再訪・京都市右京区片波川源流域 平安杉

PENTAX K-1 / PENTAX HD PENTAX-D FA 24-70mm F2.8 ED SDM WR

今までに何度か「伏条台杉群生地」全体では記事にしているのですが、そういえばこの群生地の中でも最大の巨杉「平安杉」を単体で扱ったことがなかったので今回改めて写真多めでまとめてみようと思います。

幹周なんと15.2m。大物揃いの群生地においてもヌシの風格があります。地上2mの辺りで切り株状態にする、そうすることで数本の幹が生じるので百数十年待ってそれらを刈り取る。で、今度はより太い幹が数本生じて…ということで、一本の杉の木から何本もの立派な丸太を刈り取る手法として生み出されたのがこの伏条台杉。

時を重ねるうちに伏条台杉の需要もなくなり、この山奥に数百年放置されたものが現在の姿なのだそうです。いわゆる普通のスギは伐採するとそこで命が途絶えてしまうはずなので、切り株状態からでも成長できるのはアシウスギ固有の特性なのでしょうか。

野性的にグネグネと身を捩りながら日光を求める大枝。

足元には朽ちて折損した大枝が。この枝だけでもそこらのスギよりずっと太い。

これだけの大きさなので当然ですが凄まじい迫力。大枝の麓をくぐる際なんか、もし今これが折れたら自分は確実に即死だよな…と緊張が走ります。

これ凄いなあと驚いたんですが、折損した平安杉の小枝が地面に根を張って成長してるんですよ。で、その小枝の折損部分からゴッソリ丸ごと別の着生植物に乗っ取られてしまっている、という。折れた小枝がそのまま根を張って復活するのも凄いし、それを丸ごと乗っ取るのも凄い。野生のえげつなさと言いますかね。見ていてちょっと感動してしまいました。

折れようが朽ちようがスギはあまり気にしていないように見える。この森のヌシ、平安杉と言えどこの森の一部に過ぎない。スギ自身がそれを理解しているように感じられました。

一見健康そうな大枝ですが、その一本には大きな亀裂が生じていました。そう遠くない将来に亀裂から腐って崩れ落ちてしまうかもしれません。しかし何となく、この森に関しては自然に任せてしまった方がいいのではないかという気がしてなりません。一度人の手から離れたこの地は、このまま自然に還した方が良いのではないでしょうかねえ。

全国の巨杉ランキングでも上位に名を連ねる平安杉ですが、実際のところスギとしては産まれて間もない頃に主幹をバッサリ切られてしまっているわけですから、そのとてつもない数値ほどのサイズ感、巨大さは感じないのではないかと思います。この異界のような空間で1,000年近い時を生きる平安杉。当然ながら凄い巨樹です。しかしこの地には平安杉に匹敵する伏条台杉の巨樹が本当に数多く存在するのですよ。それらをまとめて異形の巨樹群として「木を見るのではなく、森を見る」のが正しい見方であるような気がします。

このスクリームのお面みたいな方とか。

ひとくくりに「スギ」と呼ぶのが間違っていると感じるくらい個性的な巨樹たちが揃っています。

何度行っても飽きないんですよねえ。

丁重に扱われる御神木のスギにだって素晴らしい巨樹はたくさんある。しかしたまには人の世から隔絶された世界で生きる、荒々しい野生のまんまのスギの巨樹を見るのもいいものです。ただ、ツキノワグマの生息地だったり万が一滑落したら復帰が絶望的なポイントもあったりと、訪問を積極的にオススメするわけにもいかない場所なので…少なくとも初回は絶対に単独ではなく複数人で訪問した方が無難だと思います。くれぐれも事故の無いようお楽しみください。

2020/3/9訪問
「平安杉」
京都府天然記念物指定地区
樹齢 約800年
樹高 主観では30m程度
幹周り 15.2m

4件のコメント

  1. ここが京都市内だというのが信じられないですね。
    いや、市外だったとしても、自分が知る山の雰囲気ではないです。
    不気味な異世界に迷い込んでしまったような気になってしまいそうですが、
    実際にこの地に立ってみないとその本質はわかりそうもありませんね。
    平安杉をはじめとする巨樹を見たいですが、ここの世界を肌で感じてみたいです。
    ええ、もちろん訪問時はto-fuさんにガイドをお願いしようと思ってますので、その折は何卒・・・(笑)。

  2. RYO-JIさんに同じく、京都のイメージをぶちこわ……いや、いかに自分が東端にしか生きていなかったかを思い知りました。
    何度、どんなコンディションの写真を見ても、すごくエキサイティングです。
    この杉たちにはやはり獰猛な野獣の血が流れていると思えてなりません。
    行ってみるとほんとそうですね、「どれが」という感じではなく、どれもが強烈。すごい圧力で忘れられません。
    人の営みが樹の野生を利用しさらに影響を与えたのだとすれば、人も負けじとえげつない。
    日常味わうことができない感じをバシバシ受けることができる森。僕ももう一度訪ねたいです。

  3. > RYO-JIさん
    市内中心部から車で1時間以上かかるというのもありますが、ちょっと別世界ですね。
    身近なところにこんな大自然が残っているというのはちょっと嬉しくなってしまいます。
    すぐ側は京大が管理する原生林になっていて、そちらは無許可で立ち入りできませんが本当に太古から続くままの形で
    原生林が残っているそうです。一度行ってみたいんですがガイド必須なんですよねえ。狛さんが来られる機会でもあれば
    ぜひ3名で予約したいところなんですが。カツラの巨樹なんかもあって巨樹的にも見応えありそうなんですよ。
    伏条台杉を訪問される際はぜひご連絡を!林道の奥なので前知識なしでは到達するのも困難だと思います 笑

  4. > 狛さん
    何が古都京都やねん!ですよね、これ。
    せっかく関東から来て下さっているというお客様をこんなところに連れて行く馬鹿野郎は私くらいだと思います 笑
    本当に野獣ですよね。周囲の動植物を牽制するためにこの姿に進化したと言われた方が納得できてしまいます。
    我々が訪問してから良くも悪くも随分と人の手が入った印象があります。道も多くのポイントが綺麗に舗装されてましたし。
    なんとなくですが、人が近寄りがたいくらいの環境で放置してあげた方がスギたちにとってもいいような気がするんですよね。
    周辺を切り拓いて保護したら弱ってしまったという縄文杉と、どうにもダブって見えます。
    是非また一緒に訪問できたらなと常々思います。あれから少しは場数も踏んだので、改めてあの頃をトレースしてみたいです。

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