愛媛県今治市大三島 生樹の御門(いききのごもん)

PENTAX K-1 / PENTAX smc PENTAX-FA 31mm F1.8 AL Limited
SONY α7RIII / SIGMA 24-70mm F2.8 DG DN | Art

今回は遠慮も躊躇もなく一発目から圧倒的インパクトを誇るビジュアルをもって押し通ることにします。趣味は巨樹めぐり…自信満々に言いながらこの巨樹を知らなかっただなんて、過去の自分はなんと愚かだったのだろう。やれやれ、人生の半分は損してたぜ。そんな軽口が冗談ではないくらいに、本当に言葉を失うほどとてつもない巨樹でした。「生樹の御門(いききのごもん)」。もう名前からして只者ではありませんね 笑

大山祇神社を参拝し「乎知命御手植の楠」を堪能した後は、すぐ近くの公園に移動して子供を少し遊ばせまして。そこで何やら案内板を発見。なになに、大山祇神社には奥の院があると。これはもちろん参拝しておくしかありません。先述のとおりこの時点では生樹の御門のことは全く知らなかったため、これがまさか巨樹であろうとは思いもしなかったわけです。

奥の院?いやいやいや。近付くにつれて否応なしにその常軌を逸した巨躯が視界にちらつくわけですよ。まさかなあ。他にも巨樹があるなんて聞いてないし。と、この辺りまで接近してしまえば流石にもう目の前の巨大なクスがレジェンドクラスの一本であることを認めないわけにはいきません。デカっ!何だこれ。隣でヨメも「ねえ。さっきのよりもずっと大きいんじゃないの?」なんて言ってますが、私の頭の中はもう「しまったー!公園に車を移動したときに家族写真用のカメラ(今回はK-1+31mmリミテッド)に持ち替えて来ちゃったよ…」とそれだけがぐるぐる回っていたのを覚えています 笑

恥ずかしながらワタクシ、この巨樹を存じ上げなかったのです。言い訳をするなら元々愛媛県の巨樹は比較的ノーマークに近い状態で、今回も旅行直前にいつもの巨樹サイトを少し見た程度だったものですから、その先人が訪問していなかった(あるいはまだ掲載していないだけの)この巨樹は完全に私のチェック網から漏れていたのでした。

それにしても本当にとてつもない巨樹です。推定樹齢はなんと3,000年。普通なら一笑に付したくなるような数字ですが、このクスの放つオーラは伊達ではありません。あの大山祇神社の「乎知命御手植の楠」も1,000年モノどころではない雰囲気を纏っていましたが、こちらは少なくともそこから一回り二回り以上は確実に長い年月を生きていると思われる。この場合の一回りって一体何百年なんだよ、という話ではありますが。完全な想像ですが、少なくとも2,000年は軽く超えているのではないですかねえ。

解説板に書かれていたとおり根本が大きなウロになっており、そこに奥の院へと続く石段が通されています。とても狭く見えるかもしれませんが、実際にはちょっとかがめば大人でも普通に通り抜けられる広さ。くぐり抜ける際の何か偉大な存在に抱きかかえられるかのような安心感を何と表現すればよいのか。

この巨樹はパワースポットとして名高いようなのですが、確かにこの場に立っていると巨樹からパワーを受け取れるという感覚も理解できるような気がします。個人的には巨樹から元気をもらうという感覚はあまりなくて、偉大な存在に触れて自分がとてもちっぽけな存在に思えることで「何だよ俺の悩みなんてチリやホコリみたいなものじゃないか。」と細かい不安がどうでもよくなってしまう…そんな経験の方が多いような気がします。まあ巨樹もイキモノですから、人間対人間と同じで相手から何を感じるかなんてのはそれこそ十人十色で当たり前。正しい答えなんてどこにもありませんから、人それぞれということでいいのではないでしょうか。巨樹からパワーをもらうという方々を否定するつもりはこれっぽっちもありませんのであしからず。

