石川県加賀市 栢野の大スギ

SONY α7RIII / SONY FE 24-105mm F4 G OSS SEL24105G

今回の巨樹探訪で必ず抑えておきたかった巨樹の1本です。国指定天然記念物「栢野(かやの)の大スギ」。ものの本で読んだ限りでは圧倒的な巨大さで驚かせるタイプの如何にも北陸らしいウラスギではなく、その神秘的な空気を味わうタイプの巨樹であるようで石川県上陸後、早朝一発目の巨樹はこのスギしかないだろうと考えていたのです。

鳥居をくぐると早速4本のスギの巨樹が出迎えてくれます。右奥のものが国指定天然記念物「栢野の大スギ」、その他の3本もそれぞれが「菅原神社の大スギ」として県の天然記念物に指定されています。比較的正統派といってもいい樹形をしており、こうして写真で見てしまうと本当に巨樹なの?とスケールが分からくなるのがもどかしい。幸か不幸か夜明け前の5時に現着したことで、夜明け前からこの菅原神社をゆっくり参拝することが出来ました。カメラを持って撮影を開始したのは日が昇り始めた6時を過ぎてからのことになりますが、それまでの約1時間、少しずつ事物の輪郭が際立ってくる日の出の様子を眺めていた時間は本当に贅沢なものになりました。この空間を訪れるならあの時間しかなかったと、今なら確信を持って言えます。

鳥居をくぐってすぐ、右側に位置する大杉。写真ではサイズ感が伝わらないかもしれませんが幹周8.8mの大木です。樹高も40mは超えるのではないでしょうか。4本の位置関係からどうしても奥の2本に目が行ってしまいがちですが、なかなかどうして。もし他の地に生えていたなら、このスギを見るためだけに訪問するような存在にだってなり得たかもしれません。写真は省略しますが左手前のスギは幹周6.65m。他の3本と比較すると見劣りしますが、本来であれば充分見応えのあるスギです。意図せず私の写真でも見切れてしまいましたが、この4兄弟の末っ子は兄(姉?)が皆立派なだけにちょっと可哀想な印象ですね。

とはいえ、ここのメインは間違いなくこの隣り合う2本の大杉でしょう。
栢野の大スギ、通称「天覧の大杉」。昭和22年に石川県で第二回国民体育大会が開催された折に昭和天皇がここ菅原神社を訪れ、栢野の若者の案内のもと2本の大スギを麓から仰ぎ見ました。その際に「天覧」の名を賜ったのだということです。

大変恐縮ではありますが、ここでワタクシも昭和天皇の気持ちになりきって天を仰いでみたりしました。

ああ…正直言ってこの感動を言葉で伝えることは出来ません。
いえ、私は右にも左にも寄っていないので、別に天皇サンがどうこうという話ではありませんよ?この大迫力はきっと写真でも言葉でも伝わらないと思うんです。超至近距離に天まで届きそうな大スギが2本。まるで巨大な壁に挟まれたかのような、その壁が自分に向かってじわじわと迫ってくるかのような(よく映画やマンガである古典的なアレですよ。神殿の宝物を手に入れた瞬間、扉に鍵がかかって壁がじわじわ迫ってくるアレ。)圧倒的な迫力。これは本当に頭がクラクラ来ましたね。まあこの地に立ったら誰もが同じように天を仰ぐだろうと思いますが、これは参拝する方には絶対に見ていただきたいですね。

夜の間だけ本殿が照明で照らされていました。巨樹側は照らされていないので大スギのライトアップというわけではないのですが、真っ暗な山中に浮かび上がる神社とぼんやり浮かび上がるスギの樹皮。これがまた言葉を失うくらいに神秘的な光景だったので、もし夜間ここを通る機会があれば是非とも立ち寄ってもらいたい。何より、出来ることなら自分同様ここで日の出を眺めてもらいたいんです。本当に感動しますよ。

案内板にはこの栢野の地の由来が書かれています。かの泰澄さんが「この大スギは百本の木に値する。」として栢野寺と命名したことから、この地を栢野と呼ぶようになったのだとか。泰澄サンご存命の頃には既に大スギであったと考えると、とんでもなく高齢な巨樹であろうということが察せます。伝承によると樹齢は2,300年。これは相当に盛っているなというのが正直な感想ですが、現地の空気を吸ってしまうと泰澄サンの伝承なんかが真実味を持って聞こえてくるのも事実なんですよね。

6時半を過ぎた頃には照明も落とされ、辺りはすっかり明るくなってきました。

境内にはいくつかの石製のベンチが設けられており、そこに腰掛けてゆっくりとスギたちを眺めることが出来ます。ベンチが樹木保護用の土壌にも一部設置されていた(もちろん柵の外ですよ)ので、スギが立つのと同じ地面に降り立ってみました。これがまたフワッフワの土にスギの落ち葉が敷き詰められた羽毛布団のような地面で、相当な愛情、下世話な話をすると金銭的なコストもかけられていることが窺い知れました。

明るくなったおかげで今度は細部までしっかり観察できるようになりました。暗いうちはひょっとしたら2本の合体樹なのでは?なんて思っていたんですが、二股に別れた1本のスギであるというのは間違いないみたいです。

いざ帰ろうと思うと本当に名残惜しい。だって、まだまだ撮れそうなんだもの。写真を撮り始めて気分が乗ってくると軽いトランス状態に陥ることがままありますが、この時もそんな状態になっていたはずです。

いや、こうして見ても凄い巨樹群ですよね。鳥居がやけに小さく見える。ここは一発目に来て本当に正解でした。次に来る機会があったら、やっぱりまた夜明け前に訪れることになると思います。

→ 2020/6/23 再訪しました。

「栢野(かやの)の大スギ」
国指定天然記念物
樹齢 伝承2,300年
樹高 54.8m
幹周り 11.5m

石川県加賀市山中温泉栢野町ト10-1

 

4件のコメント

  1. こういう堂々たる杉を見ると、確かにすぐにでも見に行きたくなってきます。
    遠方だろがなんだろうが、いや、むしろより一層感動が深くなるのでしょう。
    その光景を早朝から拝めるだなんて贅沢の極みですね!

