徳島県板野郡北島町 円通寺のモッコク

FUJIFILM GFX50S II / FUJIFILM GF 32-64mm F4 R LM WR

ご覧のとおり「巨樹」と呼ぶには抵抗があります。古木名木カテゴリーとでも申しましょうか。
クスやスギなど巨樹の中でも特に大きな樹種ばかり眺めていると、感覚が麻痺してしまって基準もぼやけてしまいがち。
そう、腹がはちきれるほど焼肉を貪った翌日の朝食はシンプルなおかゆがいい。そんなおかゆ的存在です。

板野郡北島町。鳴門市と徳島市のちょうど中間、徳島阿波おどり空港からもまずまず近い立地にあります。
ええ、まさに前日クスやカツラの巨樹を数本見たことで軽く胃もたれしていた私が選んだ巨樹はこちらのモッコクでした。
驚き!感動!いえいえ、四六時中そんなにドキドキしてたら疲れて寿命が縮んでしまいそう。

経験の浅い頃はとにかくリスト上の数字が目立つものを片っ端から回っていましたが流石にもう私もそこまで若くありません。
ひとしきり大物と出会った旅だからこそ、最後はじんわりと胃を休めて帰路につきたいというものでしょう。

モッコクの巨樹…いえ、この大きさで巨樹と呼ぶのも何ですが、一応巨樹めぐりの一環として訪問しているため「巨樹」呼びのまま通させてください。
幹周1.85mながらこれでもモッコクとしては最大級のもので、徳島県内でも2番目の大きさを誇ります。

樹齢は500年。円通寺が現在の地に移設された500年前に記念樹として植樹されたと伝えられています。
本尊に安置される十一面観音立像とともに地域を守り続けていることから、古くから「観音樹」と呼ばれて大切に扱われているのだとか。
観音様と同列の扱いを受けているのだからすごいことです。

体毛のような着生植物がイイ。
お寺の外から遠目に眺めただけでは、まさか500年も生きる古木だとは誰も想像すら出来ないのではないか。
しかし近くで見てみると随分印象が違う。どうでしょう、巨樹特有の貫禄が感じられませんか?
樹皮の質感、風格などが数百年生きるクロガネモチに似ている。モチノキと比べると樹皮がやや暖色系か。
(雰囲気が似ていると感じただけで、あくまでモッコクはツバキ科モッコク属モッコク。モチノキ科のクロガネモチとは全くの別種です。)

このマッチョでマッシヴな幹よ…これが幹周2m未満の樹木だなんて信じられない。
ああ、これはたしかに500年だろうなあ。そう納得させられるだけの風格が感じられました。
こういうのはやはり実際見てみないとダメですね。書籍やWebの小さな写真ではあの迫力は全く伝わらないと思います。

いえ、もちろん私のこの写真含めて、ですよ?是非とも現地に赴いて現物をご覧ください。

モッコクという樹種自体あまり馴染みのあるものではなかったので、葉の形状や実など興味深く拝見しました。
これだけ樹勢も良ければ開花する時期の姿は間違いなく見事なものになるはず。
頻繁に訪問している徳島県だけに、機会があればまた立ち寄ってみたいものです。

カメラを持って周囲を歩き回りながら気付けば1時間…といった巨樹ではないと思います。
というか身も蓋もないことを言ってしまうと巨樹ですらない。

しかしなんでしょう。言葉にするのが難しいな。
「おお!すごい!!デカい!!」もいいですが「ふむふむ…ほう、なるほど。」も悪くないと思うのですよ。
ハリウッド超大作は当然すごい。でも映画好きを名乗るならそれしか観ないのって勿体なくない?みたいな。

徳島県に行って1本だけ巨樹を眺めて帰るならオススメできる巨樹ではありませんが、数本の巨樹をめぐるなら積極的にプランに加えてほしい巨樹です。
個人的には旅の締めの一本としてなかなか好印象でした。

2023/9/14訪問
「円通寺のモッコク」
北島町指定天然記念物
樹齢 約500年
樹高 不明(目測では約15m)
幹周 1.85m

徳島県板野郡北島町高房字居内51

4件のコメント

  1. モッコクは実家の近所の緑地や公園によく植わっているんですが、この樹種のことを何も知らないので、この際勉強するつもりで正座して拝見しました。
    なんだか地味な印象の樹だけど、数十年のうちにマツやサクラが枯れたり倒れたりしてる中で、モッコクだけはいつまでも元気なのが異様……この巨樹を見ると、その理由がよくわかる気がします。推定500年でこれくらいにしかならないとは。逆の驚きだ。
    山形で「万年杉(不変の杉)」というのを見ましたが、モッコクのことを知っていればこの樹も「観音樹」という別名が過ぎたものに感じなくなってきますね。
    ヒューマンスケールを撮るような大きさではないながらも、望遠系で切り取ったり細部を見つめたりすれば、相当な年月生きてきた凄みが確かに写し取れる。
    いや、でも、最後の引きの写真の姿、とてもモッコクには見えませんよ。

    よく知らないことをこの目で見に行ってみようとする、それもまた探訪ですね。
    きっかけを得て、実物を見て、少し深く知ることで、ぐっと味が出てくるような気もする。
    で、その味がまた案外、おかゆにしかないおいしさだったりするんですよね。

  2. > 狛さん
    モッコクはこちらではあまり見かけないんです。植物園や京都御苑に申し訳程度に植えてある程度で。
    サイズ的にはオリーブみたいに庭木として植えられているものしかイメージが湧かなかったので、樹木にまで育った
    姿が見られただけでも立ち寄った価値があったと思っています。立ち姿だけ見ると樹齢100年と言われた方が納得してしまう
    ような姿でしたが、じっくり見てみると相応の雰囲気があって、500年ってのも伊達じゃないな…と驚かされました。
    仰るように、こういう名木タイプは望遠系で細部を切り取る撮り方の方が合っている気がしますね。

    どこの地域を見てもそのエリアのイチオシ樹種ってわりと偏りがちなので、それまで見たものをリセットしてくれるような
    一本を間に挟むとより全ての印象が際立ちます。マツやカヤ、このモッコクのような抑え選手をチェックしておくことで
    長い遠征も飽きずに楽しめるのかなと。小さめのクスやスギにその役目を求めると、それはちょっと違うんですよねえ。

  3. こういったシブイ樹木を楽しめるようになるというのはまさに経験がなせる業ですね。
    お寺に用事があったとしても普通だったら素通り、もしくは案内板を目にして『ふ~ん』くらいがせいぜいかと。
    ましてや旅の途中の目的地として見に行くだなんてもう達人レベルですよ(笑)。

    しかし私も愛好家の端くれとして、『ほほう!これは一見の価値がある名木だなぁ』なんて思ってしまうし、
    焼肉ではなくおかゆ的存在を味わう喜びにおおいに納得させられました。
    モッコクは聞いたことがあるかなぁ?くらいの無知ぶりですが、500年の重みは是非ともこの身で感じたいものです。

  4. > RYO-JIさん
    初期の頃なら間違いなくスルーしていたであろう巨木ですね。
    大物巨樹とどちらがすごいかと言われたら間違いなく大物ですが、迫力とはまた違った面白さもあるのだなと。
    こういう樹木まで味わえるようになって趣味が一層奥深く、そして何より楽しくなったと思います。

    モッコク自体あまり見かけませんよね。それだけに初物として興味深く眺めることができました。
    四国で印象に残ったセンダンなんかもそうですが、今後どこかでモッコクを見たらこの四国旅を思い出すに違いなく、
    こういう樹木が思い出に残ることで今後の人生がまた少し豊かになるかもしれません。

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