岡山県勝田郡奈義町 菩提寺の大イチョウ

SONY α7III / TAMRON 17-28mm F/2.8 Di III RXD

近畿圏の立派なイチョウといえば兵庫県の「常瀧寺の大イチョウ」「作用の大イチョウ」のツートップではないかと思うのですが、近畿圏から少し飛び出して見てみると、それらと同等以上ではなかろうか?というくらいのイチョウの大物がいるのです。ええ、京都に住む私でもその存在だけは知っていました。それがこの「菩提寺の大イチョウ」です。

近くに前乗り車中泊して夜明け直後、早々にやってまいりました。そこは常識人のto-fuさんですから事前に奈義町の観光案内に電話して早朝の訪問でもOKだということを確認済みです。遠目にも分かる圧倒的な存在感。黄葉には少し早かったようですが、このイチョウに会えた感動の方が大きく、特に気になるほどのことではありませんでした。あのダイ・ハードな山道を登る必要がある常瀧寺の大イチョウと違って菩提寺の駐車場からは徒歩でほんの1~2分。ツキノワグマ出没地帯ということで注意が必要ですがお寺の方の住まい?が隣接するため早朝からチリンチリン鳴らして迷惑をかけるわけにもいかず、今回はノーガードで臨んでいます。

おお、まるで要塞や巨大ロボでも見ているかのような存在感。近寄るまでもなく遠景を眺めただけで遠路はるばるやって来た価値を感じてしまう、それだけ圧倒的な迫力があります。しかしながら賢明な読者様方におかれましては、この光景に何か違和感を覚えたのではないでしょうか。

まことに残念なことですが、今年の10月12日の台風接近による広戸風が原因で大規模な枝折れが発生。その傷跡が各所に見られ、ところどころ葉の付きが良くない箇所が確認できます。大事に至らなかったようで何よりですが、例年この時期に行われていたイチョウのライトアップが今年は急遽中止になってしまいました。

※「広戸風(ひろとかぜ・ひろどかぜ)」なる単語が初耳だったので調べてみました。那岐山の麓にある奈義町、勝央町、津山市のごく一部で吹く局地風。おろし風の代表例に挙げられる。日本三大局地風の一つとされ、過去幾度も甚大な被害を出している。

枝折れの被害もあってベストな状態での訪問とはなりませんでしたが、それにしても物凄い存在感です。この気根の数もすさまじいでしょう。もう液体かお前は!というくらいですよ。単純な数値上の幹周も相当なものですが、これだけドロドロと大量の気根が垂れ下がっている様はそれだけでも圧巻。一般的にギンナンを実らせることにリソースの大部分を割く雌株よりもギンナンが実らない雄株の方が気根が成長しやすいと言われていますが、例によってこちらのイチョウも雄株のようです。

国指定天然記念物ということで周囲を好き勝手歩き回ることはできませんが、こちらの小さな祠が安置されているところから直接幹に触れることができます。

この気根なんてもう数年も経てば地面に接触して根を張り始めることでしょう。そしてまた新たな幹として成長していく。お寺に植えられている事が多いイチョウですが、こうして傷ついては増殖し、それを繰り返して…という様子を眺めているとまるで一個体の巨大な生命が輪廻転生を繰り返しているようにも見え、どことなく仏教的な趣が感じられます。

こちら解説板のとおり浄土宗の祖である法然上人が菩提寺に入山の際、麓にある「阿弥陀堂の大イチョウ」の枝を杖にしたものをぶっ刺したものがこの大イチョウであるという伝承があります。これだけならまあ巷によくあるぶっ刺し伝説と何ら変わらないのですが、こちらのイチョウを平成25年に調査した結果、間違いなく麓の大イチョウと同じDNAを持っているということが判明したのだそうです。ロマンがありますねえ。(後日この「阿弥陀堂の大イチョウ」も記事にしますが、私感ではむしろ菩提寺の大イチョウの枝をぶっ刺して成長したものが阿弥陀堂の大イチョウなのでは…と感じました。言うだけ野暮なのかもしれませんが。)