    手前の杉でさえ8.8mの幹周だなんて、距離感がおかしくなってしまいそう。
    そして圧巻なのは、通称「天覧の大杉」。
    う~ん、写真を拝見しているだけの自分も言葉が出ない程に見とれてしまいます。
    北陸といえばウラスギのイメージしかないんですが、サイズは別にしてこれは見慣れた形。
    でも、だからこそ貴重な杉なんだと。
    そして2000年以上?もの長い間、雪なんかに負けない強さを秘めているのでしょう。
    いや、素晴らしい!

  2. > RYO-JIさん
    遠方の巨樹は次回いつ来られるか分からないという想いもあるので、やはり気合が入りますね。
    本音を言うとどの巨樹だって早朝の美しさを味わいたいですが、流石に無理があるのでどうしても厳選しなくてはいけません。今回は照準をこの巨樹に定めておいて正解だったと思います。

    近くに普通のスギなんかが生えていると比較しやすいんですけど、ここは4本全てが巨樹なので撮影するとどうしても全部普通のスギのように見えてしまいます。写真を見返していても、こんなもんじゃないんだけどなあと悔しく思いますね。樹齢2,000年オーバーは流石に眉唾ものだと思いますが、栢野という地名の成り立ちから考えても泰澄さんの時代から生きているというのはハッタリでは無いような気もします。

  3. ここはもう数値上でも肩書き上でもちっこい写真だけでも、巨樹を観る者なら意識せずにはいられませんよね。
    前回、ルート上不可能でなければ絶対寄っていたと思います。というか、次回石川を探訪するならメインに据えたいです!
    神社の様子からして巨樹への意識も見るからに高そうで、それに応えたように杉たちも健康そうです。
    ほんと、どれもが立派なので、例の遠近感錯視エフェクトが発生しておらず、逆に変な感じなのは驚きです。なかなか見られない光景なのでは。
    幹の姿にも見惚れますが、全体像を入れた1枚目の立派さ、トータルで感じる大きさがすごくいいなあと思いました。
    朝一番でこのような杉たちと、それらが作り出す空間・空気に飛び込んだりしたら、バッチリ目も覚めそうですね。
    血圧が低いのもあって……いや、こういう体験は忘れられないようなものになりますよね。笑

    樹齢2300年というのは、昭和3年の博士が見立てたんではないかと推測してみます(……と書いてから検索してみたら、そうだと出てました。笑)。
    生物学的にというよりは、ご時世的に皇紀を意識して逆算的に設定したような数字じゃないのかなと思いました。

    カヤがあったわけではなく、100本に等しいと泰澄サンが言ったから……という地名の成り立ちもすごい。
    こちらの方がむしろ大杉の生い立ちに対して説得力があるように思えてしまいますね。
    しかしこうも考えるのです。おのおのがた、「栢」という字がそれだけの意味であるとお思いか? と。
    泰澄サンが名付けたのであれば、なぜここは白山神社ではなく、十八番のお箸もぶっ刺していないのか?
    彼にとって尊い「白山」の「白」の字の上に一本引いた「百」という字を使うというのはなおさら奇妙ではないか? 
    そこに何か隠された意味が……もともと純粋に白山信仰だったものを、それを制圧したという意味を誇示しようとする者が「白山にフタをする」という意味合いで「百」としたのではないか?
    お箸2膳分を四角形にぶっ刺した挙句(中略)遡れば、もともとここに暮らしていた縄文の(中略)
    真の木である杉=栢であるなら白山が指し示すものはつまり……「柏」だよ!! 真実は千葉県の柏市にある!!

    ……というMMR並みの陰謀説を唱えようと試みましたが、元は「萱野」だったとか、「栢野」「柏野」が混同しててどっちでも良いとか、なんかそういうことみたいですね。
    すみません(人騒がせな上に役立たず)。

  4. > 狛さん
    石川県の巨樹を各々でランク付けするとしたら誰もが上位に置くような気がしますね。
    というか僕もびっくりしたんですけど、名だたる巨樹が県南に結構偏ってるんです。
    この日も決して狙ったわけではなく、後々になって気付いたら5本見たうちの4本が国天指定されているもので、美味しいところだけさっさと刈り取ってしまったみたいで少し勿体なかったなと反省しています。

    なるほど。やはり推定樹齢2,000年前後を意識しているものは皇紀に対して無理やり辻褄を合わせようというものが多いのかもしれませんね。こういうのもいずれレーザーだの赤外線だのによって、非破壊で簡単に正確な数値が分かってしまうんでしょうか。それはそれでロマンが無くて寂しい気もしますねえ。やっぱり神武天皇がナンチャラで弘法大師サンが箸をぶっ刺してと謂れが賑やかな方が、人間味が感じられていいですよ。

    泰澄さんも空海さんも後世に残されたこれらの伝承の類を見たら笑いが止まらないでしょうね。
    確かにせっかく泰澄さんが訪れて、ありがたく「栢野」の地名まで拝命したのであれば、そのついでにお箸や杖の何本かぶっ刺していってもらえばよかったのに、なんて思ってしまいます。きっと泰澄さんなりに大杉へのリスペクトを感じて、この地に箸をぶっ刺すのはやめておいたんでしょう 笑

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