外れてランク外になったところがようやくスタート地点な印象。まあ、この巨樹を目の前にして所詮はランク外の巨樹でしょ、なんて感じる方はいないと思いますが。美しい。とにかくその一言に尽きます。

根本には山から流れ出す湧水が数本の水路を作り、田植えの時期が来ると眼下に広がる棚田を潤しています。巨樹案内板の真横ではこの湧水を汲めるように整備してあって、私もそこで水を汲んでコーヒーを淹れたわけです。もちろんそのまま飲んでも美味!でした。

根本にもベンチが置かれ、真下からカツラを見上げることもできます。

真下から眺める。迫りくる壁のような迫力。そして青空に黄色が映えますなあ。

一見ひょろ長くて不安になる幹ですが、数々の台風や毎年降り積もる大雪をものともせずに逞しく生き続けているわけですから驚くより他ありません。ちなみに敢えて風が強い日に訪れてカツラの幹がギィ…ギィ…と軋む音を聞く、というのも迫力があって個人的には結構おすすめだったりします。撮影には不向きですけれども。

6時半頃コーヒーを飲みながら眺め始め、気がつけば8時頃までうろうろしていたようです。山の陰から強い朝日が射しはじめました。陰影が強く出すぎてしまうので撮影には向かない時間帯ですが、巨樹を眺めるならこれはこれで美しい時間帯。しばしぽけーっと眺めます。

カツラを離れて棚田を眺め。

そして今度は氷ノ山を眺める。

鮮やかな緑、スコーン!と抜けるようにコントラストの高い青空が味わえる油絵のような春夏の別宮も捨てがたいけれど、いぶし銀的な趣のある秋の別宮も同等に素晴らしいものでした。

過去の訪問記はこちら。樹齢や樹高等の詳細はそちらをご参照下さい。

4件のコメント

  1. 北海道や東北では、白骨化した部分や派手に損壊した部分をあらわにしながらも、反対側でどんどん株を大きくしているものが印象に残っていますが、その点、この「別宮の大カツラ」は野生味よりも美しさが優っていますね。
    見比べてみると、葉の色のおかげで秋の方がさらに幹のしなやかさが引き立って見える。
    ほんと、こんなバランスでどうして天高く伸びて維持できるのか、強度や粘り強さの面でも驚異的です。
    この根幹の巨大さと幹のアンバランスさは、一枚の写真としてとても絵になりますね。
    撮るの、腕が必要そうですけど、何度も足を運んで、唸りながら取り組んでみたい。
    新緑、黄葉、ベストな時期を考えてしまうと、ほんとソワソワしてしまいますね。

    僕も全く同感で、始めた頃はただ撮り甲斐のある被写体を求めて巨樹を選んだという感じでしたが、今は、巨樹と同じ時と場所に居合わせるという体験の方が勝っています。
    写真は、そのとんでもない存在感にできるだけ立ち向かうための道具であり、遠くて険しい道をあと一歩進むために必要な理由をくれるもの、という感じです。
    巨樹を目印にして旅をし、探検する。それが積み重なって、ひとつのライフスタイルのようになりつつあります。

  2. 一枚目の写真がすべてを物語っていますよね。
    to-fuさんのポーズがもう最高だと全身で表現してますもの。
    カツラ、黄葉、香り、周囲環境、空気、コーヒー・・・もう全部。

    私も最近思うんですよ、巨樹は枚数撮るんじゃなくてじっくりその場を楽しむべきなんじゃないかって。
    写真も手持ちでワシワシせわしなく撮るのは控えて、三脚でしっかり構図を決めてゆっくり撮るのが心地いいんですよねぇ。
    そうなると中判カメラなんかピッタリかもしれません。

  3. > 狛さん
    そうですね、こちらでも「糸井の大カツラ」なんかは巨大で逞しい印象ですが、この別宮の大カツラは美しい巨樹です。
    たくさんの植物に寄生されて生きるだけの逞しさを持ちながらも、女性的でどこか優雅な雰囲気があります。
    前回も含めて結構撮ったつもりなんですけど帰って見返してみるとああ、同じようなカットばかり撮ってしまったなと 笑
    次回は超広角と単焦点の二刀流で臨んでみようか…なんて今から色々考えています。
    この辺りは冬の雪景色も美しいはずなので、真冬にも訪れてみたいんですけどね。到達できるかどうか。

    仰るとおりで、僕も始めたばかりの頃はただひたすら撮って良い一枚を!みたいに向き合ってましたが、最近になって
    ようやく少しずつ巨樹と向き合うだけの余裕が出てきたかもしれません。その場に居られることに喜びを感じますね。
    件の番組で倉本氏が巨樹との対話について語っていましたが、きっと最終的にはああいう風になっていくんだろうなと思いました。
    最後のディレクター?の質問は僕も愚問だなオイと感じましたが番組の趣旨を考えるとその話題で締める以外に無く、彼もちょっと可哀想な気がしましたね 笑

  4. > RYO-JIさん
    大自然の中に立つと全てを解き放ちたくなりますよね。
    RYO-JIさんも書かれていたとおり、周囲に誰もいないことを確認してからでないと相当ヤバい奴になってしまいますが 笑
    コーヒーについては野立て用に小さめのミルでも購入しようかと思ってます。豆も現地の焙煎所で購入したものを楽しんだり。

    どうしても初回はガシガシ撮ってしまいますけど、特に再訪した巨樹くらいはじっくり向き合って撮ってみたいんです。
    我々全員が元々スナップ畑の人間なのでどうしてもスナップ的な撮影になってしまいますけど、それこそポートレートを撮る
    くらいの気持ちで、天候や時間帯、光の射し方なんかを気にしながらとことん向き合った先にも、今とは違った世界が
    広がってるのかもしれないな…なんて考えたりもします。人生まだまだ長いので、色々試しながらやっていきたいですね。

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