ちなみに冒頭の写真の左裏に見えるものがこの町指定天然記念物「天明のイチョウ」。巨樹として見るとまだまだこれから…といったちょっと大きめの普通のイチョウではありますが、こちらも菩提寺の大イチョウと同じDNAを持つということが判明して町天に指定されています。かつて大雪で折れた大イチョウの枝が地面に接触し、そこから根を張って新しい個体となったものなのだとか。ムチャクチャな生命力ですよね、しかし。

祠側ではなくこちらが正面なのでしょうか。いえ、巨樹に正面も裏面も無いということは理解していますが。絵面的にどこが一番いいか?という話です。

ウッドデッキ上からしか眺めることができませんが、それでも言葉を失うほどの迫力。やはり遠征した先でこれだけの巨樹と出会えると嬉しくなってしまいます。それにしてもここまで大きな巨樹になると、言葉でどう凄いのかを無理に表現する必要がないので記事の執筆が楽ですね。凄いでしょ?実際見たらもっと凄いよ?と。それだけで充分。

どこをどう撮っても絵になってしまう恐怖。立ち姿がなんとなくカツラと似ているイチョウですがカツラは「柔」、イチョウは「剛」のイメージがあります。

高さも充分。間違いなく西日本を代表するイチョウの巨樹でしょう。(大きさだけを語るなら徳島県で見た幹周17.23mの「乳保神社のイチョウ」に負けますが、あちらは確かに巨大なものの失礼ながらイマイチ感じるものがありませんでした。)流石は個人的にハズレがない新日本名木100選にも選定されているだけのことはある。

どうでもいい話ですがこの日はカメラ2台で臨みまして、このa7III+17-28mmの他にa7RIII+24-105mmでも撮影してたんです。しかしうっかりミスでRIIIの方はJPGだけ記録する設定になっていたので今回は敢えて全部ボツにすることに。いや、これ撮影後に他所へ移動してから気付いたんですけど、失敗があってむしろ良かったと思うんですよね。だってこれでもう一度リベンジに来る理由が出来たんですから。来年も絶対に再訪するぞと既に心に決めました。

撮影を終えるとすっかり朝日も昇りきっていました。カメラ1台分の画像だけでも記事が書けてしまうくらいの枚数を撮影していたわけですが、本当にまだまだいくらでも撮っていられそうなポテンシャルを持った巨樹です。これでライトアップまであったらどうなっていたことか…

さて、同じDNAを持つという麓の「阿弥陀堂の大イチョウ」へと向かいます。

2019/11/14訪問
「菩提寺の大イチョウ」
国指定天然記念物・新日本名木100選
樹齢 推定900年
樹高 40m
幹周り 13m

岡山県勝田郡奈義町高円1532

6件のコメント

  1. 出ましたね、岡山を代表する存在だと認識しています。
    巨樹好きを名乗る者にとっては外せない一本じゃないですかね、これは。
    特に西日本に住んでいると憧れのように、いつか目にしたいと思ってしまいます。

    常龍寺の大イチョウもそうですが、この見た目のインパクトが半端ないですよね。
    液体か!に思わず笑ってしまいつつ、上手い表現だなぁと感心もしました。
    確かに他の樹種ではあり得ないイチョウ独特の姿でもあり、それが魅力でもありますから。
    台風による枝の大きな欠損は大変残念ですが、そこはイチョウさんのことですから、
    我々の心配をよそに遥かに逞しい生命力でもって更に生長していってくれることと確信できますね。

    いや、ほんとスゴイ巨樹ですね。
    車で側まで行けるのも有難いです。
    岡山に行く機会があれば、真っ先に向かう巨樹だと思います。

  2. > RYO-JIさん
    やはりRYO-JIさんもご存知ですよね。
    先人方の写真を見るだけでもスゴイ巨樹であろうことは分かっていましたが、いざ対峙すると予想以上に良いものですねえ。
    「常龍寺の大イチョウ」は今年の黄葉イチョウツアー第一候補だったんですが、実はRYO-JIさんのヤマビル奮闘記を読んで
    候補から一気に格下げされました 笑 今月末くらいならヒルも居なくなってそうですし、時間があれば行きたいものですが…