さて。一応多めに写真は撮っていたのですが時間帯が悪かったこともあり、朝日が強すぎて納得できる写真が全く撮れませんでした。天候が良すぎたというのも巨樹撮影的にはマイナスでしたね。あまりにも陰影が付きすぎてまともに撮影できませんでしたから。まあ、また次回だな。今回はここに来られただけでも十分に満足だと納得して次なる目的地へと進むことにしたのでした。

ところがまさかの二日後に再訪するチャンスが。家族の協力に感謝。今回は巨樹撮影用のズームレンズを携えてやってまいりました。

雨宿りするムスメ。それにしてもなんという着生植物か。その表情はいかにも温暖な瀬戸内のクスといった風情で、どことなく南国感を感じます。近畿圏の神社なんかでクスを数百年放置したとしても決してこのような姿にはならないのではないでしょうか。

徐々に雨脚が強まり、いつの間にか土砂降りに。薄くもやがかった風景の中で静かに佇むクスの立ち姿が神々しい。

ウロを抜けた先、つまりは奥の院側から臨む。巨大なジャングルと化していてクスがどこにあるのか全く分かりません。

うーん…引いて見てもよく分からないな 笑

この森の長のような姿を見て、以前友人の狛さんに案内していただいた千葉県の「府馬の大クス」を思い出しました。背中にもじゃもじゃと毛が生えたような主幹は府馬の大クスっぽい。(あちらはクスではなくタブですが。)

どう撮ってもこの迫力は伝わらないだろうな。早々にそう思ったため、全体像を捉えることよりはむしろ心を惹かれる箇所をピンポイントで記録する方向で撮影することにしました。縦横無尽に広がる枝葉が美しい。

どこまでがクスの緑で、どこまでが着生植物の緑なのか。そんな境界は数百年前に、あるいは千年以上も前にとっくに失われているように見えました。まるでこの島の生命を懐に抱え込んだ方舟のようなおおらかさ。旅に出て、このクスのような一個体の生命から昇華した神の如き巨樹と出会う。これぞこの趣味の醍醐味ではないかと。ああ、本当に来てよかった…帰ったらまた仕事を頑張ろう。そう感じられる旅って素晴らしい経験ですよねえ。新型コロナウイルスの流行があって気軽に旅に出られなくなってしまった今だからこそ、しみじみとそう思うのです。

このまま1時間でも2時間でもこの場で眺められそうなのですが、家族が雨の中待ってくれているのでそうもいきません。たぶん撮影時間は10~15分程度しか取れなかったのではないかと思われます。写真では伝わりにくいと思いますけど現地はものすごい大雨で、突然AFが効かなくなったりとカメラにも不調が出始めてたんですよね…タオルで拭き拭きしながら撮影するのもそろそろ限界か。名残惜しいところですが今回はここで引き上げることにします。

今度は一人でのんびりと。それこそ近くの旅館や民宿にでも泊まって、時間を気にすることなくゆっくり再訪したいものです。文句なしの素晴らしい巨樹でした。大山祇神社とこの生樹の御門。巨樹愛好家ならこの大三島だけでも十分しまなみ旅行の元が取れてしまいます。ああ、また行きたいですねえ。

2020/3/25・3/27訪問
「生樹の御門」
愛媛県指定天然記念物
樹齢 伝承3,000年
樹高 10m(引いた立ち姿から見るに15~20mくらいはありそうです。)
幹周り 15.5m

愛媛県今治市大三島町宮浦3202

6件のコメント

  1. 出ましたね!
    というか、これの存在を知らずにたまたま出会えたというto-fuさんの幸運に驚きました!
    さぞかし普段の行いが良い方なんだろうなぁと(笑)。
    いや、実際巨樹愛好家の嗅覚が何かを感じ取ったのか、あるいは大山祇神社の神様が引き合わせてくれたのか、
    はたまたこのクスがto-fuさんを呼び寄せたのか・・・いずれにしてもとてつもない素晴らしい出会いだったことが想像できます。
    予期せぬ場所でレジェンドクラスの巨樹ですものね。