    高速に乗ってしまえばある意味兵庫も岡山もあまり変わらないので、そう考えるといずれ攻め入ることになりそうですよね。
    来年はライトアップするんでしょうか。近くにわりと安くてシャレオツなコテージがあったので、もしタイミングが合えば合流して向かって、イチョウのライトアップを眺めてからコテージで一杯…なんてやってみたいですねえ 笑

  3. 岡山ですか! スナップ旅行をフラフラしていた時分は広島は面白いけど岡山はつまんない、という印象があり、そう言えばそこにこそ巨樹を見るべし、ってところですね。
    そして、こんな素晴らしい威容を誇るイチョウがあるとは。確かにこれは無視できない。
    「イチョウは液体説」強く同意しますね。どれだけダメージを与えても殺せないぜ、な液体金属ターミネーター的なタフさ、そしてこの驚異のフォルム。ものすごい。

    横にこれだけ伸びて下方向に気根を伸ばす。それと同時に樹高方向にもこれだけ成長するんですから、自分で自分のバランスというものをどう考えているのか? 我々には想像できない世界で生きている生き物だなと思います。
    傷もありますが、全く不安にならないのもイチョウの良さですね。
    ほんと、すげえやべえとしか言いようがない。ってことは何を言う必要もないですね。
    数百年後、この石碑も手すりも、全てがイチョウに飲み込まれていそうです。そこまで余裕で生きていそう。
    DNA鑑定を行ったエピソードは興味深いですね。伝説を科学で裏付ける……なかなか興奮する手法です。
    実際に偉人によるぶっ刺しが行われていて、それが我々が見る神がかった巨樹となったなんて、うーん、出来過ぎか。笑

    方面感覚が一緒なのは羨ましい! いや、僕も行けばいいんですが、まだ北を目指しますよー!笑

  4. > 狛さん
    岡山沿岸部の漁村は結構風情があって好きなんですけどねえ。
    JR沿線なんかは私も同感ですげえつまんn…いえ、ちょっと微妙だと思います 笑

    イチョウって本当に不思議な植物で、一個体の中でもそれぞれの幹や気根が別の意志を持って成長しているように見えます。
    まさにターミネーターといった不死感も強く、もし古来の中国様が人海戦術で日本全国に大量のギンナンをばら撒いていたら
    現在多く見られる杉山なんかもイチョウに駆逐されていたのでは?なんて恐怖を感じます。そうなったらもう秋は臭すぎて
    外に出てる場合じゃあありませんよ。

    方向感覚は一緒なようで、実はアクセスしやすい方面が微妙に食い違ってたりするからややこしいんです 笑
    RYO-JIさんが訪問されていた「引作の大クス」なんてこちらからするとパスポート要るんじゃないの?くらいの感覚ですから。
    日本は狭いって昔から耳にするフレーズですけどメチャクチャ広いですよね。全国の巨樹を網羅してからもう一度言ってみやがれ馬鹿野郎、ですよ。

  5. 初めまして。
    支柱に支えられた枝にも見える幹は、かつて直立していたのではないかと思います。
    いつの頃からか傾きはじめ、重みで少しずつ倒れてきたのではと推測します。
    同じケースは、埼玉県浦和の真福寺で見ることが出来ます。

  6. > ぎんくご様
    はじめまして。貴重なコメントありがとうございます。
    なるほど。本来であれば成長しきった幹は自重で傾いて倒壊し、その幹に回っていた分の養分が直立する小さな幹に回って…というサイクルなのかもしれませんね。
    「真福寺のイチョウ」はいつか「与野の大カヤ」と併せて訪問してみたいと思っています。
    コロナが落ち着いた折には、是非とも浦和を目指してみます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。