    このクスに関してしっかりとマークしていた筈の私ですら、この写真を見て驚きました。
    乎知命御手植の楠がメインで、こっちはまぁせっかく近くまで来たんだし寄ってくか的な巨樹と思っていました(失礼過ぎ)。
    諸先輩方の写真を拝見し、樹齢は相当古いものの生命を感じない程に朽ちていると印象だったもので。
    ところが全然違うじゃないですか!
    一枚目の写真を見て、目玉が2ミリは飛び出ましたよ。
    めちゃくちゃ活き活きとして、パワーが漲っているじゃありませんか。
    島独特の風土からくるのでしょうか、湿度を帯びた圧倒的なオーラのようなものを感じますね。

    うーん、早く見に行きたくて仕方ないです。
    むしろ目に毒です(笑)。

  2. > RYO-JIさん
    いやー、そうですよね。本来であればこのエリアを訪れるなら知っていないと論外!な巨樹なんでしょうね。
    でも好意的に解釈すると、仰るようにそのおかげでこの巨樹とたまたま出会うという衝撃を受けられたわけで。感動モノでした。
    この趣味をやっていると、どうも引き寄せられたとしか思えないような偶然が結構ありますよね。
    巨樹のカミサマに感謝。もう大山祇神社には足を向けて眠れません。

    この姿を見ると、いくら距離が近いと言えど近畿と瀬戸内では気候が全く別モノなんだと実感します。
    植物が放つ活力みたいなものがもう完全に亜熱帯側のそれなんですよね。RYO-JIさんが昨年掲載されていた南国の巨樹たちに
    近いものを感じました。もう眺めているだけでも面白いし、写真を撮り始めると止まらなくなってしまいますねえ。

    大三島は絶対に再訪しなければと心に決めています!
    次回はやはり自転車でのんびり巡りつつ大三島に宿を取って、最低一日はここでゆっくり過ごしたい…
    そんなプランで考えてるんですけど、自転車旅の場合どうしてもネックになるのが撮影機材ですよね。
    流石にフルサイズ一眼で一度撮ったものをコンデジで撮り直したところで納得できないだろうし、悩ましい問題です。

  3. 偶然こんな巨樹にたどり着いてしまうとは……最高に興奮する一日だったことでしょうね。
    いやもうほんと向こうが呼んでくれたのに違いありませんね。
    なんて出来過ぎな……と思うんですが、じゃああの時のはどうなんだ? という経験が自分の中にもあります。
    なにアレ? 嘘でしょ? みたいな登場の仕方をなさるんですよねえ。笑

    「生樹の御門」なんて仰々しい上に、名前に地名が入っていないところも珍しい。
    もしかすると、そのことがなお一層この樹を隠しているのかもしれません。
    しかし名前負けしていず、1枚目の写真から目が釘付けです! to-fuさん、多分走っただろうな。笑
    生ける古代遺跡のような根幹に、荒々しい生命感が同居しているこの姿、いきなり目撃したら頭がクラクラしそう。
    自粛疲れの今には刺激が強すぎるかも。笑 

    生ける門として内部に入れる。これもクスだから入ってみたいと思うのではないかなーと。
    裏杉、銀杏、スダジイ……他の樹種だと包容力よりも獲って食われそう感が勝りそうです。やはりこれはクス特有の徳みたいなもんじゃないかと思います。

    西日本にはこうした島の気候があるのがとてもうらやましい。
    巨樹の点と点をつなぐようにしてしまなみを巡ってみたいものです。

  4. > 狛さん
    事前に知っている、或いは凄いということが想像できている巨樹、例えば杉の大杉や加茂の大クスのようなとてつもない巨樹との出会い。
    それも素晴らしい経験ではあるのですが、え?こんなのあったの?という出会いもまた良いものですよね。
    地図とにらめっこして各個撃破していくスタイルも良いけれど、偶然の出会いは本当に冥利に尽きるところがあります。

    そういえばこの大三島の巨樹はどれも地名が入っていませんね。言われてみるまで全く気付きませんでしたが、確かにこれは珍しい。
    ええ、もちろんダッシュですよ。いい歳したおじさんが。ヨメはそれなりに「おぉ…」と感動していた様子でしたが、遊び回りたい
    子どもたちからすると、これはヤバいものを見つけちまったぜ…と半ば呆れ気味だったかもしれません 笑
    森のように巨大に成長する巨樹というと仰るようにスギやイチョウも挙げられますが、クスはそれらとは全く雰囲気が違いますよね。
    ケヤキも包容力があるけど、やっぱりクスはその最上位な印象。目の前でぽけーっと読書でもするなら絶対にクスの麓がいいです。

    西のおおらかな巨樹と東北の荒々しい、如何にも近くへアクセスするだけで一つの冒険譚が書けてしまいそうな巨樹。
    小さな島国なんて言われてますけど、いざ回ろうと思うと日本はメチャクチャ広いですよねえ。
    私もいつかは東北まで足を伸ばしたいものです。(次回そちらで合流する際は、中間地点の福島県を案内していただくのも… 笑)

  5. 奥の院、行けばよかったと記事を拝見してつくづく思いました。
    すごいですね・・
    足元で一日中寝ていたいです。
    安定感からくる安心感というか、陽気さというか生命力というか、
    向かうところ敵なし感(もはや意味不明)がすごい。
    木というより、家みたい。
    大三島は遠いですけど、こんなの見ちゃったらもうダメです。
    再訪したいな~が、いつ行こうかなぁになるまで、
    たいして時間がかかりませんでした。(笑)
    予期せぬ出会いって、いいですよね。
    自分はいつもあまり事前に下調べせず参拝することが多いのですが、
    境内に巨樹がいた時の感動とか、
    予想外に社殿が素晴らしかった時の高揚感とか、
    やはりサプライズ的な出会いは、喜び倍増しますよね。
    その分、滞在時間が延びて、後の予定が押し気味なのが難点ですが・・。

    あ、ご報告遅れましたが、
    無事にカメラ届きました!
    本当にありがとうございました。
    とりあえず近所の氏神さんとこ行って少し撮ってみましたが、
    良いですねーー(>∀<)もう感動しました。
    さっそく首に掛けたところ死にそうになったんで、
    ナナメ掛けストラップにしたら随分ラクになりました。
    これからはこの子を片手に・・いや両手に、
    自粛明けとともに、ぼちぼち動き始めようと思います。

  6. > yuriyさん
    大山祇神社自体が広い上に見どころも多くて、さらには宝物館もあって…
    本当に全てを満喫しようと思ったら半日くらいはかかってしまいそうですよね。
    私も今回は駆け足でドタバタ回ってしまったので、次回こそはゆっくり堪能してみたいです。
    綿密な計画は良くも悪くもですよね。救われることも多いんですけど、それでもやっぱりトラブルや驚きがあってこそ
    思い出に残る旅になるというのも否定できず。まあ私なんか本当に適当で行き当たりばったりなので、他人から見れば自分から
    進んでトラブルに首を突っ込んでるようにしか見えないかもしれませんけれど 笑

    カメラ購入記、もちろん拝読しましたよ。いやー、自分のことのようにテンションが上ってしまいますね。
    首掛け?たすき掛け?それとも手首ぐるぐる巻きで手に持っておく?とまあ、どう携行するかは私も未だに決めかねているところです。
    本当に重いですよねえ。これで写りが悪かったらクレームものですよ。日々の筋トレになるのと、あとは女性の場合だと
    夜道で暴漢に襲われそうになっても一発で撃退できそう…いえ、あまりの重量で過剰防衛になってしまうかもしれませんが 笑
    まだまだ気が抜けませんが、それでも少しずつ日常を取り戻していきたいですね。お互い楽しみましょう!

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